〈建設グラフ2000年5月号〉

建設CALS/EC 企業間連携の提言

建設業界における企業間連携について

株)東芝 e-ネット事業部 e-ネット技術第二担当 瀬戸口 達也 氏

H5年4月〜H11年 鞄月ナにてシステム・インテグレーション業務
H12年4月現職
e-ネット事業部は企業間の電子商取引やネットワークを活用したIT事業分野におけるシステム・ソリューション事業に加え、アウトソーシングサービス、ASPサービスなどのサービス事業を推進する部門。2000年4月1日付で設置。

建設省が進める「建設CALS/ECアクションプログラム」は1999年度から第二段階に入っており、次々に情報共有・連携のための標準規格が整えられてきている。
この建設CALS/ECは発注者と受注者間の情報共有・連携のしくみだが、一方、企業同士の間でも情報の電子化、共有・連携の流れが起きつつある。建設業界では、JVの構成員間、建築主体と設備工事の会社間などの連携が想定される。
ここでは、サービスを提供する立場から、東芝の企業間連携の概念について提言をいただいた。
東芝ではSmartec Solutionという企業間連携のためのシステムとサービスを提供しており、建設業務に於ける企業間連携に必要な機能を実現する「建設業向けASPサービス」を今年度より開始する予定だ。また、下記のような建設業関係プロジェクトに参加している。

(株)東芝が参画している建設業関係プロジェクト
・建設省土木研究所総合技術開発プロジェクト実証実験に参画
・CADデータ交換標準開発プロジェクト(通産省3次補正プロジェクト)技術メインコンサルタント
・日本土木工業協会S-Project(施工現場業務改革に関するプロジェクト)に参画

1.はじめに
インターネットを使った電子商取引(ec:electronic commerce)が急速に普及し、ビジネス構造が変わろうとしています。
ここでは、さまざまな企業間連携のタイプを整理し、企業間連携のコンセプトを利用することで、建設業務がどのように変革するかに焦点を当てて、その概要をご紹介いたします。
2.企業間連携の概念
昨今のインターネットの普及や企業間の競争のグローバル化に伴い、電子商取引(ec)が急激に普及してきています。企業のecへの要望は業界や業務によって様々でありますが、弊社で整理したユーザーのご要望には次のようなものがあります。
(1) オープンな市場を使い売り上げをアップしたい。
(2) 安く品質の高い資材を購入したい。
(3) 図面/文書などを手軽に確実に受渡ししたい。
(4) 社外を含めてリアルタイムな管理を行いたい。
 これらの要望の意味するところは、インターネットのビジネスへの活用や、企業・官庁にとっての課題である業務の迅速化、建設CALS(continuous acquisition andlifecycle support/ commerce at light speed)などに代表される設備ライフサイクル管理手法の利用などです。その背景となるのは、顧客ニーズ/情勢の変化に対応するために、企業や官庁が最適なパートナを求め、迅速に連携して成果を出す、企業間連携の時代の始まりであるといえます。
 この企業−企業(または官公庁)間ECの方が、インターネットショッピング等の企業−消費者間ecに比べ、今後はるかに大きな取引額となることが予測されています。通産省の報告では、2003年には企業−消費者間の22倍になるといわれています。

(文献(1))
これらの状況を踏まえ、弊社では企業間連携のタイプを分類しました。表1に大きく5つに分類した企業間連携のタイプを示します。
企業間連携のタイプ説明連携度合
情報提供型企業間で一方が情報を提供するだけのタイプ
伝票受渡型企業間で帳票データの受渡しを行うタイプ
バッチベース情報共有型一方の企業が他方の企業に共有して良いデータをまとめて提供するタイプ
リアルタイムベース情報共有型相手の企業に対して、自分のデータの内で共有して良いデータをアクセスできる権限を与えるタイプ
業務プロセス共有型企業間にまたがる業務プロセス情報を共有・管理するタイプ

表1で説明した企業間連携のパターンを、建設業を例に説明しますと、図1の様に、最初に建設省殿や自治体から入札情報を知り、応札を決定するタイプが、「情報提供型」の企業間連携です。次に応札、見積依頼、回答、受発注など取引情報を伝票で送受信するのが「伝票受渡型」、施工を行い工事完了すると同時に付随する図書を建設省電子納品要領(2001年4月から実施される予定の建設省直轄工事に対する業務成果品の電子納品を行う際の仕様)に従い納入するのが「バッチベース情報共有型」、発注者−設計事務所間でコンカレントエンジニアリング(並行設計)を行うのが「リアルタイムベース情報共有型」、そしてジョイントベンチャ(以下JV)施工現場などでの施工管理業務を行うのが、「業務プロセス共有型」の企業間連携です。

図1 建設業界における企業間連携例
3.施工現場における課題と解決のコンセプト
建設産業を取り巻く環境は、入札・契約制度の改革、建設CALSの施行、維持補修工事の増加、ISO9000S認証取得の入札参加条件化など、一層の厳しさを増しています。このような背景の下、施工現場においては、pmやcmノウハウの取得・維持や、工程毎の成果物の確実な管理、建設CALSへの対応等が重要な要素となります。
特にJVのように複数企業が参加するプロジェクトが増えていく場面では、企業をまたがる施工計画、文書・図面などの情報の共有、あるいはどの成果物を誰がいつ承認したか、自分のする仕事は何かというタスク管理が困難だったり、JVとして工事を受注するための手続きが複雑だったりとさらに多くの課題が出てきます。これらの課題解決のためには、施工現場への情報化投資が有効ですが、JVの施工現場のように期間限定のプロジェクトにはまとまった情報投資ができないのが現状です。
以上の様な課題を解決するために、弊社は次のようなコンセプトを提案しています。
○企業間ワークフロー
―業務プロセス型企業間連携によるJV企業体内での情報のシームレス化
複数企業メンバーが作業するJV施工現場および参加企業のオフィスまで含めたワークフローを管理する
○企業間文書共有
―バッチベース型企業間連携による建設CALSに対応した成果物管理・納品
ワークフローで承認された成果物を限定メンバー内で管理・共有し、建設省電子納品要領形式へ変換し、納品しやすい形に情報をまとめる
○「電子調達」
―伝票受渡し型企業間連携による建設業における情報交換、調達などが行える場
調達時に入札、見積、受発注情報のやりとりをインターネットで行える
○「アプリケーションサービスプロバイダー(以下asp)」の利用
―情報投資額を低減する情報基盤の整備
業務アプリケーションの一部をユーザ企業がネットワークを介して使うアウトソーシングサービスの利用により固定資産の軽減が可能。特にJVのような有期組織に有効。
以下では、これらのコンセプトを更にブレイクダウンし、業務への効果、機能要件を説明します。
4.コンセプト実現による業務改革と必要機能
(1) 企業間ワークフロー管理
 企業間ワークフロー管理は、企業間にまたがる業務プロセスを管理するというコンセプトです。例えば、JV参加企業間の設計文書承認など、業務プロセスまで踏み込んだ連携に有効です。必要となる機能は以下の通りです。
・企業間のプロセス連携機能
 企業にまたがるワークフローを連結、プロジェクト単位で進捗管理する機能。
・PCだけでなく携帯電話でも進捗管理
 進捗管理、承認をPCからだけでなく、遠隔地にいる管理者の承認が仰げるよう携帯電話からでも可能にする機能。他にスケジュール管理や会議室予約などもPCから行えたら便利。
 図2に業務例を示します。サービスセンタにアクセスすることにより必要機能が利用可能な環境を想定しています。
図2 企業間ワークフローによる業務改革
(2) 企業間文書共有
企業間文書共有は、JVメンバー内で成果物を管理・共有し、発注や納品時などに施主に情報群をまとめて伝達するというコンセプトです。2001年4月から工事図面、写真など電子納品が施行されます。このとき、文書/図面/写真などを電子納品の標準である電子納品要領に準拠し情報群にまとめることで納品物の作成や受け取り業務が効率化できます。
必要となる機能は以下のとおりです。
・ISO-9000Sに準拠した手軽な文書・図面管理
文書・図面等の成果物の版・有効性管理のみならず、プロジェクト毎や業務フェーズ毎に文書を管理するなど柔軟な管理。
・入出力を重視した文書・図面管理
XML(EXTENSIBLE MARTKUP LANGUAGE)を利用して、情報管理項目と文書・図面データをツリー図状に構造化して入出力する機能。建設省電子納品要領に準拠しXMLファイル+実体ファイル群をMO(MAGNETO OPTICAL DISK 光磁気ディスク)・CD-R(COMPACT DISK RECORDABLE)などの媒体で入出力する機能も必要。また、インターネットを使った納入文書群の送受信機能へも対応できれば受渡し業務を効率化可能。
図3に業務例を示します。
図3 企業間文書共有による業務改革

(3)電子調達
電子調達は、入札、見積交渉・契約・発注・入荷・決済までの段階で、サプライヤとの間で発生する伝票を送受信し、受発注に関するお客様との一連の商業活動を支えるというコンセプトです。場としての利用を考えることで、市場のオープン化、発注価格の低減、ノウハウの共有など多くのメリットが考えられます。必要となる機能は以下の通りです。
・インターネット上でEDI情報の送受信
EDIの標準である、CIIフォーマットに準拠することが必要。さらにxmlを用いて任意の伝票が扱え拡張利用ができると便利。
・伝票に付随する補足文書/図面の受渡し
従来のEDIは、帳票情報(文字コードデータ)の交換が主でしたが、それだけでなく、図面・写真など補足図書の受渡しにも利用することで、より広い業務範囲に使える。
・重要データ交換のためのセキュリティ機能
インターネット上で機密データを交換する際に問題になる情報の盗聴、改竄、漏洩を、最新のセキュリティ技術(電子証明書、配達証明、暗号化通信)を適用することで解決することが重要。
図4に業務例を示します。

図4 電子調達による業務改革
5.まとめ
本稿では、企業間連携のコンセプトの概要と、それを利用することで、業務がどのように変革するかについて述べました。特に建設業界においては、
@伝票受渡による受発注業務の効率化
A電子納品による業務の迅速化・効率化
B企業データベース間の文書・設備データのリアルタイム連携による設計文書管理の効率化
C企業間での業務プロセス連携によるJVワークフロー管理
などが実現可能です。
企業間連携を支援するシステム・サービス体系例
文献
(1)通産省 機械情報産業局電子政策課,「日米電子商取引の市場規模調査」,1999年3月

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