〈建設グラフ2000年1月号〉

寄稿 新潟県の出先事務所長  ●事務所リストへ

安全・安心で、活力ある地域づくりをめざして

新潟県新井砂防事務所長 南木 均 氏

南木 均 みなき・ひとし
昭和20年生、新潟市出身
昭和44年新潟県奉職
平成11年現職

新井砂防事務所は、県の南西部に位置する上越市、新井市など12市町村を所管区域とする。土砂災害多発地域のため、全国でも数少ない砂防行政を特化した事務所である。
管内は、北東から南東部一帯が緩やかな丘陵山地をなし、多くの集落が点在する。泥岩を主体とする新第三紀地層であり、豪雪を伴うこと等から全国一の地すべり地帯を形成し、建設省所管地すべり防止区域は86箇所、約6,300haで、農林省所管区域を含めると170箇所、管内全面積の12%弱に達する。
本県は地すべり活動を早期に発見し、災害の未然防止を図るため、全国に先駆けて「地すべり巡視員制度」を設けて監視を強化している。また地すべりは、融雪期に年間発生件数の43%を占めるが、近年は人命、人家への直接被害は軽減傾向にある。
管内の南端部は、高原スキーと温泉で有名な妙高山麓が雄大に広がる。脆弱な安山岩、火砕堆積物等の火山性地質のため、昭和53年に発生した土石流では死者13人の大惨事となった。また不安定土塊を伴う新第三紀地質の丘陵山地も、大小の渓流が発達しており、砂防指定地は287箇所、延長333q余、面積約3,800haに及ぶ。

こうしたことから当所は開設以来半世紀以上を経て、土砂災害に対する工法の開発、制度の提言等に大きな役割を果たしてきた。特に地すべり工事の各種抑制、抑止工法を全国へ発信してきた輝かしい伝統があり、現在も諸外国からの視察者が絶えない。
また板倉町に全国初の地すべり資料館を開設し、町と連携して地すべり排水の温泉利用に供しているほか、新井市の万内川では、現存する大正10年施工の空石積床固工群を本県砂防の発祥地として学習広場に整備する等、砂防事業の啓発にも努めてきた。
今後の事業展開は、厳しい公共投資環境のもと、中山間地における費用対効果や自然環境の保全、地域づくり等が課題となっている。しかし、土砂災害は発生予知が難しく、悲惨な被害をもたらすことから、住民が安心して暮らすための根幹である「安全」について、地域づくりに資する施設となるよう一層の整備を強力に推進する必要があると考えている。
また地域住民に各種情報を提供し、都市と山村の連携や市民参加型の事業推進等も重要と考えており、中山間地の水と緑を護ることが下流域の都市を護るという認識のもと、21世紀へ向けた安全で活力のある地域づくりを目指して事業の推進に尽力していきたい。


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