寄稿(96/11)

ISOシリーズの運用と展望について

鈴木藤一郎 すずき・とういちろう
昭和21年9月22日生まれ、京都大学大学院工学研究科卒
昭和47年大臣官房人事課、和歌山県土木部砂防利水課
昭和49年河川局開発課、河川局開発課係長
昭和53年近畿地方建設局河川部建設専門官
昭和55年国土庁大都市圏整備局計画課専門調査官
昭和57年近畿地方建設局企画部企画課長
昭和59年河川局開発課長補佐
昭和60年河川局河川計画課長補佐
昭和62年近畿地方建設局姫路工事事務所長
平成元年大臣官房技術調査官
平成 3年河川局開発課建設専門官
平成 4年河川局河川計画課河川計画調整官
平成 6年河川局河川計画課河川環境対策室長
平成 7年河川局河川環境課都市河川室長
大臣官房技術調査室長
1.はじめに
建設省では、平成6年9月より、大臣官房技術審議官を委員長とする「品質、環境等の国際規格の公共工事への適用に関する調査委員会」を設置し、ISO9000シリーズの我が国の公共工事への適用性について検討を進めている。その中で、実際の工事において、ISO9000シリーズによる品質管理方法を適用し、その具体的な手続、内容及び効果を把握するとともに、適用する場合の課題及び対応策を検討することを目的として、ISO9000シリーズ適用パイロット工事(以下「パイロット工事」という。)を今年度より実施することを決定した。
実施に当たり、品質システム、品質マニュアル等の検討を行い、ISO9000シリーズの適用の効果を詳細に把握確認するため、学識経験者を含む「ISO9000シリーズ適用パイロット工事検討委員会」を省内の委員会とは別途に設置することとした。
2.ISO9000シリーズの概要
ISO9000シリーズとは、ISO規格のうち1987年に定められた規格番号が9000番台のもので、現在70カ国以上の国で国際規格として採用されている。これは、製品やサービスを作り出すプロセスに関する規格であり、供給者が、需要者の要求事項を満足する製品やサービスを継続的に供給するためのシステム(品質管理システム)を備えているかどうか、また、その実施状況が適切であるかどうかをチェックするためのものである。
ISO9000シリーズは、図1のように9000〜9004までの5水準からなり、企業は目的に応じてそれぞれの規格を使い分けることとなる。
(2) ISO9000シリーズの特徴
@ 製品そのものの規格ではなく、製品やサービスを作り出すプロセスに関する規格である。
A 品質管理システムの具備すべき事項(要求事項)が、それぞれの水準(9001,9002,9003)で表1のように標準化されている。
B 要求事項の中では、責任と権限を明確にした品質管理システムの構築と維持が求められ、また、それについて関係者の共通の理解を確実にするため、徹底した文書化が求められている。
C 企業の品質管理システムがISO9000シリーズの要求事項に照らして妥当であるかについて、当該企業と利害関係のない第三者機関(審査登録機関)がチェックをして認証を行う。
 我が国における審査登録制度の体系を図2に示す。審査登録機関は、現在20を越えて存在する。審査登録機関が適切に認証活動を行っているかどうかを審査し、これを認定する機関として、我が国では唯一、(財)日本適合性認定協会(jab)がある。
 現在、JABから認定を受けている審査登録機関は15機関であり、建設の分野で認定を受けているのは3機関である。
D 品質システムを記述した文書は、そのレベル、記述内容の詳細度、汎用性に応じて図3のように分類される。このうち、ISO9000シリーズの認証取得の際に、企業が上記の審査登録機関に提出するのは、「品質マニュアル」「品質システム手順書」である。

表−1 ISO9000シリーズの要求事項
要 求 事 項 ISO 9001
(JIS Z 9901
ISO 9002
(JIS Z 9902
ISO 9003
(JIS Z 9903
4.1 経営者の責任
4.2 品質システム
4.3 契約内容の確認
4.4 設計管理
4.5 文書及びデータの管理
4.6 購買
4.7 顧客支給品の管理
4.8 製品の識別及びトレーサビリティ
4.9 工程管理
4.10検査・試験
4.11検査、測定及び試験装置の管理
4.12検査・試験の状態
4.13不適合品の管理
4.14是正処置及び予防処置
4.15取扱、保管、包装、保存、及び引渡
4.16品質記録の管理
4.17内部品質監査
4.18教育・訓練
4.19付帯サービス
4.20統計的手法
凡例
■ : ISO 9001と要求内容は同一
● : ISO9001と要求の表現は同様であるが最終製品/最終検査・試験に限定
◆ : ISO9001よりも要求内容は緩い
− : 要求事項なし
3.パイロット工事
パイロット工事は、平成8年度に建設省関東地方建設局から発注される工事4件、日本道路公団から発注される工事3件を対象とした。これらの工事の概要を表2、及び表3に示す。いずれも、公募型指名競争入札方式による工事である。 (参照 図4)
なお、工事によって適用規格が9001(設計・開発を含む水準の品質システムの規格)、9002(設計・開発を含まず、製造・据付け及び付帯サービスを含む水準の品質システムの規格)と分かれているが、これは実際の適用を想定した場合に、どちらの規格が適当であるかの判断を、パイロット工事にて両方を適用することによって比較検討するためである。
表−2 建設省関東地方建設局のパイロット工事
工 事 名 工 事 概 要 入札予定時期 適用規格
市ケ尾高架橋上部(その3)工事
三郷放水路橋下部その2工事
東砂堤体改良工事
新地川上流第2ダム工事
鋼橋上部
橋脚2基
堤体改良240m
本ダム、副ダム、水叩
第3四半期
第4四半期
第4四半期
第4四半期
9001
9002
9002
9002
表-3 日本道路公団のパイロット工事
工 事 名 工 種 発注機関 工事発注予告時期 適用規格
北関東自動車道下横田工事
北陸自動車道城山トンネル西工事
常陸自動車道
真似井川橋(鋼上部工)工事
土工
土工(トンネル
鋼上部工
東京第一建設局
新潟建設局
仙台建設局
平成8年6月5日
平成8年6月5日
平成8年6月5日
9002
9002
9001
4.おわりに
ISO9000シリーズの今後の公共工事等への適用方法は、今回のパイロット工事におけるISO9000シリーズの適用によって規定されるものではなく、パイロット工事の結果を踏まえて検討されるものである。
今後は、発注されたそれぞれのパイロット工事の現場での進捗に合わせて、ISO9000シリーズによる品質管理手法の適用にあたっての課題、または同規格の適用によって施工状況、工事目的物の品質にどのような効果、影響が現れるかを検証していくことになる。 現在、建設業におけるISO9000シリーズ取得への動きが活発化しており、さらなるISO9000シリーズの普及促進のため、建設分野の審査員の確保を含む審査登録体制の充実が望まれている。

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