〈建設グラフ2000年7月号〉

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寄稿特集

斐伊川、宍道湖、中海の環境を整備

出雲工事事務所の事業

建設省中国地方建設局 出雲工事事務所長　五道仁実 氏

五道　仁実　ごどう　ひとみ 昭和36年12月28日（38歳） 本籍地　静岡県 最終学歴 昭和61年3月京都大学大学院工学研究科土木工学専攻 職務経歴 昭和61年4月建設省四国地方建設局徳島工事事務所調査第一課 昭和62年4月 　　　　　　同　　　　　　 調査第二諜 昭和63年4月沖縄開発庁沖縄総合事務局北部ダム事務所 　　　　　　　　　　 調査第一牒開発調査係長 平成 2年9月建設省河川局防災諜係長 平成 4年4月建設省九州地方建設局熊本工事事務所調査第一課長 平成 5年12月建設省九州地方建設局河川部河川管理課長 平成 7年4月建設省建設大学校建設政策研究センター主任研究官 平成 9年1月国土庁長官官房水資源祁水源地域対策課長補佐 平成10年11月建設省河川局治水課長補佐 平成11年10月出雲工事事務所長

管内概況と河川状況

出雲工事事務所は、斐伊川水系について、上流は島根県大原郡木次町から下流は境水道までの約112kmの区間の直轄管理を行っています。
主な事業としては、河川改修、維持管理、災害復旧、環境整備などがあります。特に河川改修のうち、斐伊川放水路事業は島根県東部の治水の要となり、現在、築堤工事、軟弱地盤対策の施工、水門・橋梁の改築などを行っています。また、放水路と共に、斐伊川治水の柱である大橋川改修にも積極的に取り組んでいます。
一方、中海・宍道湖に関しては、中海浄化事業を行うとともに、環境護岸や湖岸堤の整備、中海湖心並びに宍道湖湖心観測所などにおける水質監視を行っています。また、惰報通信ネットワークの構築のため、光ファイバーの整備も促進しています。
この斐伊川は、その源を鳥取・島根県境に位置する中国山地の船通山に発し、途中、三刀屋川や赤川などの支川を合せながら北流し、出雲平野を東に流れ宍道湖に流入し、県都・松江市を流れる大橋川を通って中海に入り、境水道を通じて日本海に注ぐ、流域面積約2,070km²、幹川流路延長約153�qの河川です。
その流域は、上流から宍道湖に流入するまでの斐伊川本川流域と、直接宍道湖へ注ぐ宍道湖流域、中海へ注ぐ中海流域の3つに大別され、本川については中上流部にあたる直轄区間においても1/500〜1/800程度の河床勾配で、出雲平野で1/1000前後となっています。
斐伊川上流域の大部分は風化花崗岩によって覆われ、このため古来より、斐伊川には多量の土砂が流入し、出雲平野が形成されました。現在も、上流からの供給土砂により斐伊川は網状砂州の発達した典型的な砂河川で、全国でもまれな｢天井川｣となっており、出雲平野においては斐伊川の河床が堤内地盤高に比べて概ね3〜4ｍも高いところがあります。
宍道湖は、流路延長10�q前後の中小河川が直接流入しており、大橋川を通じて中海に注ぐほか、江戸時代に開削された佐陀川により直接日本海へ通じています。
中海は、飯梨川、伯太川など比較的大きな支川が流入しており、境水道を通じて日本海へ注いでいます。
この日本有数の大湖であり、また日本最大級の冬鳥の飛来地でもある宍道湖・中海は、平均水深は比較的浅く、また、日本海との平均水位差が数cmから約10cmと小さいため、いずれも淡水と海水が入り混じった汽水湖となっています。このため、特に宍道湖においては、洪水時の水はけが悪く、湛水期間の長期化、内水被害増大の原因となっています。
―方、神戸川は、中国山地の女亀山を源として山あいを北流し、途中、頓原川や波多川などの支川を合せながら出雲平野の田園地帯を流下し、大社湾に注ぐ流域面積約471km²、幹川流路延長約87�qの河川です。

斐伊川放水路	斐伊川放水路全景イメージ図

治水計画の３つの柱

斐伊川・神戸川の治水計画は、「両河川の上流におけるダムの建設」、「中流の斐伊川放水路事業と斐伊川本川の改修」、「下流の大橋川改修と中海・宍道湖の湖岸堤整備」の3つの柱から構成されています。これらが―体となって上流、中流、下流の流域全体で治水機能を分担し、斐伊川・神戸川流域を洪水から守ることとしています。
この計画では、斐伊川の基本高水のピーク流量を5,100�F/秒（基準地点：上島）とし、また、神戸川の基本高水のピーク流量を3,100�F/秒（基準地点：馬木）にするとともに、斐伊川・神戸川の上流部でダムをそれぞれ建設し、中流部で神戸川の抜本的改修を併せた斐伊川放水路の建設と斐伊川本川の改修を行います。
一方、下流部では大橋川の改修、中海・宍道湖の湖岸堤整備といった、いわゆる｢斐伊川治水対策の３点セット｣が位置付けられました。これは、斐伊川・神戸川両水系を―体とし、上流･中流・下流がそれぞれ治水機能を分担する計画となっています。

斐伊川放水灘分堀削（昭和6年〜10年度）	昭和18年　出雲市上津堤防決壊

斐伊川放水路事業

斐伊川の計画高水流量4,500�F/秒（尾原ダムによる洪水調節後）のうち2,000�F/秒を、本川中流左岸の出雲市来原付近から新たに放水路を開削（約4.1�q）して分流し、同市上塩治町半分付近において神戸川に合流させます。
神戸川の合流点から神戸川の河口までの約9�qの区間については、神戸川の現況の川幅を平均で約1.5倍に拡幅し、神戸川の自己流量2,400�F/秒（志津見ダムによる洪水調節後）と斐伊川からの分流量2,000�F/秒を合わせた計画高水流量4,200�F/秒（合流時差による）を安全に流下させるために必要な掘削・築堤及び橋梁工事などを行います。
主な工事の内容としては、掘削土量が約1,600万�F、築堤土量が約400万�Fとなります。また、橋の架け替え・新設は主なものだけでも25橋あり、そのほか斐伊川分流部の分流施設、神戸堰の改築、新内藤川水門などの河川構造物を建設します。事業にかかわる用地面積は約322ha、移転家屋は437戸です。

宍道湖の概要

宍道湖は周囲約45km、東西約17km、南北約6km、平均水深約4.5ｍの東西に長い長方形状の海跡湖で、豊かな魚介類が生息しています。特にウナギ、モロゲエビ、シジミ、シラウオ、アマサギ、コイ、スズギの七つは「宍道湖七珍」と呼ばれ、郷土を代表する味覚として知られています。
一方で宍道湖は、水上レジャー・花火大会などのイベントの場としても、県内外を始め多くの人々に利用され親しまれています。その中でも松江方面から見る夕日は美しく、この地を訪れる人々を魅了しています。

宍道湖袖師親水型湖岸堤	宍道湖袖師親水型湖岸堤　施工中（H10.11撮影）

宍道湖環境整備事業

この宍道湖の眺望の良い松江市では、宍道湖を眺め、水辺を散策出来る場として、背後に整備されている島根県立美術館や岸公園と一体となった「水辺に親しむうるおい空間」をテーマとした整備を進めています。また、この周辺は観光船が通ったり、水上スポーツも盛んで、宍道湖の中からの景観にも配慮した整備を行う必要もあります。
これらを考慮して、この護岸をそれぞれの目的で利用する全ての人々に使いやすいように、また周りの風景と比較して違和感の無いように設計しました。
例えば、湖岸堤の水際遊歩道は、水際部が平常の水位でも波を受けることがあるため強固な構造にすると共に、快適に水際を散歩できるように自然石張りの遊歩道としました。
一方、あまり波の来ない上部の護岸については、おおむね1:28〜1:3の緩傾斜の張り芝とし、広がりと柔らかみのある親水空間を演出しています。
水際の遊歩道に下りるために自然石の階段や、階段の利用が困難な車椅子利用の方などのことも考え、自然石張りのスロープも設けています。そして、この階段やスロープには視覚障害者用ブロックも設置しています。
突堤は護岸前面に浅瀬を造るために、捨石を松杭で囲んだ宍道湖に昔から伝えられている伝統的構造の突堤を再現しました。
この他、張り芝護岸と水際部を繋ぐための自然石階段を設けています。この階段はベンチ替わりに座ることも考えており、特に綺麗な夕日が見える西側階段は、多くの方に利用していただけるように延長60ｍとしています。
天端通路については、美術館裏側の外溝の素材と同じ擬石ブロック舗装とし、美術館と護岸が一体となるよう整備を行っています。

中海の概要

中海は斐伊川水系の最下流部に位置し、わが国有数の規模を誇る湖沼です。湖の上流側は大橋川を通じて宍道湖と結ばれ、また下流側は境水道を通じて日本海と結ばれ中海の塩分濃度は海水の1/2程度となっています。平均水深は5.4ｍと比較的浅く、面積は全国第五位の86.2km²（干拓予定地含む）を有し、隣接する大山隠岐国立公園とともに優れた景観を創出しています。

米子湾全景

中海環境整備事業

中海周辺水域は、米子市などの都市を抱えており、生活様式の変化、産業活動の活発化が急速に進みました。これに伴い、流域から流入してくる生活排水や産業排水などによる汚濁負荷量が増加し、中海は窒素・リンなど栄養塩類の濃度が高まって富栄養化が進んできました。
このため、植物プランクトンの異常増殖による「赤潮」や、夏期に湖底の酸素が欠乏する貧酸素水塊が頻繁に発生し、生活環境、生物の生息環境や景観に悪影響を及ぼすようになりました。そこで浚渫により、底質の改善、底泥からの溶出負荷量の削減などを実施しました。
また境港環境護岸の整備も進めており、ゆとりと潤いのある生活環境の形成をめざして、周辺の土地利用、景観に配慮し地域づくりと連携しながら地域のシンボルとなる湖岸整備を行っています。
特徴は、自然石積護岸、緑地帯、置き石や杭柵により水際を保全すること。管理道と併用の散策道を設けること。水辺に親しめる階段護岸・遊歩道を設けること。水際の遊歩道へはゆるやかな勾配(5％)のスロープを設けることとなっています。

安来処理地	中海境港環境護岸イメージ図