〈建設グラフ2000年7月号〉

中国・広島 index に戻る 

寄稿特集

広島紙屋町地下街・地下歩道・地下駐車場事業

建設省中国地方建設局 広島国道工事事務所長 福井 孝 氏

福井 孝 ふくい・たかし
栃木県出身
昭和54年 4月 建設省入省
平成元年12月 九州地方建設局道路部道路計画第一課長
平成 3年 7月 建設大学校建設政策研究センター研究調整官
平成 5年 7月 九州地方建設局宮崎工事事務所長
平成 7年 4月 道路局地方道課建設専門官
平成 9年 4月 静岡市助役
平成12年 4月 現職
はじめに
広島市は中国地方の中枢都市として発展を続けてきた。その中心に位置する紙屋町周辺には、県庁、国の合同庁舎や原爆ドーム、平和記念公園、広島市民球場、県立体育館等、行政・経済・文化などの主要施設が集積している都市の拠点である。また、紙屋町交差点は、一般国道54号が幹線道路として通過しており、さらに平成6年8月に開通した新交通システム(アストラムライン)の起点、バスターミナル(広島バスセンター)を有するなど交通の要衝である。また、1日当たりの自動車交通量が約8万台、歩行者13万人に加えて、路面電車約1,300便が集中している。
この紙屋町交差点周辺の地下に、既に建設された新交通システムと、地下街・地下歩道・地下駐車場の一体的整備を進めている。
この事業は、交通混雑が慢性化している紙屋町交差点の交通機能の改善・強化と、都市機能の集積が進む都心部の駐車需要の充実を図るとともに、都市の魅力的な空間を創出するために計画されたものであり、紙屋町地下街は、広島で初めての地下街となる。
紙屋町地区航空写真
事業概要・規模
紙屋町地下街・地下歩道・地下駐車場は、一般国道54号紙屋町交差点を中心に、東西(相生通り)約440m、南北(鯉城通り)約225mの間に、道路地下1階に地下街を、また、東西の西側部分約150mの地下2階に地下駐車場を計画している。地下街の総面積は約25,000uあり、平面配置は東西方向に幅6mの2列の歩道と3列の店舗、南北方向に幅14mの1列の歩道と両側の店舗で、店舗面積約7,000uに約80の店舗が予定されている。
紙屋町交差点の直下には直径48mの円形の広場ができ、歩行者の通行に利用されるだけでなく、市民が集う憩いの場を設けている。
地下駐車場の収容台数は206台あり、駐車容量を上げるため機械式(平面往復式リフト付)としている。なお、出入口は既に設置されている地下駐車場「もとまちパーキングアクセス1)」の地下道路 (広島市道)を経由して進入することとしている。
工事は平成7年度に着手し、平成13年春に完成の予定である。地下街の事業主体は第3セクターの広島地下街開発株式会社であり、一般国道54号下(西及び南北)については、建設省が道路管理者であることから中国地方建設局が受託して施工している。また、地下駐車場及び南北方向の地下歩道については、中国地方建設局が直轄事業として取り組んでいる。
地下街・地下駐車場からの出入口や施設は、身障者・高齢者等交通弱者に対応するため、交差点の四隅にはエレベーター・エスカレーターを配置し、また、端部での出入口や民間ビルとの接続など、全体ではエレベー夕ー5か所、エスカレー夕ー12か所、階段37か所を配置することとしている。
また、地下駐車場への車の出入りは入庫リフト3基、出庫リフト3基を設置し、コンピュータ制御による機械式システムを導入している。そのうち、入出庫各1基については、幅の広いバース対応としている。
完成鳥瞰図

工事施工手順
施工にあたり、市内で一番輻輳する交通下の工事であり、歩行者、路面電車、自動車交通を確保しながらの施工である。このため、昼間は路下作業が中心となり、夜間(PM10:00〜AM6:30)は、東西方向は緊急車両、深夜バス、路面電車以外は全面通行止め、南北方向は片側1車線を確保し、24時間体制で行っている。
路面電車の軌道を仮受けして覆工を行うなど困難を極めた。
また、地下水位は地表から1.5mと浅く、地質は砂・シルト・粘土・砂礫からなる沖積層が厚く分布し、地下30m付近には被圧された地下水が流れている。
こういった状況下で、次のとおりの施工手順で工事を進めた。
●SMWによる土留工法 
土留工事は平成9年9月に完了したが、本工事は地上占用物件
(軌道、電車トロリー線等)・ビル・地下埋設物に近接した都市土木工事であり、交差点では路面電車の架線下での施工である。その上、路面電車を規制することなく営業運転するため、送電停止時間帯(PM23:40〜AM5:20)という制約された時間内に作業準備から後片付けまで行う工事であった。
近接作業、架線下及び作業時間の制約という条件で、土留壁長25.0m〜35.0mを以下の工法で施工した。路面電車のスパン線等の高さ制限から、長尺な杭を1本もので施工することやバイブロハンマー等による通常の杭打ち作業も不可能である。また、バケットやオーガーにより泥水削孔し建て込むことは、昼間の交通規制解放時の孔壁崩壊が発生する恐れがあるため、削孔・建て込みまでの工程を、夜間の交通規制の限られた時間内に完了する必要があった。このため、連続土留壁のうち連続性が良く止水性の高いs(soil)m(mixing)w(wall)工法とした。
使用したSMW機は、一般部ではSMW標準機を使用し、また、高さ制限のある場所では低空式のSMW5000機をクローラ式に改良したものを使用した。なお、電柱背面等SMW機の配置不可能な場所は(BH工法2)とした。

●本体掘削工    
平成9年10月から本格的な掘削工事に着手したが、先に述べたように、下層には被圧された地下水が流れている。このため、GL‐8m以深の掘削において盤ふくれが発生する恐れがあり、その対策工法として被圧とバランスする深度に薬液注入による地盤改良を行った。
掘削は、覆工板上よりバツクホウ・グラブリフターによりgl -6.0mまで掘削を行い、被圧対策(セメント系及び水ガラス系による薬液注入)を行つた後、グラブリフター(集土はミニバックホウ)により床付けまで掘削を行つた。

●躯体構築工    
平成11年1月よりコンクリート打設を開始し、平成12年4月には躯体部分の構築が完了しており、階段等の付属施設を残すのみとなっている。

●埋戻工
路下に多数の占用物件が埋設されており、路床部の転圧が困難なことから、埋戻し材料として流動化土(建設発生土+水+セメント)を用いて埋戻し及び路面の仮復旧を施工している。
おわりに
現在、工事の進捗率は約80%を超えたところにきている。
今後、路下では機械設備工(空調、給水、昇降機械)、電気設備工、立体駐車機械設備工、建築仕上げ工などを、また、路上では路面の本復旧、歩道の美装化、街路灯などの施工を行い、平成13年春の完成、開業に向けて、関係者一同、昼夜作業を行つているところである。
完成の暁には、広島市紙屋町地区の交通の円滑化が図られ、一層快適な都市空間に変貌することを期待している。

HOME