〈建設グラフ1998年6月号〉

寄稿

文教施設の整備手法と今後の課題

文部省大臣官房文教施設部技術課長補佐 細田 重好 氏

細田 重好 ほそだ・しげよし
1946年生まれ、日本大学経済学部卒。
1987年東京外国語大学施設課長
1991年日本芸術文化振興会
   第2国立劇場(仮称)準備主任専門員
1994年文部省大臣官房文教施設部
    仙台工事事務所所長補佐
1997年4月より現職
はじめに
我が国の国立学校施設は、戦後の高等教育の普及に伴って量的拡大を遂げ、平成9年度現在の保有面積は、約2,168万m2に達しており、これらの建物のうち、改修等が必要とされる建築後20年以上を経過した面積は全体の約52%を占め、老朽化や機能の劣化への対応が急務となっている。
また、大学院や留学生の増加をはじめ、実験・研究設備の増加や大型化並びに情報機器や資料の増加等のため、施設の狭溢化も年々深刻になりつつある現状に対処するため、文部省としては、高度化・多様化する教育研究にふさわしい機能を備え、質的水準を満たす施設づくりを推進している。
なお、知的創造活動の場として人耐性・文化性豊かな環境を考慮した文教施設の整備、国際化・情報化の進展等大学をめぐる状況の変化に伴って生じる新たな施設整備の需要ヘの対応及び産学共同事業等の推進を行っており、公共工事のコスト縮減についても、関係省庁と連携のもとに適宜な対応をすることとしている。

1.国立学校施設の高度化・多様化への対応
文部省としては、国立学校施設の高度化・多様化する教育研究の場として、人間性・文化性豊かな環境の創造、広く社会に開かれたキャンパスづくりの観点に立ち、老朽狭隘施設の改善、大学改革への対応、学術研究の推進への対応等を課題として、積極的に施策を進めている。
大学改革に伴う大学院施設や新学科施設の整備を進めるとともに、教官、学生が快適に教育研究を進めることができるよう、実験室や研究室、交流のためのラウンジ等、ゆとりと潤いのある校舎等の整備を進めることとしている。

2.環境を考慮した文教施設整備
近年、地球の温暖化、オゾン層の破壊そしてゴミ問題(ダイオキシン)等の地球的規模の環境問題が社会的に大きく取り上げられている。
文部省においても、大気汚染及び騒音等に対する学校施設の公害防止対策や環境教育の充実を図っており、このような状況をふまえ環境を考慮した学校施設づくりとしてエコスクールの整備構想が掲げられている。
「エコスクール」とは、施設面、運営面で環境への負荷の低減を目的とし、この特徴を環境教育にも活用できる学校施設として、施設面では、地球、地域、児童生徒にやさしく造り、教育面では、施設、原理、仕組みを学習に役立て、建設後の維持・管理、改修、解体までのライフサイクルを視野にいれた総合的なものと定義している。
3.新たな需要への施設整備
学術の総合情報センター
我が国は、科学技術創造立国として構造改革に取り組むことが緊急課題となっており、特に、学術研究と情報通信の基盤整備は、最重要課題となっている。
このような中で、我が国の学術研究基盤の抜本的な充実強化を図るため、学術の発信・交流、社会とのインターフェイスの拠点施設として、平成11年度完成を目指して「学術の総合情報センター(仮称)」を建設している。
このセンターは、学術情報センター、一橋大学(夜間大学院)等で構成され、学術情報の発信・交流、大学院レベルでのリフレッシュ教育等、各機関が有する学術に関する諸機能を総合的に発揮することにより、高度の知的創造拠点の形成を目指すものである。
4.産学共同事業について
各国立大学においては、地場産業等地域の産業界と密接に連携し、活発な共同研究を進めるため、地域の先端的な研究活動の中核となる先端科学技術共同研究センターや地域共同研究センターの整備を進めることとしている。
このような中で、北海道においては、全国初の「産官学融合センター」<フュージョン(混合・融合)>が構想され、農業など北海道が優位性を持つ産業を軸に、関連製造業の集積を図りたいとしている。
北海道大学構内に設置される「先端科学技術共同研究センター」の隣接地が要望されているが、まだ実現に向けてはソフト・ハード共に解決すべき多くの問題点があると聞いているところである。
5.コスト縮減対策の取り組みについて
平成9年4月4日の関係閣僚会議で「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」(以下「行動指針」という)が決定され、文部省は行動指針を踏まえ平成9年4月22日に「公共工事コスト縮減に関する行動計画」(以下「行動計画」という)を策定し、閣僚会議に報告した。
文部省は公共工事担当省庁として自らの技術的基準及び発注・契約に関する施策と、関係協力省庁として工事実施段階での合理化、規制緩和等を行う施策の両面を実施することとした。
この行動計画は、文部省及び国立学校等が発注する工事を対象とする。
コスト縮減の観点から技術的な改善や工事の平準化等を進めていくが、国立学校等の施設の機能や品質の確保にも努めることと考えている。
コスト縮減の具体的施策としては、工事の計画から施工に至る各分野を網羅的に検討することとし、@工事の計画・設計の見直し、A工事発注の効率化等、B工事構成要素のコスト縮減、C工事実施段階での合理化・規制緩和等の施策を考えている。
公共工事コスト縮減の数値目標としては、平成9年度から向こう3年間で、@及びAの項目で6%以上の縮減を目途とし、B及びCの項目で4%以上の縮減(努力目標)を目指す。これら全体の取り組みにより、平成11年度末までに10%以上の縮減効果が得られるよう努力中である。


〈事業概要〉
事業主体:学術情報センター
所在地:東京都千代田区一橋2丁目
敷地面積:6,840m2
建物規模:地上23階建鉄骨造、地下2階建鉄骨鉄筋コンクリート造
延べ面積:約40,000m2
最高高さ:113.2m
建物用途:教育研究施設
完成時期:平成11年度(予定)
〈計画概要〉
本施設は、21世紀に向かって学術研究情報通信、リフレッシュ教育等の一層の進展を図ることを目的として建設され、設計においては、高機能性、フレキシブル性、快適性、安全性及び省エネ・省力化等の質的水準を確保した学術の拠点としてのインテリジェントビルを目指している。
〈施設の機能〉
・高機能性
各機関が有する学術に関する諸機能を総合的に発揮できる高度な知的創造の拠点にふさわしい施設となるよう配慮する。
(例:LAN、国際会議のできる会議場、各種プロジェクト室など)
・フレキシブル性
将来における教育研究内容及び学術研究交流等の進展に伴う、施設使用形態の変化に柔軟に対応出来る設計とする。
(例:OAフロアー、パーティション、システム天井など)
・快適性
知的創造活動の場にふさわしい人間性及び文化性を取り入れた、ゆとりと潤いのある豊かな環境の創造に配慮する。
(例:緑のあるアプローチ、リフレッシュコーナー、安らぎのあるレストランなど)
・安全性
地震及び火災などの災害に十分安全であると共に、高齢者及び身体障害者等に安全で使いやすい施設となるよう配慮する。
(例:制震対策、緊急離着陸場、段差のない通路など)
・省エネ・省力化
所要の機能を確保した上で、維持管理の費用や要因が出来るだけ少ない施設となるよう配慮する。
(例:中央監視システム、照明・空調の自動制御、雨水利用など)
〈構造・工法の特徴〉
(1)制震壁
制震壁とは、中高層建物を対象とした減衰機構で、高粘度の粘性体を充填した粘性体容器(外部鋼板)の間に抵抗板(内部鋼板)を挿入したものである。
建物の振動は、上階の梁に固定された抵抗板と、下階の梁に固定された粘性体容器との相対運動に置き換えられる。
その時に生じる粘性せん断抵抗力によって、振動エネルギー仝吸収し減衰効果を発揮する。
制震壁は、面内方向の水平、鉛直の両方向において同様の性能を発揮し、微振動から地震時の激しい振動まで、幅広い減衰効果が得られるものである。
(2)一階先行床工法
第1段階として、山留め(SMW連続壁)及び、場所打ち杭を打設し、構真柱を建て込む。
第2段階では、地表部の根切りを行い、1階の床及び梁を完成させ、施工時の資材置き場、作業スペースを確保する。
第3段階においては、床付位置まで根切りを行うと同時に地上部では鉄骨建て方を進め、地下部では、下層より躯体の打設を行う。

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