〈建設グラフ1998年4月号〉

寄稿

高速川崎縦貫線の整備にあたって

首都高速道路公団湾岸線建設局長  鈴木 剋之 氏

鈴木 剋之(すずき・かつゆき)

昭和19年8月生まれ、北海道出身。
昭和 44年 3月 北海道大学工学部大学院土木修了
4月 首都高速道路公団入社
48年 5月 建設省道路局有料道路課
50年 4月 同関東地方建設局湾岸道路調査事務所計画課長
57年 7月 首都高速道路公団第二建設部調査課長補佐
61年 5月 同神奈川建設局調査課長
平成 元年 10月 同計画部第二計画課長
3年 5月 同計画部第一計画課長
6年 6月 同計画部長
8年 10月 現職
図−1 首都高速道路図(略図)
はじめに
首都高速道路公団は、街路の連続立体化による自動車専用道路ネットワーク建設のために、昭和34年に設立された。当初は、環状6号線内の71kmの計画であり、これを10年聞で構築するものであった。その後、didの拡大や、東名、中央などの都市間高速道路が都心と直結することとなり、首都圏の自動車専用道路ネットワークとしての更なる役割が要求されることとなる。首都高速道路は、昭和37年の最初供用以来、現在では、248kmの供用延長を持ち、1日約117万台の交通が利用し、東京都区内で見れば、幹線道路を通行している自動車交通の28%、貨物輸送量の38%を分担する首都圏交通の大動脈としての役割を果たすまでになった。(図−1)
しかし、現在の首都高速道路の現状は、中央環状線などネットワークが未整備であることなどから、渋滞が発生し、常に快適な走行状態を確保するまでには至っていない。従って、これからも、@環状線の早期整備、A湾岸線の早期完成、B業務核都市の育成強化のための路線整備、を3つの柱に更なる整備か急がれているところである。

1.川崎縦貫線の役割
川崎市は、東京都心に集中した都市機能の一部を分担する首都圏南部の業務核都市として、各種施策を積極的に推進しているところである。市域は東西に細長い地形を有し、土地利用も、臨海部が工業系、中部が商業系、内陸部が住居系と特化している。これらの地区を縦に結ぶ幹線道路が脆弱であることから十分な業務核都市としての機能を発揮する妨げとなっているため、縦方向幹線道路の整備が大きな課題となっている。
川崎縦貫線は、この縦方向幹線道路として、臨海部から東名高速までを結ぶ構想路線の一部であり、交通混雑の緩和や住環境の向上を図りながら、業務核都市としての機能を充実させる「業務核都市の育成強化のための路線」と位置づけられる路線である。
また、東京湾岸道路や東京湾アクアライン、さらには東名、圏央道など他の幹線道路と一体となって、首都圏の広域的幹線道路網を構成するものでもある。

図−2 高速川崎縦貫線
2.高速川崎縦貫線事業の概要
首都高速道路公団が事業を行っている高速川崎縦貫線は、国道15号を起点とし、国道409号に沿って東南に進み、浮島埋立地にて、湾岸線と東京湾アクアラインとに接続する7.9qの路線である。道路構造は、内陸側の住居地域においては、半地下、トンネル構造であり、臨海部の工業地域においては高架構造となっている。また、この間に、横羽線、湾岸線及びアクアラインと結ぶ2つの大規模なジャンクションを有している(図−2)。この内、アクアラインと湾岸線とを結ぶ川崎浮島ジャンクションについては、昨年12月に開通した。この川崎浮島ジャンクションから約4q区間が高架構造であるが、高架下に共同溝が併設されることから、基礎工事に先行して共同溝工事が行われた。現在は、一部共同溝工事を進めるとともに、上下部工事が進められている。高架部に続くトンネル区間については、用地買収が困難を極めたため、着工が遅れていた。この区間については当初民地を2〜3m借地することによる開削工法での構築を想定していたが、用地買収も困難な状況で工事中の長期間借地は現実的でないことから、非開削によるトンネル構築が必要とされた。そこで公団は、新しい技術開発に着手した。そして今般、MMST工法としてその施工技術の目途がついたことから、一部着手出来る見通しとなった。
3.MMST(マルチマイクロシールドトンネル)工法の開発
世界で初となるMMST工法の施工手順は(図−3)、複数の小断面シールドトンネルを施工(@参照)し、これら処断面シールドトンネルの間を接続(A参照)することにより、トンネルの外壁を完成(B参照)させ、その内部の土砂を掘削(C参照)した後にトンネルを完成(D参照)させる工法である。

図−3 MMST工法 施工手順の例

1.小断面シールドの施工 −> 2.小断面シールド間の接続 −> 3.外郭部躯体の施工

トンネルの床となる部分のシールド機を掘進し、小断面シールドトンネルを施工する。

隣接する小断面シールドトンネル間の接続部を施工する。

小断面シールド内にコンクリートを打設し、外周部の壁を構築します。

4.内部土砂の掘削 −> 5.内部構築

通常の掘削機械により、内部の土砂を掘削する。

内部土砂の掘削後、内壁や中床版等を構築し、トンネルを完成させます。

MMST工法の特長は

(1)都市部の施工に適している
@都市部の狭陰な施工地区において非開削トンネルの施工が可能(図−4)。
A土被りの少ない施工場所でも適用可能(図−5)。
B車線規制や地下埋設物の移設や防護を最小限とする非開削トンネルのため、車線規制や地下埋設物の移設や防護が少なくなる。
Cトンネルの断面形状を変化させることが可能(図−6)。

複数の小断面のシールドトンネル相互の接続間隔を変化させることによりトンネル断面を変化させる事が可能で、道路の幅が変化する分合流部の施工に適用できる。

図−4 施工幅比較

MMST工法
(非開削工法)

開削工法

図−5 土被り厚比較

MMST工法

従来のシールド工法

図−4 断面変化への対応(接続間隔a→b)
(2)環境にやさしい工法である
@掘削で発生する泥水、泥土の量を減少させる。

MMST工法の場合、外郭部の小断面のシールドで掘削することから、従来のシールド工法では産業廃棄物となる泥水、泥土の量を減少させることが可能。

(3)建設コストの縮減を図る
@開削工法と比較し、付帯工事が少なく、掘削土量が少ない。
A従来のシールド工法と比較し、仮設備の規模が小さくて済み、産業廃棄物が少ない。

現在、MMST工法は、川崎縦貫線の大師ジャンクション内の換気洞道工事において試験工事を実施中であり、その確実性、施工性、安全性などの確認を行っている。試験工事では、現在のところ、ほぼ当初の期待どおりの結果が出ていると言える。今後の都市内トンネルの工法の一つとして、是非この工法を確立したいと考えている。

おわりに
首都高速道路は、近年バブル時の地価の高騰の影響や、環境上からの地下構造への移行などから、建設コストは大きく増加している。有料道路事業としては、如何に建設事業費を少なくし、資金コストを低く抑えることができるかが、その採算性を左右する。
今後とも社会資本として重要な役割を果たす首都高速道路の整備は必要であり、そのためには、今後さらに新技術、新工法の開発を進めるとともに、各種コスト削減に努め、川崎縦貫線をはじめ、中央環状線等の早期完成に努める所存である。

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