〈建設グラフ1998年3月号〉

寄稿

北海道開発局における技術開発について(港湾・漁港)

北海道開発局港湾部港湾建設課長 百瀬 治 氏

百瀬 治 (ももせ・おさむ)

昭和23年9月13日生
昭和 48年 北海道大院修了
52年 室建苫小牧港湾第2計画課調査試験係長
54年 局港湾建設課災害係長
56年 局港湾建設課開発専門官
59年 局港湾計画課開発専門官
60年 土試港湾研究室副室長
63年 局水産課長補佐
平成 2年 局港湾計画課長補佐
4年 4年局開発調整課開発企画官
5年 樽建次長
7年 室建次長
9年 6月 現職
1.技術開発推進の背景
運輸省港湾局では、平成4年6月「人と地球にやさしい港湾の技術を目指して−港湾の技術開発の長期政策−」を策定し、その中で41の技術開発課題を抽出し、このうち10の重点技術開発課題を定めて技術開発に取り組んできたところである。また、港湾行政上の重要な技術課題を重点に取り組むため、港湾局の長・中期政策である「大交流時代を支える港湾」、「中期的な港湾整備のあり方」を踏まえ、平成8年度から五箇年にわたる「港湾の技術開発五箇年計画」を策定した。本五箇年計画では、技術開発成果の実用化に重点を置くとともに、これまでの技術的蓄積等を考慮して、以下の五つの重点技術開発テーマ及びその目標が設定された。
  1. 大型港湾施設の建設費の縮減
  2. リサイクル材料の実用化
  3. 地震に強い港の形成
  4. 自然環境と共生した港湾(エコポート)の形成
  5. 港湾機能の高度化
また、政府は公共事業に対し建設コストの縮減、品質の確保等の社会からの要請に鑑み、平成9年4月に『公共工事コスト縮減に関する行動指針』を策定するとともに、北海道開発庁においても『公共工事コスト縮減対策に関する行動計画』を策定し、取り組むべき具体的施策を明らかにしている。この施策においても、「新技術の開発・採用」という技術開発の推進がうたわれている。
2.北海道開発局における技術開発の取り組み

(1)技術開発の取組み方針

北海道開発局では港湾の個性化を推進するための施策である『北海道港湾の長期的方向』において、「物流・産業」、「自然」、「みなとと人間」の関わりを視点として施設を展開することにしている。これを支援する『技術開発』を積極的に行うため、平成6年度に「地域の個性輝く港湾技術の開発・北海道における港湾技術の開発計画」を策定し、技術開発に取り組んできた。(図−1)
図−1 北海道開発局における港湾技術の開発計画
   【北海道港湾の長期的方向】             【技術開発目標】

人々の暮らしをささえるみなとと物流・産業 ──┬─→ 寒冷地港湾の創造
                       │    ・寒冷地型施設の整備技術
                       ├─→ 安全で効率的な施工
                       │     ・効率的な施工技術
自然とみなとの新たな関わりの創造 ──────┼─→ 沿岸域環境の保全と利用
                       │     ・環境創造技術
                       │     ・環境調和技術
人間とみなとの新たな関わりの創造 ──────┴─→ 沿岸域環境の保全と利用 
	

これら港湾局及び北海道開発局の技術開発推進の背景を踏まえるとともに、北海道という地域性・特殊性等を考慮して以下の四つの重点開発技術テーマを定め、19項目の主要な技術開発課題に取り組むこととした。

  1. 寒冷海域の創造
  2. 安全で効率的な施工
  3. 沿岸域環境の保全と利用
  4. 人間交流空間の創造
また、北海道開発局では港湾整備とともに第3・4種の漁港整備も行っており、港湾・漁港に共通した技術開発課題についても積極的に取り組んでいる。この19項目について港湾局の技術開発五箇年計画と北海道開発局における技術開発計画の関係を取りまとめたのが、表−1である。
表−1 北海道開発局 技術開発5ヶ年計画 (北開局の重点テーマ・主要項目と運輸省港湾局の重点テーマとの関係)
北開局の重点テーマ 寒冷地港湾の創造 安全で効率的な施工 沿岸域環境の保全と利用 人間交流空間の創造
運輸省の重点テーマ
大型港湾施設の建設費縮減 @寒冷海域における摩擦増大マットの研究
A耐寒剤使用コンクリートの研究
Bコンクリート作業の効率化
C起重作業の自動化
D再開発・改良に適した構造の検討
E港湾の防災機能の向上に関する研究
リサイクル材料の実用化 F砂マウンド式湧昇流発生システムの開発
G道内港湾におけるリサイクル材の検討
地震に強い港の形成 H港湾の耐震性向上に関する研究
I津波対策調査
自然環境と共生した港湾の形成 J北海道沿岸環境調査 K港湾域の海水交換に関する研究
L環境調和型構造物の開発に関する研究
M港内水域の高度利用に関する研究
N快適な港湾空間の創造技術に関する研究
港湾機能の高度化 O全天候型埠頭建設技術 P水中トンネルの開発に関する研究
そ の 他 Q寒冷海域の海氷制御に関する研究 R港湾の開発効果に関する研究
(2)技術開発の推進体制
各技術開発課題は主に港湾建設事務(業)所が主体となり、本局、開発土木研究所、建設機械工作所及び大学等の研究機関と連携を図りながら取り組むものである。実施にあたっては、技術活用パイロット事業、試験フィールド事業等の技術開発制度を積極的に活用し、産・官・学で有機的に連携を図るものである。 北海道開発局ではこれら技術開発の研究に関する技術開発委員会を設け、北海道開発局が実施する全事業(港湾・漁港・道路・河川・農業・官庁営繕)について、国の技術開発、企業あるいは大学等の共同研究、民間技術の評価等を行うものである。また、港湾・漁港事業については、本局港湾部長を議長とする技術会議及びその下に同幹事会を設け、技術開発の方向や実施に関する決定、評価、成果の検証を行うこととしている。(図−2)
図−2 技術開発の推進体制
[北海道開発局]──────────┬───(技術開発委員会)─────技術活用パイロット事業
  ┃┃              └───(作業船開発委員会)         
  ┃┃
  ┃┗━━[港湾部・農水部]───┬───(技術会議)
  ┃               └───( 同  幹事会)
  ┣━━━[開発建設部]──────────────┬────────試験フィールド事業
  ┃      ┃                 │
  ┃      ┃                 │
  ┃      ┗━[港湾建設事務所]───────┘
  ┃        [港湾建設事業所] 
  ┃
  ┣━━━[開発土木研究所]───────(研究開発委員会)─────共同研究規定
  ┃
  ┗━━━[建設機械工作所]─────────────────────共同開発実施要領
	
3.主な技術開発項目の内容

(1)寒冷海域の創造


図−3 全天候型埠頭(屋根付、上屋付埠頭の例)

[全天候型埠頭建設技術の検討]
北海道のような積雪寒冷地にある港湾は主に、冬期間における風雪等により、荷役作業が劣悪な状況下にあり、流通機能・生産機能の停滞を余儀なくされている。また、市民のための臨港地区の公園緑地、親水施設、旅客ターミナル等についても現状では冬期間利用し難いものが多い。このため、野外作業の多い埠頭の労働環境の改善、作業日数の増大を図るとともに、冬期でも快適な港湾空間を創造するため、防風施設等のいわゆる全天候型施設の検討を行うものである。(図−3)
(2)安全で効率的な施工

図−4 新構造形式ケーソンイメージ図

[コンクリート作業の効率化]
  1. プレキャスト埋設型枠工法を用いたケーソン製作工法の開発
    現行のケーソン製作は、鉄筋の配筋、型枠の設置・取外し等に技術的熟練を必要とし、多くの労働力と工期を要している。このため、h形鋼とプレキャスト埋設型枠を用いる構造と工法を開発し、前記の問題点を解決し、工事の省力化と効率化及び工費の縮減を図るものである。(図−4)
  2. プレキャストコンクリート型枠に関する研究(水中コンクリートヘの適用例)
    従来の水中コンクリートの施工は、鋼製型枠の組立・運搬・設置・取外しと共に潜水士による水中作業が伴い、工期も要している。また、コンクリート打設前に波浪が来襲した場合、型枠の損壊の危険性もある。このため、現地作業の短縮化・省力化・耐波性の確保・安全性の向上を図るため、プレキャストコンクリートブロックによる型枠の開発に取り組むものである。今年度は福島漁港の−3.5m岸壁、−2.5m物揚場において本工法を採用し、施工性等の検討を行っている。(写真−1)

▼写真−1
(3)沿岸域環境の保全と利用

図−5 ヤリイカ産卵礁型被覆ブロック

[環境協調型構造物の開発に関する研究 ]
(藻場機能付防波堤、ヤリイカ産卵礁型被覆ブロック、ハタハタ産卵機能付防波堤の開発)
近年の港湾・漁港において、周辺の自然環境に配慮し、環境と調和した「やさしいみなとづくり」が求められている。このため、この様な環境の中で、より好適な生物環境整備の一環として水産協調型形式の構造を検討するものである。具体的検討内容としては、数種類のブロック形状、基質等を施工し、自然環境への適用性、経済性等を把握するものである。(図−5)
(4)人間交流空間の創造

図−6 新水防波堤の安全システム「クジラくん」
(高波が来襲するとクジラのように潮吹きで危険を知らせてくれる)

[快適な港湾空間技術に関する研究 ]
(親水防波堤の高波警報システムの特性試験)
近年、豊かなウォーターフロントの具現化の一つとして、一般の人々が魚釣り、海・港などの景観を楽しむための親水防波堤の整備が進められている。しかし、高波浪時には防波堤上は非常に危険な場所となるため、親水防波堤の管理・運営にあたっては、利用者の安全確保に対して細心の注意が必要となる。このため、波浪注意報や警報等を危険時の判断基準とせずに、防波堤上部工の形状を工夫することにより、「音」と「しぶき」で実際の来襲波の危険状況を把握できる方法(『クジラくん』)について検討するものである。(図−6)
[水中トンネルの開発に関する研究]
港湾のように、水域で隔てられた地区間をより経済的に、かつ短期的に結ぶ方法の一つに「水中トンネル」がある。しかし、深海域に建設する場合の技術的検討は行われているが、港湾区域内のように、浅海域で、波浪、流れの影響を受けやすい箇所での検討は十分行われていない。このため、港湾構造物として水中トンネルを建設する場合の施工技術について検討するものである。(図−7)

図−7 水中トンネル イメージ図


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