〈建設グラフ1998年2月号〉

寄稿

住宅・都市整備公団の改革について

建設省住宅局住宅・都市整備公団監理官  亀本 和彦 氏

亀本 和彦 (かめもと・かずひこ)
昭和21年8月25日生まれ、広島県出身。
昭和 45年 3月 東京大学法学部法律学科卒
4月 建設省入省
51年 4月 関東地方建設局河川部水政課長
53年 4月 宮崎県企画調整部地域政策課長
57年 4月 建設省都市局都市政策課長補佐
59年 7月 河川局河川総務課建設専門官
61年 6月 大臣官房政策課企画官
63年 7月 建設経済局労働資材対策室長
平成 2年 7月 都市局都市再開発課長
5年 7月 首都高速道路公団総務部長
8年 7月 建設省住宅局住宅・都市整備公団監理官

はじめに

建設省では、咋年来、行政に携わる者が、一番、その行政の歪み、改革を行わなければならない問題点を熟知しているという考え方に立って、建設省事業、関係特殊法人の事業を総点検し、その見直しの検討を行っている。特に、住宅・都市整備公団については、平成9年1月22日の衆議院本会議で、当時の亀井建設大臣が言明したように、官民の役割分担の視点などから、その機能の抜本的な見直しを行っている。
また、同年6月6日には、住宅・都市整備公団について、平成11年の通常国会において、法律改正を行い廃止し、都市開発・都市再開発業務を中心とした新法人を新たに設立し、業務を引き継ぐことを閣議決定しているところである。
本稿では、この住宅・都市整備公団の見直しについて、今まで果たしてきた公団の役割や、公団を取り巻く批判への対応を含めて、検討の方向を述べていくことにする。

1 住宅・都市整備公団の果たしてきた役割

 昭和30年の日本住宅公団の設立から今日まで、公団は各時代の要請を踏まえ、140万戸を超える住宅供給、12,000haの宅地の供給、また、100地区を超える都市の再開発等の整備を手がけ、国民生活の向上に貢献してきている。
 さらに、先般の阪神・淡路大震災では、震災直後から延べ7,000人を超える職員を派遣して復旧活動を行うとともに、復興事業に関しては、公的住宅の約4分の1を公団が担当するなど、その機動力を活かして、震災で居住の場をなくした方々の生活再建の支援に積極的に取り組んでいる。

(1)昭和30年代、40年代の公団
日本住宅公団が設立された昭和30年当時の我が国の社会経済状況は、戦災により、世帯数よりも住宅数が少ないという住宅の絶対量の不足、さらに、戦災復興による都市部ヘの大規模な人口流入により都市部の住宅事情が著しく悪い状況にあった。
このため、都市部の住宅・宅地の大量供給の担い手として、公団が設立され、公団はその期待に応え、年間8万戸を超える住宅供給を行うなど、戦後復興期、高度経済成長期の住宅事情の緩和に大きな役割を果たしてきた。また、その間には、食寝分離のdkスタイルの導入により、我が国全体の住生活を大きく変えるなど、住宅・宅地供給のパイオニアとしても大きな役割を果たしてきた。
(2)昭和50年代以降の公団
昭和48年の住宅統計調査により、戦後初めて住宅数が世帯数を上回ったことにより、住宅の絶対量の不足の時代は幕を閉じ、住宅政策は、欧米先進諸国よりも遅れている住宅の質の向上に切り替わっていった。
この変化の中で、日本住宅公団の役割も、住宅・宅地の大量供給から、住宅・宅地の質の向上の先導としての役割へと変わっていった。また、昭和56年には、昭和50年に設立された宅地開発公団との統合により、住宅・都市整備公団として生まれ変わり、質の高い住宅・宅地の供給、さらには、総合的な都市の整備を担当し、現在に至っている。

2 公団を取り巻く批判及びその対応

 公団については、咋年来、空家問題などの様々な批判があったが、既に所要の対策を講じてきているので、ここに紹介したい。

(1)空家問題
空家については、賃貸住宅、分譲住宅とも、首都圏でバブル経済期に建設、供給した住宅を中心に発生しており、平成8年12月末現在で、賃貸住宅の空家が約9,300戸(72万戸のストック全体の1.3%)、分譲住宅の売残りが約1,800戸(過去3か年度の供給戸数の約12%)となっている。これらの空家は、バブル経済崩壊後の住宅需要の低迷や、家賃・住宅価格の下落といった不動産市場全体に対するバブル経済崩壊後の影響が大きな要因であった。首都圏の公団住宅を民間住宅と比較すると、賃貸、分譲とも、平米単価でみればいまだ民間住宅よりも安いものの、質の向上という使命から床面積が大きくなっている分、総額として民間住宅よりも高くなり、割高惑が発生していた。
建設省としては、このような状況を踏まえ、公団に対して改善策の検討を指示し、賃貸住宅については、平成9年1月から約2万1千戸の住宅の家賃を平均14%値下げし、また、同年4月から傾斜家賃制度を5年間・4%上昇から8年間・2.5%上昇の緩やかな制度に変更する対策を本年1月から実施している。また、分譲住宅についても、本年8月から供給後2年を経過した団地の約1千戸の住宅の分譲価格を平均20%値下げし、販売の促進を図っているところである。
これらの対策等により、平成9年11月末の空家状況は、賃貸は約4,000戸(平成8年12月末比▲57%)、分譲は960戸(同▲47%)となっており、着実に解消が進んでいるところである。
(2)関連会社問題
公団には、その業務の補完及び効率化を図るために出資した企業が23杜あり、これらの企業との取引関係、特に、平成7年度末の経常利益が100億円を超える日本総合住生活鰍ニの取引関係が批判の対象となってきている。
日本総合住生活鰍ヘ、昭和36年に、公団賃貸住宅の管理戸数が10万戸を超えたのを機に、それまで公団が直接行っていた賃貸住宅の管理を効率的に実施するために公団が設立した会社である。同社が行っている業務は、本来的には公団が行うべき住宅管理業務の補完と、本来的には公団が行う業務ではないが、当時の民間メンテナンス業界の状況から同社が行っている大規模修繕工事等の2種類に大別される。
建設省としては、公団に対して、前者の公団補完業務については、契約関係の点検、見直しを指示し、公団が同社に貸与している駐車場敷地使用料の適正化、その他の契約単価の引下げを行う予定である。また、後者の民間と競合する業務については、設立以降の民間メンテナンス業界の成長を踏まえ、一昨年2月の閣議決定に沿って、大規模修繕工事のシェアを平成5年度の70%から平成8年度には41%へと減少させてきている。
これらにより、公団との取引関係により発生している同社の利益は、平成8年度末には約50億円と前年度比、半減したところである。さらに、その他の出資会社についても、その在り方、契約関係の見直しを指示している。

3 改革の方向

(1)改革の視点
まず、現在の公団改革に取り組む基本的な考え方をはっきりさせておきたい。
巷では、建設省・公団は、空家問題に対応するために公団の改革に取り組んでいるという評価があるが、空家問題は前述したようにバブル経済崩壊による現象面の問題であり、また、所要の対策を既に講じている。
一方、我々の取組の基本的な考え方は、国の政策実施機関に何を担当させていくことが効率的なのかという構造的な問題であり、たとえ、公団に空家問題がなかったとしても、仮に、空家問題が解決されたとしても取り組むべきものである。即ち、21世紀に向けて、我が国の行政機構を簡素化し、最小限の負担で効率的な行政を行っていくことが喫緊の課題であり、民間に任せる分野は民間に任せ、地方公共団体に任せる分野は地方公共団体に任せる。
また、設立後今日までの間の、さらには、21世紀に向けて、少子化、高齢化といった社会経済構造の変化を踏まえた見直しを行っていく必要がある。
(2)改革の方向
このような基本的な考え方に沿って、現在、検討を行っているところである。
【住宅建設】
分譲住宅建設については、投下資本回収期間が2〜3年と比較的短期であり、近年、民間デベロッパーにより首都圏だけでも8万戸近くのマンション供給があるという状況を踏まえ、民間で可能なものから原則として撤退していく方向で検討を行っている。
また、賃貸住宅建設については、国の政策として必要な、都心居住の推進、再開発等の街づくりと一体となった事業に特化していく方向で検討を進めている。これは、賃貸住宅経営は投下資本回収期間が超長期(公団では70年)にわたるため、土地所有者以外ではほとんど供給がなされていない状況である。
したがって、今後、災害に強く安全で、ゆとりある都市空間を目指して、都市内の再整備を行っていく上では、市場補完という意味で限定的ではあるが、公的機関の取組がなお必要であると考えている。また、過去に供給した72万戸のストックのうち、社会経済的に陳腐化したものの建替事業も、引き続き行う必要がある。
【住宅管理】
現在、公団では72万戸約200万人の居住する賃貸住宅を管理しており、これらの住宅の管理をどのように見直していくかは重要な検討課題である。
現在の居住者の特性を統計データでみると、65歳以上の高齢者が世帯主となっている住宅が約14%、年収400万円以下の世帯が約28%と、高齢者世帯、低所得者世帯がかなりの割合を占めている現状にある。
住宅管理については、先述の本年6月6日の閣議決定において、公団廃止後新たに設立される新法人に引き継ぐ予定とされている。いずれにせよ、現在の72万戸の居住者に不安を残すことがないように、しっかりとした管理を行う方向で検討していかなければならない。
【都市の整備】
現在の既成市街地の状況は、道路等が未整備で狭い敷地の老朽木造住宅が密集している地域が存在し、阪神・淡路大震災でこれらの密集市街地において大きな類焼の被害が発生したように、防災上の問題点を抱えている。また、欧米諸国の都市に比べて、道路、公園等の公共施設整備が遅れている状況にあり、21世紀に向けて、安全、快適で、ゆとりのある住空間を創造していくためには、都市の再開発などの街づくりを積極的に行っていくべきである。
その場合、道路、公園等の公共施設の整備、複数の地権者との公平な権利関係の調整等を的確に行っていく必要があり、民間に任せるだけで整然とした街並みが整備されるわけではない。また、地方公共団体の現在の体制だけでは、阪神・淡路大震災の復興事業からわかるとおり、十分でない。このため、公団が今までに培ってきた都市の総合的な整備のノウハウを発揮していくことが効率的であり、今後は、公団事業の重点を都市の整備に大きくシフトしていく方向で検討を進めているところである。

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