〈建設グラフ1998年2月号〉

寄稿

これからの学校施設整備について

札幌市教育委員会総務部長 古田 勝栄 氏

古田 勝栄 (ふるた・かつえい)

昭和17年7月20日生まれ、札幌市出身、小樽商大卒。
昭和41年7月札幌市入庁・総務局税務部配属、職員部勤労一係長、北区社会課事務係長、下水道局庶務係長、学校教育部調整主幹、同教職員二課長、経済局商工部商業課長、同経済企画課長、学校教育部参事、平成7年6月現職。

〈はじめに〉

昨今の子どもたちを取りまく環境として、社会状況の急激で複雑な変化の中で、子どもたちは「ゆとり」を失い、その歪みが犠牲とも思われるような事件の背景にあると考えられる。それに伴い、教育改革をめぐる議論も各分野で取り上げられる機会が増え、文部省でも、山積する課題の解決を図るため、中教審を始めとする各審議会等で議論されているところである。
こういった中にあって、地方自治体にとって学校教育をどの様に推進していくべきかということは、従前から大きな中心的課題の一つであり、地方分権の流れのなかで今後益々重要度が増すとも考えられる。
学校教育の充実のために行わなければならない教育条件の整備には、優秀な教員の確保や教育内容、指導方法の改善など多くの項目があるが、子どもたちにとって、学習の中心的な場であり、同時に一日の大半を過ごす生活の場でもある学校施設の充実は、学校教育を推進する上で主要な課題の一つである。

札幌市の学校施設整備における基本方針

平成9年度当初における札幌市立の学校数は、幼稚園17園、小学校211校(分校2校を含む)、中学校97校(分校2校を含む)、高等学校8校、養護学校3校であり、現在も新設中学校を1校建設中である。
これら学校施設整備に係る予算額は、平成9年度当初予算で約170億円に上っている。
現在の学校施設整備の仕組みは、「義務教育諸学校施設費国庫負担法」を始めとする諸法令に基づき、定められた一定の基準に応じた国の負担の下で、新増改築等の主要な整備が行われており、札幌市においても、この国庫補助金を導入しながら学校施設整備を進めている。
ところで、札幌市の学校教育推進の目標は、生涯学習の基礎となる自己教育力をはぐくみ、国際社会で信頼と尊敬を得るにふさわしい、人間性豊かな児童生徒の育成を目指すことにある。
この実現のために学校施設は、児童生徒の自ら主体的に学ぼうとする意欲に応え、心身ともに健全で、創造性豊かな知性をはぐくむ学習教育環境であると同時に、家庭や地域に開かれた、豊かで潤いのある生活環境であることが重要となる。
近年、中教審の第一次答申で取り上げられた「生きる力」の育成や教育課程審議会における「総合的な学習」など、学校教育に関わる新しい、より多様で柔軟なシステムヘの転換方策が検討されている。これらの流れのなかで、文部省でも、平成9年度より、小・中学校校舎の基準面積の改定が行われ、ゆとりとふれあい、更には交流の空間を兼ね備えた学校施設づくりを目指して、本格的な質的整備の時代をむかえている。
札幌市の学校施設整備を省みると、児童生徒数が増加し続けた昭和50年代の後半までは、新設校の数も多く、画一的な施設整備になりがちであった。しかし、昭和59年度より文部省が補助制度として、用途を特定しないスペースである多目的スペースを導入したことを契機に、個々の学校の立地条件に応じた基本設計を行い、多目的スペースを備えたより高機能な学校施設整備へと変化してきた経緯がある。
現在では、先の基準面積の改定をも踏まえ「教育・学習方法の多様化に対応する施設づくり」「豊かな生活環境としての学校施設づくり」「地域に根ざした施設づくり」の三点を大きな柱として、学校施設整備を計画しているところである。

将来の教育を想定した施設整備
@「生きる力」をはぐくむ施設整備
「生きる力」とは,先の中教審第一次答申の基本理念であり、それによれば、社会の変化に対し自ら学び、考え、主体的に判断し、行動し、問題を解決する資質及び能力でありまた、自らを律し、他とも協調する心豊かな人間性と、これらを実現する健康と体力も兼ね備えていなければならないと述べられている。
この「生きる力」をはぐくむためには、学校にも家庭にもゆとりが生まれなければならず、それに合った学校教育制度の見直しや教育課程の見直しも必要なこととなる。
これからの学校施設を考える上では、こういった制度改革や教育内容の見直し、学習指導方法の変化に柔軟に対応できることは元より、子どもたちの自由な発想や創造力を引出し、伸ばすような環境づくりが大切になる。
また、子どもたちが今何を考え、何を求めているのか常に感じ取れるような、教師と子どもあるいは、家庭と学校との交流空間づくりも重要であると考える。
A高度情報化社会への対応
近年加速するコンピュータや通信機器の普及に伴い、情報通信の高速化、高度化が急激に進行しており、この傾向は今後も加速するものと考えられる。これからの社会は、まさに高度情報化社会であり、更に、これに伴う国際化が進行するものと想定される。
そのためには、まず小・中学校段階で、コンピュータを道具として使いこなせるようになることが重要であり、併せて、コミュニケーションの手段としての外国語の習得と国際的な感覚を備えた体系的な情報教育を行うことが必要となってくると考えられる。
これからの学校施設を考える上では、これらの視点から、コンピュータや視聴覚機器などを備えた、高機能でより多目的に活用できるスペースづくりが求められる。また、学校の情報基地としての学校図書館を充実させ、これらの連携を考慮した、より柔軟な施設づくりが求められると考える。
B地域の中の学校施設
現代は生涯学習社会だと言われる。一人ひとりがその年齢や生活の場面に応じた興味や関心に基づき、自己を高め、人生をより豊かなものにしようとする気運は、益々高まっている。
札幌市でも、平成7年度に「生涯学習基本構想」を策定し、その実現を目指しているところである。
このなかでも触れているが、これからの学校施設はこれら生涯学習ニーズに応え得る、生涯学習施設としての機能も必要とされている。これまでも進めてきた屋内運動場の開放事業などはもちろん、少子化に伴う余裕教室についてもその活用を積極的に進める必要がある。特に、今後は校舎の学校開放については、これを意識した施設計画とする必要があると考える。

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