建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年12月号〉

寄稿

青森市における下水道整備の現状と課題

青森市 下水道部長 石川 一夫

石川 一夫 いしかわ・かずお
平成 2年4月港湾河川課長
平成 4年4月道路課長
平成 7年4月建設部次長
平成10年4月都市政策部理事
平成12年4月現職
市の概況
青森市は本州北端青森県の中央部にあって津軽地方と南部地方の中間に位置し、東に下北半島・西に津軽半島を抱いた陸奥湾に臨み、その背後は奥羽山脈の八甲田連峰からなり、山麓部から臨海部までは沖積平野が形成されている。
行政区域は、692.39平方キロメートルと広く、東部と南部は標高900〜1,500mの奥羽山脈、西部は200m前後の緩やかな起伏をなす台地となって臨海中心地域に市街地が形成されており、豊かな自然に囲まれた街である。
気象は一般的に夏は短く冬の長い積雪寒冷の日本海型気候で、主な平年値は次のとおりとなっている。
平均気温 10.1℃
降水量 1,289.9mm/年
平均風速('89〜'00) 3.7m/s
最深積雪の平均 114cm
累計降雪量 765cm

(青森気象台'71〜'00)


下水道整備の変遷
本市の公共下水道事業は、昭和27年に市街地の水害解消を主な目的として、当時の市街地のほぼ全域である625haを対象に合流式により事業に着手した。
昭和30年代後半から、下水道に対する市民の要望が単なる水害解消から水洗化へと変化し始めたことから、下水道事業も水洗化を含めた生活環境の改善と公共用水域の水質保全を主たる目的とし、昭和43年には八重田終末処理場の建設に着手し、昭和48年から簡易処理を開始、翌49年には高級処理に移行した。また、合流式を対象とした面積は、最終的には760haとなり、昭和57年度で概ねその整備は終了した。
その間、本市においても、事業着手の早い多くの都市同様、当初計画した合流区域以外へ整備区域を拡大するにあたり、その排除方式の決定がせまられることとなった。
本市の場合、平坦な地形という自然的条件から、雨水の排除や管の埋設深等を考慮した場合、施工性の観点からは合流式が望ましいと考えられていた。
しかし、合流式の場合、豪雨時には雨水吐きによる汚濁水の流出が防ぎ得ないこと、また多くの市民が水洗化のための下水道整備を待ち望んでいる状況から、「河川・海域等の公共用水域の汚濁防止」と「下水道の普及促進(面整備)」という面で、分流式が合流式より優れていることから、合流区域背後地の下水道整備については、分流式を採用することとし、合流整備にほぼ目処がつき始めた昭和54年度から整備に着手した。
分流方式による下水道整備区域を拡大していく過程において、東部地区の汚水処理を受け持ち既に供用開始している八重田浄化センターに続き、昭和61年には西部地区においても新田浄化センターを供用開始したところである。
昭和27年から着手した下水道整備も、昭和63年までは、処理場・ポンプ場等の施設整備に費用と時間を要したこともあり、処理人口普及率は、37年間で37.7%と年平均普及率の伸びは1%弱にとどまっていたが、平成元年から
1.生活環境の改善と陸奥湾・河川等の公共用水域の水質保全。
2.克雪対策への積極的な取り組みと同時に、積雪期におけるし尿収集の困難を解消するため、水洗化の一層の促進。
3.コンパクトシティーを標榜し、魅力ある街づくりを志向した下水道整備の推進。
4.地表勾配の無さに起因し、滞留しやすい道路側溝への生活雑排水等の流出抑制。
という、4つの基本方針をかかげ、最重点事業としてより一層の整備促進を図ってきた。この結果、平成元年からは普及率の年平均伸び率は2%強で、平成12年度末において処理人口普及率は61.8%となり、ようやく全国平均(62%)に近づいたところである。
克雪への取り組み
本市は人口30万人を擁する都市としては国内外でも有数の多雪都市であり、県庁所在地では唯一特別豪雪地帯に指定され、累計降雪量の平年値は765cm、最大積雪深の平年値は114pにも達している。
克雪対策は、機械による除排雪を主として行われているが、近年、市街地における宅地化の進展に伴い、年々空地が減少し、雪寄せ場がなくなってきていることから、除雪の度毎にダンプトラックによる排雪をせざるを得ない状況になっている。
そのため、雪堆積場を郊外部に確保しているものの、運搬距離や制限される作業時間の関係から、排雪量の約5〜6割は陸奥湾へ直接投棄され、豪雪に見舞われた昨冬は120万立方メートルもの量となっている。
海中投棄場所となっている陸奥湾は、豊かな水産資源や自然景観等に恵まれながらも閉鎖性の高い水域で、様々な生活・産業活動により水質汚染や生態系の崩壊等が危惧される状況となっている。このことから、“宝の海陸奥湾”を守るため、沿岸14市町村が一体となって取り組む「陸奥湾保全・再生プラン」の中心事業として、環境に優しい雪処理を行うため「積雪・融雪処理槽」整備事業を立ち上げ、平成11年度から事業に着手し、平成16年1月の供用開始を目指し、鋭意工事を進めているところである。
その機能としては、冬期間陸奥湾に直接投棄している雪を一旦融雪槽に投入し、約6万立方メートルの下水処理水で溶かしながら、ゴミ・土砂等を沈殿させ上水は海へ放流、沈殿物は春先に槽内の清掃及び浚渫をして処理するというものである。(融雪能力約10,000立方メートル/日)
一方、冬期間以外は、合流施設の改善策として貯留槽とし活用するもので、集中的な降雨の際、合流管を通して集まってくる初期の下水を一時貯留し、その後高級処理施設へ送水する機能を併せ持った施設(貯留能力9,000立方メートル)となっており、これらによって陸奥湾の水質汚濁を防止しようとするものである。
一方、克雪への取り組みとして、整備区域拡大に伴い有効活用が可能な処理水量が確保出来るようになった昭和60年、建設省が打ち出した“アメニティ下水道構想”に基づき全国に先駆け下水道の処理水を利用した融・流雪溝の整備に着手し、平成12年度末までに青森県施工分も含め、延長6,058mの整備を進めるとともに、都市下水路においても融・流雪機能を兼ね備えた延長1,250mの整備を終えているところである。その除排雪効果は予想以上に大きく、関係方面及び地域住民より絶賛され、下水道に対する印象を一変させたところであり、今後においても、処理水の増加に合わせ、融・流雪溝の延伸を図っていくこととしている。
今後の課題
本市における下水道整備事業は、「きれいな、豊かな陸奥湾を次世代へ」を最重要課題とし整備を推進してきたところである。
湾内は、自然と、そこに生きづく生態系に恵まれながら、ホタテをはじめとする魚介類などのかけがえのない恵みを我々にもたらすとともに、多くの海水浴場や釣り場などが存在し、レクリエーションの場として利用されるなど、人々に憩いと安らぎを与え、自然とふれあえる大切な場となっている。
本市で発生する汚水は、最終的にその全量が湾内に流出し、沿岸14市町村のうち、本市はおよそ人口の7割、汚水発生量の8割を占めていることから、“宝の海陸奥湾”の保全は、ひとえに本市下水道整備の状況如何にかかっている。
汚水整備においては、ようやく処理人口普及率が全国平均レベルに近づいたところであるが、豊かな生態系が育まれる環境の保全・再生を図るため、継続的な施策・事業の展開が求められているところである。
一方、近年全国各地において、集中豪雨による都市型水害が発生し、その対応に苦慮しているところであるが、青森市においても平成12年7月25日、1時間に64mmという青森地方気象台観測史上最高の集中豪雨に見舞われ、合流式で整備された市街地中心部その周辺域において、道路冠水被害が発生するとともに、床上浸水105件、床下浸水386件の住宅浸水被害が発生したところである。
このような事態を踏まえ、雨水計画の対象としている降雨強度及び土地利用の変化に伴う雨水流出係数の変化の状況等の調査を行うとともに、既設及び計画中の雨水幹線の能力検証を実施したところである。現在検証結果に基づき、合流地区における貯留・バイパス・分流化等の改善策および分流地区における強制排除施設の整備計画等、雨水流出抑制策も含めた基本計画の見直しを進めているところである。
今後において、現在の汚水整備のスピードを緩めることなく、新たな雨水対策を進めるために、今まで以上に費用対効果を高め、緊急性・実効性を考慮した整備計画を立案するとともに国・県の支援を頂きながら事業の推進を図っていきたいと考えているところである。 

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