〈建設グラフ1999年12月号〉

寄稿

幾多の災害を克服した新潟下水道

新潟市都市整備局 下水道部長 石井洋司 氏

石井洋司 いしい・ようじ
昭和46年信州大学工学部 土木工学科卒
昭和46年新潟市採用
平成 7年新潟市都市整備局都市計画部西港周辺整備対策課長
平成 9年新潟市都市整備局都市計画部参事
平成11年現職
はじめに
日本一の大河・信濃川と阿賀野川が日本海で出逢う街、それが新潟市です。
日本列島の日本海側ほぼ中央に位置しており、日本海に沿って細長い形状をなし、水と緑の自然環境に恵まれて、「水の都」「みなとまち」として古くから栄えてきました。
近年は、上越新幹線や関越・北陸・磐越自動車道等の整備、新潟空港や新潟港を活かした対岸諸国をはじめとする世界各国との国際交流が活発化し、拠点性が高まる中で、環日本海の中枢拠点都市として躍進を続けています。
下水道計画の概要
本市の下水道事業は昭和27年、船見処理区(412ha)の着手にはじまります。その後、昭和32年からの地盤沈下、同39年の新潟地震により壊滅的な打撃を受けましたが先人たちのたゆまぬ努力であいつぐ大災害を克服しながら、処理区域の拡大を実現してきました。
現在では、流域別下水道整備総合計画と整合した基本計画をもとに、将来の想定市街地11,605haを対象に、単独公共の船見・中部ならびに流域関連公共の東部・北部・西部の5処理区を設定しています。全体の認可面積として、特定環境保全公共下水道による島見・赤塚の2つの地区をあわせ、7,481.5haにおいて整備の推進に努めております。
普及率の向上
第8次下水道整備7箇年計画の中で下水道処理区域の拡大を最重要課題として取り組んでおり、平均年3%の普及率向上を目標に積極的に整備を進めています。これにより、平成3年の7次5計スタートから8年間で普及率を約2倍にまで引上げ、平成10年度末普及率58.4%、農業集落排水事業等も含めると61.3%の市民が下水道の恩恵を享受できるようになりました。
今年度も引続き普及率3%アップを確保するため、管渠整備延長92.5km、整備面積333.2haを目指しております。
また、処理区域の拡大とともに水洗化の促進が大きな課題です。このため、私道への公共下水道の整備をはじめ、水洗化工事についての貸付金・助成金、共同管工事への助成の各制度を設けており、不況下にもかかわらず大きな成果(82%)を上げているところです。今後とも、水洗化促進策の拡充を図るとともに市民の理解と協力を得るよう努めていきたいと考えております。
雨水改善事業の推進
河口部にあって海抜0m以下の低地を多く抱える本市は、雨水をポンプにより強制排水しなければならないという宿命を背負っています。これまで市内各地に雨水ポンプ場を整備するなど雨水整備には力を注いでまいりましたが、残念ながら浸水解消には至っておりません。
とりわけ近年の急速な都市化に伴い、下水道整備済み区域で、雨水浸水被害の発生地域が拡大するようになったため、この抜本的対策として、平成3年度から、旧基準を10年確率まで引き上げる雨水改善事業に取り組んでいます。 雨水改善とは、既設の下水道管渠網に効果的に分水孔を配置し、降雨時に一定量の流量をオーバーフローさせて、既設管より深く埋設した雨水バイパス管に落とし込み、専用のポンプ場から排水しようとするものです。
平成9年6月には山の下排水区の松島ポンプ場(4F/s)、昨年度には船見処理区の東堀幹線及び白山公園ポンプ場(20F/s)を供用開始いたしました。これらのポンプ場と雨水バイパス管の整備により、昨年8月4日に本市を襲った集中豪雨が時間最大97mmという未曾有の降雨量を記録したにもかかわらず、昭和59年(時間最大52mm)の被害に比べ、床上浸水戸数が約6割減少するなど、大きな改善効果がありました。
さらに昨年の8・4集中豪雨を踏まえ、改善計画区域を拡大して、小新・関新・新下山の新規雨水専用ポンプ場や雨水バイパス管の整備を推進しております。
▲平成10年8月4日 集中豪雨の様子
新たな取組み
地球的規模で環境問題が問われ、循環型社会の構築が求められている中で、都市における水循環の再生など、下水道が果たす役割が大きく変化しています。
近年、まちの発展とともに、建物が密集し、舗装で覆われた市街地では雨水が地面に浸透できず、斜面などをそのまま流れて、低地での浸水被害の一因となっています。また、湧き水の枯渇により、本市の大切な自然環境であるラムサール条約登録湿地の佐潟や、じゅんさい池などの砂丘湖の水位が低下するなど、水循環が阻害されてきています。
これからの雨水対策の考え方として、雨水排除能力を増強するだけでなく、雨水の地下浸透や貯留有効利用により、雨水の流出を抑えるとともに、健全な水循環の再生を図ることが重要と思われます。
本市では、平成8年から雨水流出抑制についての調査を開始し、基本計画や技術指針案を策定するとともに、市民モニターを募り、宅地内の浸透桝や貯留タンクの調査、雨水抑制についてのアンケートを行ってきました。
この調査をもとに、公共施設からの雨水流出抑制を図るため、学校などに雨水貯留浸透施設の整備を進めることとあわせて、こどもたちに水資源の大切さや雨水対策への理解を深めてもらおうと雨水を利用した手押しポンプを設置しています。
さらに来年からは、まち全体の雨水流出抑制の促進に向け、宅地内浸透桝等の設置助成を実施する予定です。
今後は、雨水などを再利用した施設整備やせせらぎ空間の創造など、都市環境の中での水循環再生を図っていきたいと考えています。
おわりに
下水道は、本格的な高齢社会が到来する前に取り組むべき最重要課題としてとらえ、財政状況が厳しいなか創意工夫を凝らしながら着実にその整備を推進し、来るべき21世紀には、市民が真に豊かで快適な生活を送ることができるよう願っております。

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