建設グラフインターネットダイジェスト
〈建設グラフ2001年11月号〉
寄稿
下水道事業の現状と課題について
国土交通省都市・地域整備局 下水道部長 曽小川 久貴 氏
曽小川 久貴 そおかわ・ひさたか
生 年:昭和22年、出身地:宮崎県
昭和46年4月建設省入省
平成5年7月日本下水道事業団計画部上席調査役
平成6年4月建設省都市局下水道部下水道企画課下水道事業調整官
平成9年4月建設省中国地方建設局河川部長
平成11年4月建設省都市局下水道部公共下水道課長
平成12年6月建設省都市局下水道部長
平成13年1月国土交通省都市・地域整備局下水道部長
はじめに
21世紀の幕開けに合わせ、我が国の近代下水道の歴史も新たな世紀へと船出した。20世紀の下水道は、欧米諸国の整備水準に追いつくことを目標に計画的な整備が進められ、特に70年代以降社会問題と化した公共用水域の水質汚濁を改善するため、世界に類を見ない規模で整備促進が図られた。その結果、処理人口普及率は60%に達するとともに、河川水質の改善が図られてきたが、依然として閉鎖性水域の水質改善、都市型水害、循環型社会の構築のための下水道資源の有効利用など多くの課題が残されている。
下水道事業の現状
我が国の下水道は、8次にわたる下水道整備五(七)箇年計画に基づき、計画的な整備が図られてきた結果、00年3月の下水道普及率は60%の大台に達成した。この結果、河川の水質環境基準の達成率は約80%となり、隅田川の花火や早慶レガッタなど水に関する風物詩等が復活するなど、顕著な改善事例が見られる。しかしながら、人口5万人未満の中小市町村では24%に過ぎず、地域間の格差が大きい。また、大都市においても高度処理の導入が進まず、合流式下水道の越流水対策や雨天時初期のノンポイント汚濁対策の遅れから、閉鎮性水域での水質改善は進んでおらず、赤潮の発生や水道水のカビ臭が問題となっている。
一方、雨水対策についてみると整備率は49%に止まり、指定都市においても74%に過ぎない。これは汚水対策を先行したことによるものであるが、都市化の伸展による流出係数の上昇、局地的集中豪雨、地下空間利用の進展によって、相対的な浸水安全度の低下が見られる。反面、都市域の拡大による不浸透域の増大によって平常時の河川流量が減少するなど、都市の良好な水環境が徐々に消失し、多様な生態系が失われている。
下水道事業の課題
下水道の整備の目的は、公衆衛生や浸水対策、便所の水洗化、公共用水域の水質保全のほか、今では循環型社会や高度情報化社会の中で汚泥や処理水等の資源の有効利用が求められている。
中小市町村の整備促進
中小市町村の整備は大幅に遅れており、ナショナルミニマムとして早急な格差の解消が課題となる。これらの市町村では小規模であるうえ、家屋が散在するなど、一般に割高となる傾向にある。
このため、地域特性を考慮した適切な汚水処理施設計画のもと、事業の広域化や他事業との連携等によって建設面のほか維持管理面での一層の効率化に努める必要がある。
安全・安心な社会の形成
近年では時間雨量100mmを超える局地的集中豪雨も珍しくない。また、地下街等の高度利用や地下鉄の発達によって、都市及び都市機能が浸水に対し極めて脆弱になっており、一層の安全度の低下を招く事態となっている。安全・安心な社会の形成は最も基本的な要件であり、河川事業との連携を図りつつ排水管やポンプ場の整備のほか、流域内での浸透・貯留や土地利用規制など、ハード、ソフト両面からの総合的な雨水対策が必要となっている。
合流式下水道の改善
先行して下水道整備に着手した多くの都市では合流式下水道が採用され、その規模は全国192都市(一部地域を含む)、面積で1/5、人口で1/3を占めている。雨天時における未処理越流水は放流水域に深刻な影響を与えており、越流頻度の大幅な減少措置や分流化等抜本的な改善計画の策定と実施が喫緊の課題である。このため、委員会を設置し、現在改善方策について鋭意検討を進めているところである。
良好な水環境の創造
今や生活用水の3/4が下水道システムを経由しており、健全な水循環を確保するためには、下水道の存在が欠かせない。潤いと安らぎのある良好な水環境を創造するため、高度処理の促進を図るとともに、合流式下水道の改善対策、ノンポイント汚濁対策が必要である。さらに、下水処理水を活用し、流況改善による都市内河川や水路の良好な水環境の復活が求められる。このほか、病原性微生物や環境ホルモンなどの新たな水系リスクヘの対応が求められる。これらの水系リスクには人体・生態系への影響について未解明な点が多いため、技術的知見の蓄積や技術開発を進める必要がある。
循環型社会の構築
循環型社会を進めるため、下水道資源の有効活用が求められる。下水処理水は全処理水量の約1%(1.3億トン)が工業用水やトイレ用水などに利用されているが、今後都市内の貴重な水資源として積極的な利用が求められる。
また、下水汚泥の処分地は逼迫の度を強めており、ゼロエミッション型社会を目指して緑農地利用や建設資材としての利用を図っていくべきである。このほか地球温暖化防止の観点から、地域冷暖房や消雪用水として下水や処理水熱の活用が求められる。
IT革命への貢献
世界最先端の高度情報化社会(e-japan)を構築するため、約30万kmの敷設延長を持つ下水道の管渠空間が光ファイバーの収容空間として注目を集めている。特に、各使用者まで接続している下水道の特性を活かし、ftthやfttoの構築に期待が高まっている。既に民間通信事業者による下水管渠の占用を認めるとともに、積極的な活用を促すため開放手続きに関するガイドラインを公表している。また、下水道管理用として、遠隔監視のほか、工場排水の監視や自動検針など効率的な運転管理を進めることが望まれる。
計画的な改築・更新及び再構築の推進
後れていた社会基盤施設も20世紀の計画的投資によって、多くのストックを有することとなった。今後、このストックを如何に適切に維持管理、更新していくかが課題となる。予測によれば、21世紀半ばには新規投資に充当できる事業費が極端に減少すると言われている。特に、総人口の減少が予測されるなかで、ライフラインとしての下水道の機能を維持し統けるため、lcc(ライフサイクルコスト)の最小化と計画的かつ適正な改築・更新が重要となる。
最後に
以上、下水道事業が抱える当面の課題について触れてきた。
現在、下水道政策検討委員会において、「今後の下水道のあり方は如何にあるべきか」をテーマに費用負担、長期計画、流域管理の小委員会で検討を進めている。
下水道行政の関わる分野が、水循環など広範囲に拡大している状況を勘案し、新たな制度的枠組みや法改正を視野に入れ検討を進めることとしている。
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