建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年11月号〉

寄稿

札幌市の下水道事業について

札幌市下水道局長 小西 十四夫 氏

小西 十四夫 こにし・としお
昭和19年 1月14日生まれ
昭和41年 7月札幌市採用
昭和51年 7月下水道局施設建設課施設一係長
昭和58年 9月同設計一係長
昭和60年 7月下水道局工事部施設建設課技術主幹
昭和62年10月同施設建設課長
平成 3年同管渠担当部長
平成 7年 6月下水道局工事部長
平成 9年 4月同建設部長(部名称変更)
平成11年 6月現職
本市下水道の歩み
北の理想都市をめざす札幌は、創建130年余を経て、今日では180万人を超える人口を擁する大都市に成長しました。
下水道は、都市における基礎的かつ重要な都市基盤施設として、この札幌を地下から支えるべく、大正15年の事業着手から70余年の歳月にわたって機能の充実を図ってきました。
本市の公共下水道整備は、昭和45年度末までは管きょ延長910q、処理人口19万4千人、総人口に対する下水道普及率は19.2%にすぎませんでしたが、過密化する都市の生活環境と膨張著しい周辺市街地の整備を目標とした札幌市長期総合計画の策定を受けて、昭和46年度に第1次下水道整備5ヵ年計画をスタートさせ、本格的な普及促進・施設整備を開始しました。これにより本市の下水道整備は飛躍的に伸びることとなりますが、これはちょうど、札幌オリンピックの開催や政令指定都市への移行を目前とする頃でありました。
その後も、引き続き第2次から第8次にわたる5ヵ年計画により整備を進めてきた結果、平成12年度末では管きょ延長7,700q、処理人口180万8千人、普及率99.2%を達成するまでに至っています。
下水道が抱える課題
先人達のたゆまぬ努力もあって、本市の下水道整備は上記のとおり当面必要となる施設及び普及の観点からはかなり高い水準に到達したといえますが、近年、特に大都市の下水道においては、普及対策が収束しつつある一方で、浸水被害の解消や汚泥処理の集中化、さらには環境問題に結びつく合流式下水道の改善や高度処理の推進、そして災害に強い施設やシステムの構築、下水道資源・施設の有効利用など、新たな役割が増大しています。
また、同時に、管路を含めた施設の老朽化についても、効率的・計画的な改築・更新・再構築を実施していくことが大きな課題となってきており、自治体として主体的に取り組まなくてはならない問題はなお山積しているのが実情であります。今後は、下水道機能の維持・拡充に努めるとともに、従来の枠組みを超えた広範な役割をめざした事業展開が必要となってきます。
一方で、長期的な財政展望としては、資産額で8千億円という膨大な施設を抱え、その維持管理費の増加が避けられない中、景気低迷等に伴う使用料収入は今後も大幅な増収が見込めない状況にあり、併せて今後の企業債償還金の増加、さらには国の公共事業見直しの方針等への対応も見据えた経営のあり方が問われることとなります。
基本理念と経営指針
このようなことを踏まえ、平成10年度に、本市下水道局では、下水道事業の運営に当たっての基本理念と経営指針を設けることとしました。
前述のように、下水道事業は新たな局面を迎えており、今後はより一層、企業経営の視点を念頭に事業を推進していく必要があり、併せて下水道事業自体が「下水道サービス」を商品とする企業でもあることから、適正な経費負担区分を前提として、健全な財政運営を堅持することを再認識する必要があったからです。
その内容について少しご紹介いたしますと、
次世代を見据える」というフレーズにより、地球規模での環境保全に対して積極的に貢献し次世代に快適な街として誇れる財産を残すこと基本理念として、この理念の実現に向けて、3つの指針を設けて事業経営を推進することとしました。具体的には、
(1)「コスト意識」を磨く〜職員の一人ひとりが明確なコスト意識を持ち、効率的な事業運営を追求する中で、最小の経費で最大の効果が得られるように創意工夫を発揮し、職員一丸となって健全な事業運営に努める。
(2)「発想の転換」を図る〜行政全般にわたり発想の転換が求められており、新しい時代に対応した事業展開を図るため、大胆で柔軟な発想を取り入れた中で将来の下水道事業を展望する。
(3)「市民の信頼」に応える〜下水道サービスの対価として市民に応分の負担を求めていることを強く意識し、より一層の市民の理解・協力を得るために、下水道事業の必要性について効果的な広報を行うとともに、必要な情報を積極的に提供し、信頼を得る。
以上が3つの指針の内容です。
現在の整備計画と下水道のこれから
この経営の基本理念と経営指針を踏まえて、本市では平成12年度から市の第4次長期総合計画に合わせて第8次札幌市下水道整備5か年計画がスタートしました。この5か年計画は、「普及促進」「改築・更新・再構築」「浸水対策」「水質改善」「雪対策」「地震対策」「下水道資源・施設の有効利用等」の七つの施策を進めることとしており、より企業経営的な視点から、緊急度・重要性・市民要望等により事業を厳選し総事業費は前計画に比べて12.4%減の1,490億円となりました。
その計画内容は、平成17年度の供用開始を目指して本市で10番目の処理場となる東部処理場の建設に着手するほか、下水道施設の改築・更新を重点施策と位置付け、汚泥処理の集中化に向けて整備を行う再構築事業を合わせて、全体の30%強の事業費をかけて老朽化した管路・ポンプ場・処理場の改築・更新等を効率的に実施します。その他、限られた財源の中で、きめこまかな浸水対策や環境保全を推進する水質改善、市民要望の高い雪対策などにも積極的に取り組む内容となっています。
このうち雪対策事業については下水道の施設や処理水の有効利用を通して、市民の冬の暮らしをサポートするもので、新川処理場の融雪槽、伏古川処理場の融雪管などの融雪施設や流雪溝関連の整備を進めるほか、新たに公共用地等を利用した「地域密着型投雪施設」を4か所設置し、全市の年間排雪量に占める下水道による処理能力を、20%程度まで高める計画としています。
もちろん、このような計画推進の一方で、これまで汚泥処理の集中化や検針業務の一部委託、管理事務所の集約・拠点化など経営効率化にも積極的に取り組んでまいりました。今後も引き続き、集約化による効率的な組織の構築など、将来の事業執行体制のあり方について、幅広い議論を重ねながら効率化に取り組んでまいります。
また、これからは下水道事業の必要性・重要性等について、市民の理解を求め、協力していただくためのpr・啓発等により一層の努力が不可欠であることは言うまでもありません。
このほか、現在、札幌市全体で環境マネジメントシステムの構築を図り、ISO14001の認定を得ようとの取り組みが行われており、良好な水環境を守る立場である下水道局としても、環境問題への意識高揚を図り、このシステムを事業運営の基本的な仕組みとして、環境負荷の低減にも取り組んでいかなくてはならないと痛感しております。
科学の進歩・技術革新が人間に利便と快適という大きな恩恵を与えた20世紀が終わり、21世紀は環境の時代であるとも言われております。下水道は快適で安全な生活環境を実現する基本的な役割のみならず、地球規模での水循環における環境保全の重要な担い手でもあり、今後ますます環境保全への貢献が大きく期待される存在であると認識しているところです。また、本市のような積雪寒冷都市においては市民要望の高い雪対策に果たす役割も大きく、下水道事業に携わる者としてその責任の重さを感じているところです。
下水道を取り巻く環境は前述のように決して楽観できるものではありませんが、今後とも効率的かつ効果的な事業執行に務め、後世に残る魅力ある資産としての「下水道」の構築に職員一丸となり全力を尽くしてまいりたいと考えております。

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