〈建設グラフ1997年10月号〉

寄稿

第9次治水事業五箇年計画について

北海道開発局 建設部 河川計画課長 吉田義一 氏

吉田 義一 よしだ・よしかず
昭和25年2月3日生まれ、47年北海道大工卒
昭和47年北海道開発庁入庁 旭川開建大雪ダム建設
昭和50年網走開建鹿ノ子ダム建調査設計班計画係長
昭和51年建設省
昭和53年建設省中部地方建設局
昭和56年帯広開建札内川ダム調所長
昭和59年室蘭開建沙流川ダム建所長
昭和61年石狩川開建工務第1課長
昭和62年石狩川開建計画課長
平成 3年開発局河川計画課河川企画官
平成 5年石狩川開建次長
平成 6年室蘭開建次長
平成 8年開発局河川管理課長
平成 9年現職
1.はじめに
安全な社会基盤の形成、水と緑豊かな生活環境の創造及び超過洪水、異常渇水等に備える危機管理施策の展開を基本方針として、平成4年度から進めてきた第8次治水事業五箇年計画が平成8年度をもって終了しました。
しかし、なお頻発する水害・土砂災害等に対処し、国民の生命・財産を守るとともに、水と緑によるうるおいと活力のある豊かさを実感できる国民生活の実現に向けて、引き続き事業を緊急かつ計画的に実施する必要があります。このため新たに平成9年度を初年度とする第9次治水事業五箇年計画の策定に向け、治山治水緊急措置法の一部を改正する法律案が平成9年5月1日に公布されたところです。
なお平成9年6月3日に閣議決定された「財政構造改革の推進について」においては、「現行の長期計画の整備の基本的考え方は維持しつつ、財政構造改革の趣旨を踏まえ、計画期間を、(中略)それぞれ2年延長する」とされており、今後これらをふまえて治水事業五箇年計画の閣議決定がなされる予定です。
2.第9次治水事業五箇年計画(案)
(単位:億円)
区  分
第9次治水事業
(平成9〜13年度)
五箇年計画(案)
第8次治水事業
(平成4〜8年度)
五箇年計画
倍率
治水事業 116,000 109,000 1.06
災関・地単等 60,000 40,100
調整費 64,000 25,900
治水投資総計 240,000 175,000 1.37
注:上記の金額はまだ閣議決定されたものではありません。
3.基本目標(案)

本五箇年計画では、次のような整備目標を有しています。

○河 川
当面の目標とする時間雨量50o相当の降雨において、氾濫防御が必要な面積約38,000q2(この区域内の人口約6,300万人)に対し、平成8年度末氾濫防御率52%を、59%に向上させます。
○土砂災害対策
当面の目標とする時間雨量50o相当の降雨において、土砂災害防御が必要な人口約560万人のうち、平成8年度末防御入口約210万人(38%)を、約270万人(48%)に向上させます。
○水資源開発
全国の給水人口約12,000万人のうち、渇水頻発地域を重点に水資源開発を推進し、平成8年度末安定給水人口約4,500万人(38%)を、約6,500万人(54%)に向上させます。
○うるおいのある水辺空間
うるおいのある水辺空間整備延長を、平成8年度未約1,900qから約3,200kmまで延伸します。
4.基本方針と新規・重点施策

本五箇年計画においては、次の4つの基本方針を有しており、このために新規・重点施策を進めていきます。

○阪神・淡路大震災の教訓を活かして、安全な社会基盤の形成
大洪水や大震災が生じても壊滅的な被害を回避し、被害の最小化を図るため、堤防の強化等治水対策の信頼性の向上を推進します。
〈施 策〉 ゼロメートル地帯の堤防の耐震強化、フロンティア堤防・スーパー堤防の整備、都市山麓グリーンベルトの整備、地域の主要交通網の土砂災害からの防御、床上浸水の解消、光ファイバー網の整備
○頻発する渇水に対して安心な生活の確保
頻発する渇水に対し、既存施設も積極的に活用しつつ、水資源の確保を図り、渇水頻発地域からの解消を推進します。
〈施 策〉 渇水頻発地域からの解消(最近10年間で5回以上渇水が発生している地域の被害の解消)
○地域からの要望の強い、きれいな水と緑の水辺の創出
普段の川を重視し、地域からの要望の強い、水と緑のネットワーク等環境施策を重点的に実施することにより、河川環境の保全・創造を推進します。
〈施 策〉 水と緑のネットワーク、河川・渓流再生事業、水質の改善
○個性豊かな活力ある地域づくりの支援
地域のニーズに応え、水辺プラザ等水辺の交流拠点などの個性豊かな地域の活力に資する施策を展開し、各地域独自の地域づくりを積極的に支援します。
〈施 策〉 水辺プラザの整備、水辺の楽校プロジェクト
5.計画推進上の課題

また、本五箇年計画においては、公共事業の透明性をこれまで以上に確保するといった視点から、次の点を計画推進上の課題とします。

・河川管理の計画の客観性、透明性を高めるため、計画作成過程を公開し、地域住民等の意見を反映する手続きの導入を図ります。
・事業効率の向上と事業執行の機動性をより高めるため、事業執行・採択方式の改善を図り、事業効果の早期発現を目指します。
・今後の河川・渓流の整備は、生物の良好な生育環境と美しい自然景観の保全と創出を図るため、「自然を活かした川」を目指します。
・コスト削減を目指した技術開発を推進することにより、予算の効率的執行を目指します。
6.おわりに
財政構造改革が議論される中で、治水事業五箇年計画も含めて各五箇年計画は見直しされており、金額についても未だ案という状況にあります。公共事業を巡る状況は厳しく、北海道においても、これまで以上に事業の効率性、効果性といった視点から事業を進めていく必要があると考えていますが、一方で治水事業は生活の最も基本的な条件である「安全」を確保する事業であり、投資効率が悪いからといって放置しておくわけにはいきません。
また、ダム、放水路といった大規模事業については、自然環境に与える影響も大きいため、いろいろな批判もありますが、改正された河川法の趣旨を受けて、今後関係する方々の意見を反映させる手続きをとることとしています。
こうした種々の観点を踏まえて、今後とも地域づくりに貢献する治水事業を北海道において進めていきたいと考えております。

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