建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年10月号〉

寄稿

水と緑の大地-釧路

北海道釧路土木現業所長 宮川 英二

はじめに
北海道の最大資源は広大な大地と恵まれた自然にありますが、その根源は清らかな水と豊かな緑にあります。水は海洋−大気−陸域の循環により、地球全体の温和な大気環境を形成する役目を果たし、清らかな水は人間をはじめ全ての生物の生命基盤でもあり,その他に農業、漁業、工業、電力用水として産業・経済を支える最も基本的な資源です。緑(森林)は二酸化炭素を吸収し、地球環境、生命活動を支える酸素を供給し、さらに、河川等の水質、水量を保全し、川の持つ生態系での機能と併せ、豊かな生態系の維持に重要な役割を果たしています。
また、清らかな水面は、周囲の景観などを時間・気象の変化に応じて多彩に演出し、緑は人の心を穏やかにする効果を持っており、水と緑は最も本質的な観光資源であると言えます。
▲霧多布湿原
釧路土現管内の現状と課題
釧路管内(釧路支庁と根室支庁管内)は、この恵まれた自然環境の中で漁業・酪農と関連食品加工業、製紙、石炭を基幹産業として発展してきましたが、ロシア海域漁場の縮小、太平洋炭坑の減産、公共事業の縮減など地域経済を巡る環境は非常に厳しくなってきています。
一方、観光は昨年の有珠火山の影響から回復の兆しが見え始めており、管内には阿寒、知床、釧路湿原の3つの国立公園と厚岸,野付・風連の2つの道立公園など雄大で多様な自然景観、多くの温泉など、観光資源に恵まれていることから、観光産業が地域経済の牽引力となることが強く期待されています。
北海道における観光産業支援
今後のIT化社会の進展に伴う労働環境の強化と、その反動としての日常性からの遊離、人間性・自然への回帰欲求やアジア諸国の経済発展に伴う身近な異国への憧れなどに対し、北海道は、雄大で豊かな自然環境をはじめ、ノンビリできる広大さ、冷涼な気象、南国にはない氷雪の世界、恵まれた食材、多くの温泉等はそれらに応えられる条件を十分に持っています。
そこで、北海道は9月の議会で「北海道観光振興条例」を制定し、観光をリーディング産業として位置づけようとしており、今年の3月に策定された「北海道における社会資本の整備方針」の中では環境重視型社会基盤と併せて観光基盤整備が重点化の対象としています。
釧路土現における観光支援事業
釧路管内は、太平洋に面して多くの河川、湿原、大小の湖沼を有し、丘陵地帯には広大な牧場が広がり、後背の山岳地帯は原生の森林があり、豊潤な水と豊かな緑に包まれた地域です。希少生物の丹頂鶴、シマフクロウ、エトピリカ、イトウ等が生息していることは道内でも最も豊かな自然環境が残されていることを象徴しています。
釧路土現は、地域の人々が安心して豊かに暮らせ、誇りの持てる生活空間が、同じく観光客に和やかさ、快適さを感じさせるものと考え、地域の基盤整備に積極的に取り組んでいます。
(1)治水事業
釧路市の中心市街地を流れる釧路川(4月に旧釧路川から名称変更)では、国から「ふるさとの川整備計画」の認定を受け、都心部の浸水防除と併せリバーサイドプロムナード等を整備し、漁船や町並みが水面に映える親水空間づくりを進めています。
標津川では釧路開発建設部と連携し、河道を自然に戻して生き物の住みやすい川づくり進めており、支流の中標津市街を流れるタワラマップ川については、地元の人々が組織する「ラブ・リバーc・l・l標津川&タワラマップの会」(山崎武司会長)が長年取り組んでいる、川を軸とした町づくりに応えてブロック護岸を撤去し、緩傾斜の築堤として水と緑の親水空間を創っています。これは、河川を災害防除施設として安全管理に主眼に置いていた行政から、住民が率先して川の本来持っている多様な機能を地域に取り戻した例と言えます。
また、標津海岸では、町と連携して、釣りやマリンスポーツなど、海辺に親しめるような護岸整備を進めており、千代の浦漁港などでは漁村と地域住民が地元水産物などを通して交流を深めるような空間を整備しました。
▲釧路川ふるさとの川整備事業 ▲標津海岸環境整備事業 完成イメージ図

(2)道路事業
道路は地域の人々の日常生活と産業の発展に欠くことができない基盤施設でありますが、今後は、より一層の自然環境との調和と、併せて観光振興の視点を加えた快適な施設づくりが求められています。
観光客が快適な旅行を楽しめるよう、観光地周辺道路と観光ルートについては、景観とマッチした案内標識、道路情報板、遊歩道、駐車帯などの整備を促進します。
また、観光地の景観障害になっている鋼製の防護策、フェンス、防雪柵などの道路構造物については、植樹、花、蔓などを生かして周囲の自然景観に融和させるような方策を試行したいと考えています。
釧路空港線では、観光客の期待感に応えるウェルカムロード事業や釧路鶴居弟子屈線の鶴居市街地の歩道工事を推進しています。
オホーツク圏、十勝圏に連携する北太平洋シーサイドラインの一環として形成されている根室浜中釧路線は、太平洋岸に沿った原生林、大小の湖沼、湿原、変化に富む海岸線と牧歌的な農地が相まって、樹間から多様・多彩な景観が展開されており、広域観光ルートとしての期待が高まっていますが、この路線については海岸沿に点在する漁村の生命線であることから積極的に整備を促進しています。
おわりに
近年は、地域の人々が道路植樹帯の花壇整備や維持管理、河川の清掃などについて積極的に協力することが多くなり、釧路駅前通では花コンテストが開催されるなど、まちづくりへの関心や道路などの公共施設に対する意識が高まってきていることから、今後とも公共事業については、国、市町村及び地域の人々との連携を強め推進したいと考えています。

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