〈建設グラフ2000年8月号〉

寄稿

建設産業構造改善推進3ヵ年計画について

建設省 建設経済局建設業課 建設業構造改善対策官 田村 計 氏

田村 計 たむら・はかる
昭和35年8月広島生まれ
昭和59年 4月 建設省入省
平成 3年 4月 建設省関東地方建設局総務部人事第一課長
平成 5年 4月 出向(岐阜県総務部総合政策課長)
平成 9年 7月 建設省建設経済局建設業課課長補佐(法規担当)
平成11年 7月 建設大臣官房文書課事務合理化対策官
平成12年 7月 現職
はじめに
近年、バブル経済の影響による未曾有の高収益の時代やバブルの崩壊後の厳しい経営環境の時代を経験して、建設産業も大きな転換期にあります。
さらに、今後は、我が国経済が安定成長と見込まれる中で、建設投資は横ばいで推移し、将来的にも大きな伸びが期待できないという厳しい環境にあり、建設産業も、競争の激化の中で、優勝劣敗、淘汰の時代を迎えようとしています。
このような状況の中、建設産業の構造改善について、建設産業政策大綱や建設産業再生プログラムなどを踏まえて、平成12年度からの3年間においてどのような取組を重点的に実施するべきかについて、具体的に取りまとめた「建設産業構造改善推進3カ年計画」を本年5月に発表しました。
本計画では、1.不良・不適格業者の排除の徹底、2.建設生産システムにおける合理化の推進、3.生産性の向上、4.優秀な人材の確保・育成と雇用労働条件の改善の4テーマを定め、各テーマについて、現状や課題、事業の目標、具体的な事業内容、各企業や各建設産業団体の自主的かつ重点的に取り組むべきテーマ、行政や(財)建設業振興基金等における支援の内容等について示しています。

重点的に取り組むべきテーマとこれに対応した事業の概要
1.不良・不適格業者の排除の徹底
現下の縮小した建設市場の中で、各企業は、当面の受注確保に追われており、特に、官公庁の入札・契約制度においては、請負金額を中心に入札参加者を決定されるとともに、入札価格のみが請負業者決定において最優先されているため、自ら施工管理を行わない者、必要な技術者を雇用しない者、品質を疎かにして手抜きをする者など、数多くの不良・不適格業者が公共工事を受注し、適正な競争を妨げているとの指摘があります。
不良・不適格業者の排除のためには、行政において建設業法等の遵守を徹底することはもちろんですが、各々の建設業者が、自らを不良・不適格業者と区別することが肝要であり、建設業界全体で不良・不適格業者の存在を許さない環境を自らが作り出すことが重要な課題と考えています。
さらに、不良・不適格業者を的確に排除するとともに、優良な建設業者の努力の結果を適正に建設市場に反映させ、建設工事の品質確保等が一層促進されるような環境を整備しなければなりません。
そのため、@建設業法を所管する部局及び全ての公共発注者において、建設業法に違反する不良・不適格業者を排除するための取組の強化・徹底を図ること、A全ての建設産業団体において、不良・不適格業者を排除する取組を行うこと、B建設産業のサービスの受け手である国民に対し、技術と経営が優れた建設業者を適正に評価できる環境を整備することを目標に掲げました。
<具体的な事業内容>
現下の状況を踏まえ、不良・不適格業者を的確に排除するために、以下の事項について、重点的に取り組むこととしました。
<具体的な事業内容>
(1)建設業法等の遵守の徹底
@建設産業からの暴力団の排除の徹底
A経営事項審査の資料を活用した建設業者に対する検査・監督の徹底
B「発注者支援データベース・システム」の市町村での導入促進
C施工体制台帳等を活用した現場への立ち入り検査の拡充
(2)全ての建設産業団体における不良・不適格業者の排除の徹底
@建設産業団体における不良・不適格業者の排除の申合せの実施
A会員情報の公開
(3)各種データベースの整備、情報公開の促進
@経営事項審査に係る情報のアクセスしやすい形での公表
A建設技術者、技能者等の情報のデータベース化
B行政処分情報のアクセスしやすい形での公表
C建設業法110番(仮称)の創設
D専門工事業者企業力指標(ステップアップ指標)の充実、活用
2.建設生産システムにおける合理化の推進
各企業とも、当面の受注の確保を優先するため、民間工事、公共工事を問わず、極端な低入札を行う事例も見られるようになっており、供給力が過剰な状態のままで淘汰が進めば、コストダウンの裏付けのない安値受注競争や専属的な関係における下請への一方的なコストの押付けが行われ、建設産業全体としての疲弊や品質の低下、優良な中小企業の淘汰などに繋がる恐れがあります。
このため、中央システム協議会、地方システム協議会などでこれまでに行われた各種の申し合わせ事項について、その実効性を高めるためのより具体的な取組が必要です。
さらに、適正な元請下請関係を維持しながら、長期的な視点から市場の縮小に対応した合理化を推進するとともに、21世紀の国民のニーズに対応した新たな建設サービスを提供することも重要と考えています。
一方、第3者機関による瑕疵保証や品質保証の実施や、性能表示等の環境整備を行うことにより、コストダウンの裏付けのない極端な安値受注などによる品質の低下などを防止することも必要です。
そのため、@建設産業界が自ら一体となって、建設生産の合理化について検討していく場の整備を進めること、A全ての建設業者が自らの役割と責任を明確にし、適正に業務が遂行できる具体的な取引環境を整備すること、B21世紀の国民ニーズに対応した、新たな建設関連サービスの提供を促進することを目標に掲げました。
<具体的な事業内容>
建設生産システムの合理化を推進するために、以下の事項について、重点的に取り組むこととしました。
(1)中央システム協議会、地方システム協議会等における自主的な取組に対する支援
@中央システム協議会を活用した多様な建設生産システムの検討
A地方システム協議会を活用した具体的な合理化の取組に対する支援
B専門工事業界における横断的な取組の支援
C地域の特性を考慮した建設産業ビジョンの検討
(2)業種別の見積書・注文書・請書等の標準化
@建設工事標準下請契約約款に準拠した見積書・注文書・請書等の標準化
(3)瑕疵保証・品質保証・性能表示等の環境整備
@建設産業団体による瑕疵保証・品質保証・性能表示等の検討
A各業種の特性に即した技術基準、施工標準等の作成支援
3.生産性の向上
現在の厳しい財政事情の下、限られた財源を有効活用し、効率的な公共事業の執行を通じて社会資本整備を着実に進めるため、コスト縮減対策の行動指針を作成し、発注者においても、コスト縮減についての取組が進められています。
厳しい価格競争の中、労務費の切り詰め、外注費の一律削減などの対応では、労働条件等が劣悪になり、建設産業が魅力ある産業となることは困難であり、建設産業全体の生産性の向上をどのように確保していくかが大きな課題となっています。
具体的には、建設産業全体において、自らが生産性を高め、適正な利潤が得られるよう、生産システムを見直すことが強く求められており、施工に係る労働生産性の向上はもちろんのこと、企業連携などを含めた経営革新による生産性の向上、建設工事の原価計算基準の整備等について広く検討し21世紀をにらんだ経営戦略の構築や企業グループを超えた経営資源の効率的活用を進める必要があります。
そのため、@IT(情報技術)等の先端技術の活用や戦略的な経営手法の導入、A建設市場における消費者等のニーズや評価を適正に経営へ反映できる体制の確立、B成長分野への積極的な展開を目標に掲げました。
<具体的な事業内容>
具体的な生産性の向上を図るために、以下の事項について、重点的に取り組むこととしました。
(1)IT(情報技術)の積極的な活用の促進
@ITの建設産業における活用方策の検討
ACI-NETの普及促進
B建設CALS/ECの対応支援
C各建設産業団体におけるitの導入の支援
(2)経営強化のための企業連携の強化促進
@合併・営業譲渡・協業化による経営効率化に対する支援
A新たな企業連携のあり方についての検討
(3)経営力・技術力の向上による経営革新の支援
@革新的な経営戦略に対する各種支援
A経営者等研修の実施など建設産業の担い手に対する啓蒙
B建設工事の原価計算基準の検討及び普及
CJV会計制度の検討
(4)成長分野への進出についての支援
@成長分野へ進出するための手法の検討支援
A建設産業団体における品質保証など成長分野への進出支援策の検討
4.優秀な人材の確保・育成と雇用労働条件の改善
建設産業を担う人材を安定的に確保するためには、優秀な新たな人材を集め、育成できる環境を整備するとともに、建設市場が厳しくなる中で、技術や技能、ノウハウを修得した建設労働者が、正当に評価され、満足し誇りを持って仕事ができる環境を整備しなければなりません。
また、これからは、多くの熟練労働者が定年等により退職することが見込まれており、数多くの職種からなる建設労働者の育成についても、現場でのojtを中心としたいわゆる徒弟制的な方法から、長期的な経営方針に基づいた一つのマネジメントシステムとして計画的に取り組むことが必要です。
一方、工事現場の安全確保については、各種規制の遵守が基本になりますが、厳しい経営環境の中、本来の事業活動の効率性を踏まえた、関係者による日々の安全活動の実施など、自立的な取組が一層重要になってきております。
そのため、@優れた建設労働者が適正に評価される環境の整備、A優れた建設労働者を確保・育成・活用できる環境の整備、B労働災害を引き起こす要因究明とその要因に対応した具体的な対策についての周知徹底を目標に掲げました。
<具体的な事業内容>
優秀な人材を確保するとともに、労働災害を無くすために、以下の事項について、重点的に取り組むこととしました。
(1)基幹技能者、多能工等の育成・活用の支援
@基幹技能者の評価制度の確立への支援
A基幹技能者、多能工等の活用マニュアルの作成
B各企業による組織的・体系的な人材育成マネジメントシステムの確立への支援
CITを活用した人材育成方策の検討
(2)労働災害の原因分析及び防止策の公表
@建設現場における安全管理活動の効果的な実施
A技術者、技能者に対する適正な安全講習の推進
B安全活動に係る情報交換ネットワークの構築ます。

事業の推進に当たって
これまでの構造改善推進プログラムと同様、今回の3カ年計画においても、具体の事業を効率的かつ着実に進めるために、事業推進の上での留意事項として、@明確な将来ビジョンを持ち、確固たる意思で構造改善に取り組む団体あるいは企業に対して、積極的な事業支援を行うこと、A事業実施の責任体制の強化を図るため、事業ごとの推進主体、事業内容、事業期間等を明確化し、一定期間ごとの事業効果の把握を行うこと、B発注者の理解とともに、都道府県や政令指定都市等において実施される建設産業の構造改善の取組との連携強化に努めること等を示しています。
今後とも、本計画に基づき、建設産業の構造改善を積極的に推進してまいりますので、関係者皆様のご理解とより一層のご協力をお願いいたします。

HOME