建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年8月号〉

寄稿

猪名川総合開発事業について

国土交通省 近畿地方整備局 猪名川総合開発工事事務所長 田村 公一

田村 公一 たむら・こういち
昭和23年1月20日生まれ
昭和41年奈良県立吉野工業高校卒業
昭和41年建設省 入省
平成 3年建設省 近畿地方建設局 大和川工事事務所 工務第二課長
平成 5年建設省 近畿地方建設局 大滝ダム工事事務所 調査設計第二課長
平成 8年建設省 近畿地方建設局 河川管理課長補佐
平成10年建設省 近畿地方建設局 大滝ダム工事事務所 副所長
平成13年国士交通省 近畿地方整備局 猪名川総合開発工事事務所長
▲ダム完成予想図
はじめに
猪名川総合開発事業は、多目的ダムとして建設される余野川ダム(淀川水系猪名川左支川余野川の右支川北山川、箕面市下止々呂美地先)と、河川浄化還流施設(猪名川下流の豊中市利倉地先〜伊丹市中村地先)を主要施設とするもので、洪水調節を行うとともに、流水の正常な機能の維持並びに水道用水の供給を行うことを目的としています。
流域の概要
猪名川は、一級水系淀川に属し、淀川の右岸―津屋地先より分派する神崎川の右岸7.0km地点に合流する一次支川で、北摂山地に源を発し大阪・京都・兵庫の2府1県にまたがり、11市町を包括する流域面積383q2、幹線流路延長43.2kmの中規模河川です。
余野川は、天台山、鴻応山、湯谷ケ岳等、600m級の山々を水源とし、河川は南西方向に蛇行して猪名川本川に合流する流域面積43q2、流路延長14kmの一級河川です。
余野川ダム
ダム周辺の地形、地質
余野川ダムの建設地点は、「有馬−高槻構造線」という活断層から約6km離れた北側に位置し、「丹波層群」という地質区分に属します。また建設地点の周辺地形は、緩やかな丘陵地の地形で、その基盤は各種の堆積岩によって構成されており、ダムサイトには活断層もなくダム建設地として適しているといえます。
ダムの構造
ダムは地形・地質などから位置及びダム型式を決めます。余野川ダムは重力式コンクリートダムで地形より右岸側の沢を避け、地質的に堅硬な尾根に堤体を座えたため、ダム軸が折れ曲がっています。
貯水池使用計画
猪名川総合開発事業は、洪水調節、流水の正常な機能の維持及び水道用水の供給を行うことを目的としています。
洪水調節
余野川ダムは、一庫ダムと合わせ、小戸基準地点における基本高水のピーク流量3,500立方メートル/sを計画高水流量2,300立方メートル/sに調節するものです。余野川ダムの自流域が5.0q2と小さいため、間接流域である余野川本川の洪水の一部を分派し余野川ダムに貯留することにより下流の洪水を調節するものです。余野川ダムの洪水調節方式は自然調節方式で、余野川本川からの分派量220立方メートル/sに北山川からの流入量60立方メートル/sを合わせたダム地点の計画高水流量280立方メートル/sのうち270立方メートル/sを調節します。このための治水容量は11,200,000立方メートルです。
流水の正常な機能の維持
余野川の流水の正常な機能の維持と増進を図ることとして、これに要する容量は、洪水期100,000立方メートル、非洪水期200,000立方メートルです。また、猪名川下流部の河川水を上流へ還流し、河川浄化施設で浄化し水質の改善及び維持流量の補充と流水の正常な機能の維持と増進を図ります。これに要する河川浄化施設の処理能力は最大400,000立方メートル/日です。
水道
阪神水道企業団の水道用水として、軍行橋地点において新たに1日最大90,000立方メートル、箕面市の水道用水として、ダム地点において新たに1日最大10,000立方メートルの取水を可能にすることとして、これに要するダム容量は、洪水期5,700,000立方メートル、非洪水期6,600,000立方メートルです。
余野川ダムの水際空間の活用
大阪府が計画している「水と緑の健康都市」は、あらゆる世代が生涯を通じ、ゆとりと潤いをもって暮らせる21世紀の長寿社会に対応したモデル都市です。余野川ダムとの一体的整備が望まれています。
※参考
猪名川総合開発工事事務所では、猪名川総合開発事業のほかに、平成11年度より開始した「広域流況改善事業調査(阪神疎水調査)」を実施しています。
広域流況改善事業調査とは
阪神地域には、多くの中小河川が流れていますが、地理的条件等により水資源賦存量が極端に少なく水供給の多くを他水系に依存してきました。一方、その低平地部は河川の流下能力不足等により洪水被害が頻発しており、現状では市街地密集地域のために拡幅困難な状況にあります。平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災では防災上の脆弱性を露呈しました。
この調査は、活用可能な水資源が極端に少ない大都市を対象に、平常時の河川の持つ利水、環境、防災等の多様な機能の確保と出水時の内水氾濫等の治水対策を視野に入れ、健全な水循環系の構築に資するための総合的で広域的な流況改善事業の実施に関する調査を行うものです。
調査の概要
阪神地域を対象に、環境防災都市を形成するために、治水、利水、環境、防災の面より流況改善事業のメニューの抽出、費用対効果分析を行うとともに、住民や学識経験者等の意見を聞き事業評価を実施します。

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