建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年8月号〉

寄稿

小樽管内における基盤整備の意義と効果

北海道建設部小樽土木現業所長 井元 俊雄

井元俊雄 いもと・としお
昭和22年5月1日生 栗沢出身 岩見沢東高、室蘭工大卒
昭和57年苫小牧港管理組合計画第2係長
昭和60年空港港湾課主査(石狩湾新港管理組合)
昭和61年同計画係長
平成 1年漁政課主幹(水産庁漁港部建設課・振興部開発課)
平成 3年4月同主幹
平成 3年6月漁港課長補佐
平成 6年4月稚内土現企画調整室長
平成 7年6月留萌土現事業部長
平成 9年6月河川課参事兼ダム室長
平成12年4月漁港漁村課長
平成13年4月現職
小樽管内の現況
小樽土現管内は、海の玄関口である小樽市を始めとして、早くから開けた地域ですが、道路・河川など基礎的な社会資本整備はまだまだ不十分な状況にあります。それは、管内の地形的な特徴に大きな要因があります。定山渓から積丹半島にかけて連なる山々、あるいはまた羊蹄山、ニセコ山系、更に弁慶岬から狩場山、茂津多岬へと続く山地が複雑な地形を形成しており、地域が分断されています。
このため多くの峠があり、道路は未改良区間や未開通区間を多く抱えており、また道内でも屈指の豪雪地帯であることから、冬季の通行には難所も多いことが挙げられます。
こうしたことから、道路事業においては岩内洞爺線旭台工区では新ルートの整備により通年供用を目指しているほか、余市赤井川線の冷水峠においても安全な通行確保のためトンネルを含む延長約4qの改良区間について検討しています。
また、近年は小樽運河周辺の整備が進んだことや、マイカル小樽が開業するなど小樽方向への観光客入り込み数も大幅に伸びていることなどから、市内の交通需要が増大し、特に国道5号が非常に混雑してきています。このため市内の交通量緩和、あるいはまた、後志各地域への広域交通路としてのアクセス向上のため、小樽環状線の早期整備が以前にも増して強く求められており、現在、未改良区間の天神地区から最上地区問のルートを検討中です。
道路及び街路事業においては、地域の活性化を目指した地元市町村の街づくり計画などと連携しながら、332大川橋通(余市町)や321中央通(小樽市)等において整備を進めでいます。また、ニセコ町の岩内洞爺線道路改良事業では、平成7年度から進めてきたマイウェイ・アワーロード「綺羅街道」の整備が今年度で完成します。
一方、治水関係については、河川事業は、管内の主要な河川である尻別川、余市川、堀株川、朱太川などは昭和30年代から40年代、あるいは50年代の大規模な災害を契機にして、それぞれ改修工事が進められ、ある程度までは整備が進んでいます。しかし、最近は幸いにも管内で洪水による大きな災害は発生していませんが、昭和50年代頃から様々な形での開発行為(特に山地部の減少と宅地開発による市街地の拡大)が急速に進んでいることから、特に整備が遅れている市街地及び市街地周辺の比較的規模の小さい河川での洪水氾濫が懸念されます。そのため、ワッカタサップ川、オロッコ川(京極町)の改修事業に14年度から着手するほか、古平川、美国川、ヌッチ川(余市町)などで整備を促進します。
砂防においては、管内には500カ所に上る多数の土砂災害危険区域があり、土石流や崖崩れによる土砂災害が懸念されています。特に危険区域が集中する小樽市内は、人ロの集中地区でもあり、警戒避難対策や住宅等の立地抑制などを含めた総合的な対応が急がれます。
一般的に土砂災害は突発的に発生し、しかも衝撃力が大きいために人命に関わる場合が多いという特殊性を持った災害です。特に高齢者や乳幼児、または体の不自由な方など、いわゆる災害弱者の占める割合が犠牲者の半分を超えており、災害弱者対策が新たな課題となっています。管内にも災害弱者に関連した病院、老人ホーム、社会福祉施設などを保全対象に含む38カ所の危険区域があり、重点的に整備しています。13年度施工箇所としては、砂防事業では団地沢川(小樽市)、急傾斜地事業では高島2丁目r地域(小樽市)、地すべり事業では銀山学園地区(仁木町)と豊平橋地区(島牧村)で事業促進を図ります。
海岸事業では、海岸沿いの狭い平地に多数の集落が点在していることから、津波や冬季波浪による高潮対策などの整備が急務となっています。特に平成5年7月に発生した南西沖地震の津波により被災した島牧村においては、河川事業と連携しながら防潮堤防の整備を推進、泊、本目、大平などの地区で早期完成を目指し事業を進めています。
また管内における主要産業の一つである水産業の振興も重要な課題であり、漁港事業において、これまでの水産基盤整備の方針を13年度から変更して、漁港漁村整備事業と沿岸漁場整備事業を一体的に、そして効率的に実施することになり、塩谷漁港(小樽布)、美谷漁港(寿都町)を地域水産物供給基盤整備事業で、祝津漁港(小樽市)を漁港漁場機能高度化事業で新たに整備促進することになりました。
また、管内はプレジャーボートによる釣りなどの海洋レジャーも盛んであることから、昨年度完成した余市河口漁港には、それらの係留施設も整備していますが、今後はこうした施設への要望に対応することも課題になるものと考えています。
小樽管内が果たす北海道での役割、位置づけ
自然に恵まれた観光地
管内は景観に優れ、史跡や伝統文化に富んだ日本海の海岸線、歴史が香る小樽運河周辺、スキーのメッカとして知られるニセコ山系、豊富な湧出量を誇る数多くの温泉、新鮮な山海の幸など多くの観光資源に恵まれています。
また最近では、果樹狩りやバター作りあるいはカヌーといった様々な体験型観光も人気が高まり、年々入り込み数が増えるなど自然を生かした観光ポテンシャルは非常に高い地域です。
多種多様な農水産物
農産物は、米や畑作物、果樹、畜産など幅広く生産されており、また水産物においても、エビ、ウ二、アワビなど種類が豊富で、札幌方面はもとより全国へ展開できる特産地として、又自然の幸を提供する食の観光地としての発展が期待できます。
地理的な優位性
管内は、札幌市に隣接していること、また比較的近い距離に新千歳空港があること、さらに国道5号や230号、jr函館本線などが管内を通っており、陸上交通の要所でもあります。このため、多種多様な農水産物の供給や都市的サービスの享受、観光レクリェーション需要の受け入れなど多方面に渡って他地域よりも大きな優位性を持った地域です。
「食と観光」は北海道の専売特許のようなものですが、特に小樽管内の場合は、種類の豊富さと質の高さで他地域に勝る「食と観光」の提供が出来ることから、北海道発展のための試金石としての役割を担えるものと、私は期待しています。この様なことから地域の要望として特に多いのが交通綱の整備で、地域発展のカギとなるのもこうした交通体系の早期整備であると考えています。
今年度予定している主要整備
都市計画道路3・3・2大川橋通街路事業(道道豊丘余市停車場線)
余市町では、余市川改修事業を契機として中心市街地の再開発を進めるべく「はばたけ余市21計画」を策定しました。これを受けて、余市町にはニッカウィスキー工場などの観光施設があることや、余市町の歴史的経過などを踏まえ、「歴史を感じる・人に優しい活力ある町」をコンセプトとしたまちづくりを計画し、街路事業を機として、商店街近代化事業、国道5号余市町・融雪漕整備事業、余布川改修事業とこれに伴う大川橋の掛け替え工事などが連携して、新たな中心市街地の整備を進めています。街路事業は平成8年度に着工し、14年度の完成を目指しています。
都市計画道路3・2・1中央通(道道小樽海岸公園線)
これは今年度に本工事に着工します。中央通は、小樽の表玄関jr小樽駅から商業業務の中心街を通り抜け、歴史的建造物や石造り倉庫の建ち並ぶ小樽運河へ連なる中心的な都市軸です。街路事業は、歩行者、自動隼などの交通路を確保するとともに、防災空間、環境空間など多面的な機能を有しており、都市活動には欠くことの出来ない重要な都市基盤施設である都市内道路の整備を進める事業です。
小樽市中央通は、計画延長390mで、現況幅員18mを36mに拡幅してその機能の向上を図ることにしていますが、単に用地買収するだけでは横地が小さくなり、沿道商店街の機能が保てなくなるため、土地区画整理の手法を導入し、街路事業と区画整理事業を一体化して整備を進めることにしました。街路整備とともに店舗の共同化や再開発事業などにより沿道建築物が生まれ変わり、新たな街並みが誕生し、中心市街地の活性化と小樽の「顔」にふさわしい都市景観の創出が期待されており、一刻も早い整備が望まれています。
また、電線の地中化で見通しも良くなり小樽駅からなだらかな坂を下る途中、運河の向こうにはマリンブルーの海と港に停泊する船を見ることができ、運河に続く散策路として新たな名所となることも期待しています。
勝納川河川再生事業
勝納川は、市街地を流れ小樽港に注ぐ川で、流域面積32km2、延長10.5qと、小樽市街地では最大の河川です。治水対策としでは、昭和37年の大災害を契機に災害復旧工事で整備されていますが、護岸が破損するなど、かなり老朽化が進んでいます。
勝納川と市民の関わりを考えると、市街地上流部にある奥沢水源地は市民の水瓶となっており、また湖水の周辺一帯は水と縁に親しむ市民の憩いの場にもなっています。
また豊富な水量があることから川沿いには古くから酒造メーカーや工場などが立地しています。そして冬季には沿川住民の投雪場所として有効に利用されています。さらに下流部周辺は、歴史的建造物などが点在し運河から連なる観光エリアにもなっています。
このため、以前から市民に親しまれてきた勝納川の再生を図り、これまで以上に安全で親しみのある河川になるようリニューアル的な整備を進めることとし、整備方針として三つのポイントを設定しました。一つ目は「人々の利用に配慮した川づくり」として、河道内に散策路などを設ける、二つ目は「安全と景観に配慮した川づくり」として、老朽化した護岸を補修し併せて景観を考慮し修景する、三つ目は「生きものたちに配慮した川づくり」として、落差工を多段式に改良するなど今年度から本格的に整備を促進します。
小樽市都市山麓グリーンベルト 整備構想の策定
この事業は、山麓斜面まで市街地が広がる都市において、土砂災害に対する安金性を高め、縁豊かな都市環境と景観を保全創出することを目的に、市街地に隣接する山麓斜面にグリーンベルトとして一連の樹林帯の形成を図るものです。また、このグリーンベルトの整備により、市街地周辺への無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創出にも寄与できます。
小樽市はこの「都市山麓グリーンベルト整備事業」に指定(建設省平成9年1月30日)されており、砂防部局が主体となり、保安林、都市公園緑地等の関係機関と連携し、12年度から「小樽都市山麓グリーンベルト整備基本構想」を学識経験者、地元有識者などからなる検討委員会において策定中であり、今年度には基本構想を取りまとめたいと考えています。
▲小樽市中央通(整備イメージ) ▲大川橋

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