〈建設グラフ1999年7月号〉

寄稿

さいたまスーパーアリーナ

スポーツと音楽と文化をライブで楽しむ21世紀型アリーナ

株式会社日建設計 小松康之 氏

1964年 岩手県盛岡市生まれ
1988年 宇都宮大学建築工学科卒業
1990年 同大学院修了
1990年 日建設計入社
1991年〜1994年 クイーンズスクエア横浜・設計業務
1994年 さいたまアリーナ(仮称)設計・施工コンペ
1995年 コンペ当選後基本・実施設計
1997年 同アリーナ着工後設計監理で現場常駐
■建築計画概要
さいたまスーパーアリーナは、さいたま新都心の中心となる複合施設であり、シンプルな可動機構を備えたイベント空間や、まちに開かれたアミューズメント空間により、総合的なエンターテイメント空間の創造を提案した。
提案競技要項において、音楽イベントやアリーナ競技に高い性能を持って対応する専門空間(アリーナ)を基本とし、それがさらに空間拡張機能により、産業イベント、県民イベント、フィールド競技に対応できる大空間(スタジアム)になることも要求された。
私たちは、「ムービングブロック(MB)」と呼ばれる重さ15000tの客席、コンコース、WC等を内包した建築ブロックを水平移動させ、客席や床の可動システムや天井ブロックの昇降システムを組み合わせることで、約19000席収容のアリーナが、約27000席収容のスタジアム形態に短時間で変換できるとともに、多様なイベントに対応できる可変空間の提案を行った。また、アリーナ時には(コミュニティアリーナ)と名付けられた県民参加型のイベント空間にも対応できる空間が同時に形成され、2つのアリーナ空間でのイベント同時開催も可能な計画になっている。
■「彩の国」のシンボルとして
新幹線と在来線に挟まれた敷地の特徴を生かし、動きやスピード感を意識した造形コンセプトとし、北から南へと広がる扇状の大屋根は、新都心全体を軽やかに包み込み、北風から「けやきひろば」を守るように勾配を設定した。外観はできるだけ軽快で透明感のある構成とし、ひろば側に配置した文化アミューズメント施設は、イベント空間にありがちな閉鎖的イメージとならないように配慮し、利用者や周辺地域に対して開放的で、できる限り内部のアクテイビティが外からもわかるようにした。
▲アリーナプラザ ▲コンコース
Illustration Eiji Mitooka+don Design Associates.
■構造計画概要
構造計画は建築計画のコンセプトを最大限生かすように考慮され、幅126m、高さ42mの半円形をしたムービングブロックを70m水平移動させるため、約130m×130mの無柱空間を計画した。そこで地上部分の躯体は基本的に鉄骨造とし、固定スタンド、サイドスタンド、文化アミューズメント、大屋根、ムービングブロックで構成し、大屋根の鉛直荷重は一方を固定スタンドで他方を2本の組柱で支持した。2階床を人工地盤とし、エキスパンションジョイントは、固定スタンドとサイドスタンド間、大屋根とサイドスタンド・文化アミューズメント間に設けた。2階以下の構造及び固定スタンドを囲む半円形耐力壁は、鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄筋コンクリート造とし、地上部の躯体を支えるための十分な剛性と強度を確保した。ムービングブロックは可動のため鉄骨造として軽量化を図り、64台の駆動台車及び従動台車で支持されており、架構はラーメン架構とした。台車によって支持された建家が、18本の直線レール上を移動しアリーナパターンとスタジアムパターンという2つの状態で固定されるものとした。
6F 文化アミューズメント施設、管理事務室
5F 客席、ホワイ工、ショップ、レストラン、文化アミューズメント施設
4F 客席、ホワイ工、ショップ、文化アミューズメント施設
3F VIPルーム(約45m2・60m2)スイートルーム(約30m2×13室)、客席、ラウンジ
2F 客席、コンコース、ショップ、文化アミューズメント施設
1F アリーナ、文化アミューズメント施設、多目的室、イベント関連諸室マーシャリングスペース、駐車場
B1 駐車場、イベント関連諸室、レセプションルーム文化アミューズメント関連諸室、機械室

■敷地面積 45,007m2
■建築面積 43,730m2
■建ぺい率 97%(基準建ぺい率100%)
■延べ面積 132,310m2
■階数 地下1階、地上7階、塔屋2階
■高さ GL+66m
■最大席数 スタジアム 約27,000席 (約36,500席※)
アリーナ 約19,000席 (約22,500席※)
コミュニティアリーナ 約3,300席 (約4,000席※)
■フィールド面積 スタジアム 約14,600m2
アリ−ナ 約7,100m2
コミュニティアリ−ナ 約7,500m2
■駐車台数 721台
■駐輪台数 500台
■構造 鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄筋コンクリート造
※フィールドに座席を配置した場合

■建築設備の可動対応技術
客席やトイレ、ショップを内包したムービングブロックが移動することによりそれに、対応する設備システムを考案した。配管離接合システムは給排水管、空調用の冷熱源水管、スプリンクラー等の消火配管を移動に伴い切替を行い、ダクト離接合システムはムービングブロック内諸室の空調・換気及び排煙用ダクトをアリーナ、スタジアムそれぞれの状態で接続し、ケーブルリールシステムはムービングブロックの水平方向移動に対応した電力・情報を伝達するものである。
■周辺環境への配慮
この施設は、低層部での壁面緑化により線路側からの景観を考慮したり、6゜に傾けた大屋根での北風の制御や、流線形をした施設形態によるビル風の発生軽減等、周辺環境を考慮し計画している。また、イベント時の発生音が屋外へできるだけ影響を及ぼさないように遮音に細心の注意を払い、駐車場の出入口は交差点部からできるだけ離し、左折による入出庫で前面道路の渋滞を抑えるようにも計画している。
■ライフサイクルコストヘの配慮
大屋根による雨水の再利用、コミュニテイアリーナでの自然採光と自然換気、アリーナ空間での省エネルギーを考慮した3方向吹出しシステム、省力化を図った可動機構、ゴミ処理の機械化等ライフサイクルコスト低減へも配慮している。
■施工現場で留意していること
大規模現場だと施工者側の組織が複雑なため、現場で実際施工するスタッフに設計者の意志が伝わりにくいため、多くの関係者に設計監理者側の正確な情報が迅速に伝わるように仕組みを含め努力している。また複雑な構造形態や意匠のため、各部の取合いに気をつけ、特に工事業者が異なる部位については細心の注意を払っている。現場は設計者と施工者との共同作業であるため、時には厳しい発言もするが信頼関係を築き、チームワークよく業務を遂行することを心がけている。

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