〈建設グラフ2000年6月号〉

6月3日は測量の日

GIS「地理情報システム」

国土地理院北海道地方測量部長 須藤 清澄 氏

須藤清澄 すどうきよずみ
1964 建設省国土地理院入省
1991 測図部管理課長課長補佐
1994 近畿地方測量部測量課長
1996 測図部地形課長
1998 北海道地方測量部長
6月3日は、今年で12回目を迎える「測量の日」である。 測量は、国土の実体を総合的かつ科学的に把握し、均衝ある国土の利用形成や、住宅・社会資本の整備等のために、基礎資料を提供している。特に、測量は近年において著しく精度が向上しており、瀬戸大橋や青函トンネルなどの従来には見られない大型公共施設の確実かつ円滑な建設に大きな貢献を果たしている。
だが、測量は、普段我々が生活している上であまりにも身近で基礎的な情報であるため、その特質や重要性が認識されないまま利用される傾向が多いことから、測量基準点が滅失したり測量成果が不適切に使用される問題も生じている。
だが、去る3月31日に噴火した有珠山の観測では、その高度な技術により正確な情報を提供したことで、改めてその重要性を明らかにしている。
今回は、有珠山対策や北海道の測量業界でご尽力されている国土地理院地方測量部長の須藤清澄氏に“測量の意義”について寄稿を寄せていただいた。
測量の日
測量の日は平成元年に測量法施行40周年を記念し制定された。
測量が与える情報は、社会資本整備から観光地図に至るまで様々なところで我々の生活と密着している。しかし与える情報があまりに基礎的な部分であるため、その特質及び重要性が十分認識されないまま利用されることが多い。そのため一般の人々に測量の意義及び重要性を理解してもらうためにこの日に合わせて様々な取り組みが行われている。例年全国規模での活動として地図展が開催されている。また各地の取り組みとして講演やパネル展などの活動も盛んに行われている。
1.はじめに
地図は、古くから場所を探す、場所を教える、行きたい場所に行くなど、人々の生活や仕事において、なくてはならない道具であり情報でもある。
一方、現代社会においては、高度情報化の流れの中で、生活、行政、ビジネス等でワープロ、電子メール、インターネット等電子情報の利用が一般化している。
しかし、これらの大部分は文字・数字のみの情報であり、これらの文字・数字情報と地図の情報を組み合わせれば、生活がより便利になり仕事もより効率的に行えるようになることは容易に想像できる。このような文字・数字と地図の情報を組み合わせ、同時にコンピュータにより処理することを実現するのが「GIS」である。
最近は、「GIS」という言葉が広く日常会話的に使用できるようになってきている。
「GISはGeographic Information Systemの略であり、日本語では地理情報システムという。地図情報と属性情報を組み合わせて・・・」などという説明をしなくても、自然に使用できるようになってきている。広い分野、場面で活用され有効性が認識されてきたからであろう。
特に、阪神・淡路大震災において、GISを用いた瓦礫撤去業務支援活動その他の実践により、災害緊急時の情報処理・共有化の手段として、また、非常時と平常時の連続性を高めるための情報手段として、GISの有効性についで社会的関心が急激に高まった。
政府もGIS関係省庁連絡会議(事務局 内閣内政審議室)を設立し、GISの効率的整備・相互利用の促進等について検討され、長期計画等を策定し、GISの普及・促進に取り組んでいる。
2.GISの概念
(1)GISとは
GISとは、地理情報システム(Geographic Information System)の略称で、文字や数字、画像などを地図と結びつけて、コンピュ一夕上に再現し、位置や場所からさまざまな情報を統合したり、分析したり、分かりやすく地図表現したりすることができる仕組みであり、行政や市民生活やビジネスの現場で幅広く利用することが可能である。
(2)GISの歴史
GISは、1970年代にカナダで始められた土地資源マッピング・プロジェクトをきっかけに発展してきた技術であるが、近年における各種の情報関連技術と社会の発展と社会の情報化の進展により、最近急速に普及しつつある。
(3)GISの仕組み
GISは、さまざまな空間デー夕とそれを加工・分析・表示するエンジンであるGISソフト及びアプリケーションソフトから構成される。
空間データは、地物位置を表す地図データと特性を表す文字や写真などの属性データから構成され、地図から地物の特性や写真を参照したり、条件を入力して該当する地物の位置を表示したりすることができる。
(4)GISの基本的機能
GISでは、さまざまな空間データを種類(レイヤー)毎に分けて記録する。
これらを「地図」という共通の場で管理し、相互の位置関係の把握、任意のデータの検索と表示、データ間の関連性の分析等を行う。
(5)GISと周辺技術
GISは、データベース、GPS、リモートセンシング、CAD、CG、シミュレーションモデルなど、空間データを扱うさまざまな技術の中核になるもので、これらとコンピューター及び通信技術を組み合わせて利用することにより、高度で幅広い利用が可能になる。
(6)GISでできること
GISは、「生きた地図」であり、ひとつひとつのデータ(レイヤー)をデジタルで持つため、次のようなさまざまな加工・分析・表示が可能である。

●共通のフィールドでの各種情報の管理と参照
種類の異なる空間データを地図という共通のフィールドで管理し、自由に比較参照できる。
●目的にあった図の作成
さまざまな空間データから任意のデータを取り出し、任意の縮尺で重ね合わせて、目的にあった地図を作ることができる。
●めざす場所や情報の検索・入手
住所や希望する条件等を入力すると、該当する場所や施設を検索して地図上で表示することができる。
●地域情報の分析・評価
種類の異なる空間データを重ね合わせたり集計したりして、新たな事実を見つけ出したり簡単に統計をとったりすることができる。
●さまざまな空間シミュレーション
空間データを条件として与えて各種の空間シミュレーションを行い、結果を表示することができる。
●新たな領域デ―夕の作成
ある地点や道路等からの任意の距離以内の領域を自動的に設定し、域内の各種情報を集計することができる。
●最短経路の抽出
道路や水路、管路などのネットワークデータから任意の地点間の最短経路を分析・表示できる。
●所在や異常の検出とガイド
GPSやセンサーなどの技術を利用し、所在や異常を検出して地図上で位置や状態をガイドすることができる。
●空間データを用いたコミュニケーション
空間データを用いて、異なる地点問の情報のやりとりを正確かつ迅速に行える。調査や分析の結果を空間データに整理し、伝達することや、空間データを利用した電子的な予約・申請・依頼・登録・案内等も可能である。
●擬似体験や3次元分析(将来)
将来は3次元空間データを用いて知らない空間の擬似体験や3次元の空間分析が可能になる。
(7)GISの利用と効果
GISは、社会活動、生活行動の多くの場面で利用され、社会・生活システムを大きく改善する力を持っている。
◎行政の現場:効率的で適正かつ透明な施策や事業の推進、情報公開及び住民理解の促進、住民サービスの向上、行政組織間(国対自治体等)のコミュニケーションの円滑化等
◎生活場面:安全・安心の向上、利便性の向上、快適性の向上、楽しみの増大等
◎ビジネスの現場:事業実施の効率化とそれによる利益の向上、顧客サービスの向上、地方における業務機能の立地等の多様な事業形態の実現、GISサービスや分析に関する新規事業の創設等
3.おわりに
今後、GISは地図情報を使用する全ての建設、農業、林業、環境、防災等の分野におけるベースとなるシステムとして利用されるであろう。行政分野では、全庁的なネットワークを用いて、GISをベースにし、情報を共有することで、より一層行政サービスの向上を図ることができ、GISを用いることで、時系列に情報を整理でき、ビジュアルの表示ができ、より的確な計画立案が可能となる。
国・自治体においては、扱う対象(例えば、都市計画、河川、道路など)、部署によって求められる機能が異なる。また、地図情報、属性情報の活用の仕方も多種多様であり、高度にGISの機能を用いるものから単機能のみを用いるものがある。
しかし、重要なことはシステムの利用している機能の数ではなく、明確な利用目的を設定し、業務で用いる情報を一元管理でき、ユーザの要求する情報を迅速に検索、作成、集計できるなどの機能を満足しているかどうかである。利用目的が明確であれば、それを実現するための最適な規模のシステム(ハード・ソフト)、適切な縮尺の地図、属性情報を整備できる。
また、ユーザも目的を持って操作できるために操作を理解しやすくなり、運用ルールも設定でき、無理、無駄のない効率的な業務推進(データ整備、運用体制等)が可能となる。

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