〈建設グラフ2001年5月号〉

寄稿

奥羽の中心「秋田県南地方」の未来を見つめて

国土交通省 東北地方整備局 湯沢工事事務所長 折敷 秀雄 氏

折敷 秀雄 おしき・ひでお
昭和19年生 広島県出身
最終学歴  日本大学理工学部卒
昭和62年6月建設省 建設経済局建設振興課長補佐
平成 2年4月建設省 大臣官房技術審議官付補佐
平成 4年7月建設省 河川局治水課長補佐
平成 7年4月建設省 北陸地方建設局横川ダム工事事務所長
平成 9年7月建設省 河川局河川計画課建設専門官
平成11年4月建設省 東北地方建設局湯沢工事事務所長
現(国土交通省東北地方整備局湯沢工事事務所長)

当事務所は秋田県南地方における総合事務所として、国土管理の根幹に係る雄物川の河川の管理と改修、国道13号線の管理と改築、高規格自動車道の湯沢・横手道路建設、雄物川水系成瀬ダムの建設事業、八幡平山系砂防に関する事業を推進し、公共社会資本の整備を通じて広域にわたって安全で安心でき、長期にわたって豊かな生活ができる美しい社会の実現を目指して社会、経済、歴史、文化等の交流や連携の基盤を担って参りました。

奥羽街道(国道13号線)は福島から秋田まで約300kmにわたって東北地方の真ん中を縦断しており、8世紀後半以降に数多くの日本史に残る出来事を見つめてきた幹線道路です。当事務所はこの道路の90km余りを管理しています。この街道の山形県尾花沢地区と秋田県の雄勝・湯沢地区は国内屈指の豪雪地帯となっており、当事務所管内では、昨年と今年の2年続けて昭和48年度の豪雪に匹敵する降雪となり、秋田・山形県境にある雄勝峠において昨年は333cm、今年は2月初めにすでに170cmの積雪を記録しています。 この国道は、4月中旬まで24時間体制で交通確保に特別の体制が必要です。雪が降れば、除雪と路側に寄せきれなくなった雪をトラックに積んで捨てに行く排雪が続けられ、雪が降らなくて冷え込むと気温が10度程度になり、凍結防止剤散布車を走らせて路面の凍結防止作業を行います。また、気温が上昇してくると、雪崩の監視を強化しなければなりません。こうして昨年は、合計1400回以上の除雪車・凍結防止対策車の出動をしました。
この豪雪は4月下旬以降、毎年のように約1ヶ月間にわたる融雪出水となり、昨年は大曲市内で浸水が発生してポンプ車を出動させたほか、雄物川の広い区域にわたって水防団の出動を要請しました。また、記録的な豪雪によって工場や家庭の油タンクや送油管が破損してたびたび油流出事故が発生し、そのたびに拡散防止フェンスの設置や油の回収作業に追われています。

雪寒地域道路事業
▲堆雪による道路の様子 ▲堆雪巾拡巾により円滑な交通が可能 ▲除雪グレーダーによる除雪作業

一方、秋田県南部地方は著名な米作地帯で広大な水田が広がり、広域にわたる慢性的な水不足を引き起こし、6月中旬以降は一転して渇水体制をとることとなります。昨年も約2ヶ月間、一昨年も約1ヶ月間にわたって雄物川では夏期に渇水に対する特別の体制をとりました。
このように、この地方は、豪雪からの幹線道路の通年通行の確保、洪水、土砂害、渇水などと懸命に戦う国土管理に関わる事業の下で、地域の諸活動が支えられています。

強首輪中堤整備事業

▲雄物川の洪水(S62:西仙北町) ▲大洪水により孤立した強首地区(S30)

河川事業につきましては、雄物川上流の広域にわたる豪雨、洪水、渇水、水質事故、さらには河川における自然観察や野外活動つまり野鳥観察、カヌー、釣り、伝統行事等について各種の情報提供や被害防止、調整、利用促進に対する日常からの維持・管理のほか、中流部である強首地区において、県、町と連携した輪中堤防の建設をはじめとする各地の河川堤防や護岸の整備等を進めてきております。昨年は特に、9月に雄物川国際カヌークルージングが地域の人々によって実施され、アメリカからカヌースポーツに関するマスコミ、インストラクター、プロ選手、愛好家など約20名の仲間が雄物川を下り流域の皆さんと大いに交流を深めて行かれました。 
11月には時代の要請に沿った新しいやり方として専門家、学識経験者、河川利用者、さらには河川のゴミを拾う仲間などからなる「雄物川流域河川懇談会」を設立いたし、雄物川の整備について計画段階から意見や提言を求めていくこととしています。
成瀬ダム建設事業につきましては、多くの皆様のご努力とご協力により基本計画の公示に向けた手続きが順調に進み、公示を待つばかりとなりました。今年は、いよいよ工事用道路の一部に着手していく予定です。

八幡平山系砂防事業につきましては、昨年3月に「秋田駒ヶ岳火山防災対策検討委員会」を設立し、八幡平山系における火山災害、土砂災害防止のためのハード・ソフト両面の整備を進めてきております。

八幡平系(秋田県側)直轄火山砂防事業
▲小先達川第1砂防ダム ▲黒澤川第1砂防ダム
▲先達川第1砂防ダム ▲先達川第3砂防ダム

この一環として、11月にはアメリカ、フィリピンおよびイタリアの専門家を招いて国際砂防フォーラムを開催するとともに、駒ヶ岳を含む3系列の光ファイバーを用いた監視カメラによる現地画像が、リアルタイムで田沢湖町役場と湯沢市にある当事務所に届くシステムを整備しました。今年も、砂防堰堤などのハード施設の整備と併せて、ハザード・マップの作成や監視機器類の整備などを進めていく予定です。

▲駒ヶ岳の噴火(昭和45年) ▲駒ヶ岳溶岩流(昭和45年)

道路事業につきましては、前述のように国道13号線の通年通行の確保に係る各種の施設整備と除雪、除草、路面やトンネルの維持管理、各種情報の提供、道の駅の管理等を行っているほか、高規格道路の湯沢・横手道路をはじめ大曲バイパス、神宮寺バイパス、刈和野バイパスなどの主要事業を進めてきております。

高規格幹線道路調査
▲横手jctと横手市 ▲地域づくり相談室主催の「公開講座」

また、積雪期における歩行者の快適な歩行空間を確保する無散水消雪歩道の整備や、県や市と連携したバリア・フリー化の推進についても鋭意これを進めているところであります。言い換えてみますと、歩道の小さな穴ぼこから長大なトンネルや橋梁まで大変多岐にわたる対応をさせていただき、地域を支えさせていただいております。
昨年10月には、初めて雄勝トンネル内での火災事故を想定した全面通行止めにした防災訓練を実施いたしました。この時、同時に実施した200名にのぼるドライバーヘのインタビュー調査によりますと、このトンネル付近の峠道は冬の時期にはとても危険で、3割の人が他の路線を迂回していることが判明したほか、8割の人々がこの区間に安全で迅速な移動が出来る高速道路の早期建設を強く望んでいることがわかりました。
このアンケート結果が3ヶ月半後には現実の問題となり、今年2月7日には、15年ぶりに並行して走るjr奥羽本線が異常な積雪で列車通行に支障となったため、当事務所とjrが15年ぶりの共同除雪を実施しました。昨年11月には、刈和野バイパスの芦沢地区の部分開通をしましたが、今年秋にはこのバイパスの全線開通を予定しております。
大曲バイパスは現在、4車化の事業を進めているところですが、その一環として建設する予定の玉川橋について「玉川橋景観検討委員会」を設立いたし、専門家の意見を聞いているところであります。この地区はドイツ人ブルーノ・タウトが「日本美の再発見」で「私は曽てこんな美しい雪景を見たことがない」と絶賛した場所であり、後世に誇りを持って残せる施設の建設を進めて行く予定です。
次に、第5次全総の理念である参加と連携の精神に沿った新しい時代の要請に応えるべく、昨年から当事務所内に設置いたしました「地域づくり推進室」を中心とした地域の人々と共に歩む公開講座につきましても好評の中に進めさせていただいており、この2月に10回目を迎え、聴講参加者は合計で2千名に迫る数となりました。この講座を通じて広域にわたる新たな信頼・連携関係が生まれつつあることを報告申し上げます。
また、昨年12月には、湯沢市の中心商店街である柳町の貸ビルに所管事業の内容を紹介する広報施設として「国土交通館ぷらっと」を開設いたし、多くの人々にご利用いただいています。この中には当省の事業紹介以外にも関係28市町村の情報を紹介をするコーナーもあり、地域の皆様と相互に活発な情報交換ができることを期待しております。

また、成瀬ダムにつきましては、流域内市町村の交流会を鋭意進めてきております。道路では、横手市内の安田交差点改良工事について計画を公開して、市民の計画に対する意見を聴取するパブリック・インボルブルブメントを試行しているほか、13号線の神岡町では地元ボランティアと協定を結んで小学生の登・下校時間帯に合わせたきめ細かな歩道除雪をする「ボランティア・サポート・プログラム」や、合計1,800mにおよぶ国道沿線に地元市民が自主的に花を植える「マイ・フラワーロード」作戦を展開しています。

成瀬ダム事業
▲成瀬ダム

当地方では、私どもの実施いたしております公共事業の一つ一つが地方の経済対策としても極めて重要な役割を担っていることをも充分に認識させていただきながら、身の引き締まる思いで日々の業務を推進してきているところでございます。
今年1月には、新たに国土交通省への移行がありましたが、今後は当事務所におきましても職員一同が省庁合併のメリットが十分に発現できるよう関係地域との連携をさらに密にして、与えられた重責を認識し国民の要請に応えられるよう関係事業推進に懸命の努力を重ねていくことをお誓い申しあげます。
地域の皆様におかれましても各種公共事業特別会計制度の重要性などを十分に認識され、公共社会資本の整備・推進に一層のご支援とご協力を賜りますようお願い申しあげます。


HOME