〈建設グラフ2001年5月号〉

寄稿

摺上川ダム工事事務所の事業概要

国土交通省 東北地方整備局 摺上川ダム工事事務所長 田仲 光美

田仲 光美 たなか・みつよし
生年月日 1950年5月12日
出身地 秋田県
最終学歴 中央大学理工学部土木工学科卒業
主な経歴
74年 建設省東北地方建設局入省
94年 河川局防災課災害査定官
97年 東北地方建設局長井ダム工事事務所長
99年 5月より現職
はじめに
摺上川ダムは、阿武隈川の左支川摺上川の上流福島市飯坂町茂庭地内に建設中の多目的ダムで、集水面積160km2、総貯水容量1億5,3000万立方メートルの中央コア型口ックフィルダムである。(ダム及び貯水池の諸元は表−1の通り)
現在、建設工事の最盛期であり、平成12年12月末の堤体盛立の進捗率は約63%となっており、平成16年秋からの試験湛水に向けて鋭意工事を進めているところである。
1.摺上川ダムの目的
摺上川ダムの目的は洪水調節、河川環境の保全、かんがい、水道用水、工業用水、発電の6つである。
〔洪水調節〕
ダム地点計画高水流量850立方m/sのうち、流入ピーク時で820立方メートル/sをダムに貯留し、摺上川地域の洪水の低減及び上流ダム群と合わせて阿武隈川本川下流域の洪水の低減を図る。
〔河川環境の保全〕
摺上川ダム下流の既得用水の補給等を行うと共に、ダムサイト直下流において最低1.5立方メートル/sの流量を確保し、河川環境の保全を図る。
〔かんがい〕
阿武隈川及び摺上川沿岸の約4,200haに対し、かんがい用水を補給する。
〔水道〕
福島市及び周辺の11町からなる福島地方水道用水供給企業団の水道用水として、ダム地点において1日最大249,000立方メートルを供給する。
〔工業用水〕
福島県の工業用水として、摺上川と阿武隈川の合流点に近い瀬ノ上地点下流において、1日最大10,000立方メートルを供給する。
〔発電〕
摺上川ダムの建設に伴って新設される東北電力鰍フ摺上川発電所において、最大出力3,000kwの発電を行なう。
2.摺上川ダム建設事業の経緯
摺上川ダムは、1973年度から予備調査を開始し、1982年度から実施計画調査に着手、1985年4月に建設事業に着手している。
1986年10月には基本計画を告示し、ダム規模、事業内容を決定した。その後、1990年7月に用地補償基準の妥結調印が行われ、1994年12月に本体建設工事に着手している。
1997年11月に摺上川本川を仮排水トンネルに転流させ、1998年5月より堤体口ック部盛立および洪水吐コンクリート打設に着手し、本体工事の本格的な施工に入るとともに、国道399号付替工事、市道林道付替工事等、各種関連工事を行っている。
現在の進捗状況は、堤体盛立が847万立方メートルのうち約63%(ダム高105mのうち約60m)、洪水吐コンクリート打設量27万立方メートルのうち約65%となっており、今後の予定は、2002年末に堤体盛立を完了させ、2004年秋から試験湛水を開始し、2006年度末竣工を予定している。
なお、当初の基本計画では、ダム総事業費が約1,100億円、完成年度が1997年度としていたが、その後の物価変動、工事内容の変更等により当初事業費を大きく上回ることが確定したことにより、1998年2月に基本計画の変更を行い、ダム総事業費を約1,955億円に、完成予定を2006年度末にそれぞれ変更している。
この際、福島県およびダム事業の利水者からは、早期の完成と総事業費の縮減について強く要望されている。
3.摺上川ダムの主な取り組み
(1)コスト縮減
摺上川ダムでは、1997年4月に政府が策定した「公共工事コスト縮減に関する行動指針」に基づく取り組みと、事業費変更時の要望事項に配慮し、ダム建設におけるコスト縮減に積極的に取り組んでいる。
@コスト縮減推進体制
摺上川ダムの体制として、まず事務所職員で構成する「摺上川ダム技術検討会」(1996年7月発足)があり、縮減に関する行動計画を策定、立案し、縮減対策への取り組みを推進している。この下に各項目毎にプロジェクトチームを編成し、ダム事業全体の懸案事項の具体的な検討を行っている。
次に、ダム工事を請け負っている摺上川ダム本体建設工事の飛島・大林共同企業体で組織する「摺上川ダム建設事業合理化委員会」(1997年1月発足)があり、業者側から工事の縮減の可能性を探り、提案している。
さらに、当事務所と企業体の組織を統轄する「摺上川ダム建設事業コスト縮減委員会」(1997年4月発足)を組織し、縮減項目の決定とそのフォローアップ及び評価を行っており、まさに官民一体となったコスト縮減を推進している。
A主な縮減項目
これまでに工事等が完了した項目、現在施工中の項目は、別表−のとおりであり、主な取り組み事例を別図−に示す。
(2)ダム周辺整備と活用
ダム事業は、ダム建設により治水安全度の向上と利水水量の確保を行い、社会基盤の安全・安心を確保するという本来の目的のほか、ダム堤体により創出される広大な湖とそれを取り巻く雄大な自然が存在し、それらを如何に整備していくかも将来のダムの利活用にとって重要なファクターとなっている。
@整備の検討
ダム建設における周辺環境整備は、ダム建設により改変した範囲を整備するのが基本であり、その活用方法により整備の形態が異なってくる。ダム周辺整備は、基盤整備までがダム事業者により実施され、その基盤上に建設される施設は地元自治体(摺上川ダムの場合は福島市)が整備し、将来の維持管理も地元自治体が行っていくものであることから、摺上川ダム周辺環境整備の検討は、1994年度から福島市が事務局となって、当事務所、福島県、森林管理署、地元住民等により構成される「摺上川ダム周辺整備検討会」において進められている。
もちろん整備内容は、ダム及び関連管理施設並びにダム湖等の管理と密接な関係にあることから、当事務所においても十分検討し、整備主体である福島市との綿密な連絡調整を図りながら整備検討を進めているところである。
A整備基本方針
当ダムの整備コンセプトとして、『桃源の香りただようダムの郷』〜縄文のこころ、自然との共生、森・水文化とのふれあいをめざして〜を掲げ、例えば土捨場跡地など改変した場所については、ダム周辺の在来種による樹林の再生などにより、地域の景観・風景を創造しながら、人と自然との共生を図るような整備を行っていくこととしている。
また、樹林の再生などについては、高木を直接移植するのではなく、種を採取し、苗木を育てながら順次整備を進めていくという方法で、学校教育における総合的学習の場としての活用や住民参加による整備を進め、ダム地域(ダム施設と周辺の自然)とその地域住民の交流の場としての位置づけも模索していく考えである。
おわりに
摺上川ダムは、逼迫する水需要に対応するため湛水前の2003年4月から水道の暫定取水をダム取水施設を使用して行われることがほぼ決まっていることなど、関係地域の方々から一日も早い完成が望まれている。
まさに福島県北地域の21世紀の発展の基礎を造る社会資本整備として、平成18年度末完成に向けて職員一丸となって事業進捗に取り組んでいるところであり、関係各位の一層のご協力をお願いしたい。
▲付替市道・村道 ▲転流工
▲原石運搬路 ▲軽井沢橋

HOME