〈建設グラフ2001年5月号〉

寄稿

北上川下流工事事務所の事業概要

国土交通省 東北地方整備局 北上川下流工事事務所長 中村 徹立 氏

中村徹立 なかむら・てつや
生年月日 昭和33年 1月17日
出身地  新潟県
最終学歴 東京工業大学大学院土木工学専攻
(昭和57年3月修了)
昭和57年 4月 建設省 採用
昭和57年 4月 北海道開発局 石狩川開発建設部
昭和61年 4月 建設本省 河川局防災課係長
昭和63年 4月 北陸地建 富山工事事務所 調査第一課長
平成 2年11月 北陸地建 企画部 企画課長
平成 4年 5月 建設本省 建設経済局 調査情報課長補佐
平成 6年 4月 近畿地建 淀川ダム統合管理事務所長
平成 9年 5月 中部地建 横山ダム工事事務所長
平成12年 4月 東北地建 北上川下流工事事務所長
事務所の概要
北上川下流工事事務所は、北上川・旧北上川・江合川・鳴瀬川・吉田川など総延長約210.5kmに及ぶ河川の改修・維持・管理などを実施し、安全で安心できる社会基盤の形成、きれいな水と緑の創出、個性豊かな活力ある地域づくりの支援をめざして事業を推進しています。
北上川水系
北上川は源を岩手県岩手郡岩手町御堂に発し、岩手県のほぼ中央をほぼ北から南に流れ、一関下流の狭窄部を経て宮城県に入り、津山町付近で北上川と旧北上川に分派します。北上川は、北上町で追波湾に注ぎ、旧北上川は迫川・江合川などを合流して、石巻市で石巻湾に注ぎます。
その流域には東に北上山地、西に奥羽山脈の高峰が連なり、これらの山地から流入する数多い支川を合わせて北から南に流下する、流路延長約249km(全国第5位)、流域面積約10,150平方キロメートル(全国第4位)の東北最大の河川です。宮城県内の流域内は、石巻市・古川市などの主要都市をはじめ、2市28町1村の約52万人が生活しています。
鳴瀬川水系
鳴瀬川は源を宮城・山形県境の船形山に発し、奥羽山脈の山水を集めて東へ下り、途中、田川、多田川、新江合川などと合流し、大崎平野を貫流していきます。また、鹿島台町で北泉ヶ岳から発する右支川・吉田川と併流しながら鳴瀬町で合流し石巻湾に注ぐ、幹川流路延長89km、流域面積1,130平方キロメートルの宮城県内有数の一級河川です。
宮城県内の流域には、古川市をはじめ1市19町1村の約36万人が生活しています。
河川改修事業
河川改修事業により、沿川に住む人々の生命と財産を洪水から守るため、堤防や護岸などの治水施設の整備を行っています。 国による改修は、北上川は明治44年より、鳴瀬川は大正10年より行われています。
@鳴瀬川中流堰・桑折江堰建設事業
鳴瀬川の河川改修には、流域内からの計画流量を流下させる他に、新江合川からの洪水分派(計画流量800立方メートル/s)を受け入れることとなっています。これらの計画流量を安全に流下させるために、治水計画は上流ダム群による洪水調節並びに通常の築堤に加え、大規模な河道掘削により計画流量を流下させることが基本となっています。中流堰および桑折江堰ともこの河道掘削の実施に伴い、河床の安定、取水位の確保および流水の正常な機能の維持を目的に建設するものです。両堰とも古川市他、沿川13町にまたがる約1万haの受益範囲を対象とした鳴瀬川地区国営かんがい排水事業によって設置される取水施設(鳴瀬川頭首工、桑折江頭首工)でもあり、建設省および農林水産省の共同事業として、中流堰は平成9年度より、桑折江堰は平成10年度より本体着手しており、平成13年度および平成14年度の完成を目指して建設工事を鋭意進めております。また、桑折江堰の管理橋は農道兼用の管理橋として、宮城県の県営農業整備事業(三本木地区)と三者の共同事業で実施します。
A水害に強いまちづくり事業
鳴瀬川と吉田川にはさまれた鹿島台町・大郷町・松島町は、古くから水害に悩まされてきた地域です。昭和61年8月の洪水でも未曾有の災害に見舞われましたが、建設省、宮城県、地元町が一丸となって復興に努めました。
さらに昭和63年、建設省は「水害に強いまちづくり事業」をスタートし、当該地域を全国唯一の地域に指定。側帯・二線堤・水防災拠点・避難路などを総合的に整備することをはじめ、末端家庭まで警報システムとして防災無線の整備を図るなど安全な街づくりを目指しています。
【二線堤】
万が一洪水により河川が氾濫した場合、氾濫の拡大を防ぎ、被害を最小限にとどめるとともに、緊急時における救援、復旧活動等が迅速にできるように設置します。
【水防災拠点】
緊急時の迅速な緊急復旧活動や適切な水防活動ができるように、ヘリポートをはじめ水防倉庫・土砂備蓄・緊急用資機材置場・現地対策本部の水防災センター及び緊急時の避難地として総合的に整理するものです。また、平常時には総合的なスポーツ、レクリエーション及び憩いの場として地域のコミュニケーションの核となるように計画されています。
B北上川堤防強化事業
北上川の直轄事業による河川改修は、明治時代から実施されてきました。特に柳津から下流は現在、洪水時の流下能力は他の河川に先駆けてほぼ段階整備目標に達しています。今後は、旧北上川分流施設改築事業、月浜第一水門改築事業に合わせ、計画流量8,700立方メートル/sを安全に流下できるよう、高さや厚みの足りない弱小堤防の強化や耐震対策を行い、より高い治水安全度を目指して事業を実施していきます。
上・鳴瀬川中流堰 下・桑折江堰
▲水害に強いまちづくり事業 ▲水辺プラザ中瀬 萬画館完成予想図
河川環境整備事業
河川環境整備事業はこれらの多様化したニーズに応えるために、地域と一体となって自然環境を保全、創出しつつ、緑豊かな美しい水辺空間の整備とともに、水と緑の豊かなまちづくりを積極的に支援する事業です。
@中瀬地区水辺プラザ整備事業(宮城県石巻市)
中瀬地区は、かつての内陸〜海洋航路の中継地点として栄えた場所であり、物流・文化の交流拠点を復活させ、地域の活性化及び地域間交流を促進するため、「水辺プラザ」として河川空間の有効利用を図るものです。
本事業は、石巻市で実施する中心市街地活性化事業の一環として、故・石ノ森章太郎氏の意志を引き継ぎ、中瀬地区に整備する「石ノ森萬画館」と一体的に水辺空間を整備することにより、地域間の交流促進が図られ、地域の振興に大きく寄与するとともに、潤いのある水辺空間を創造するものです。
▲北上大堰災害復旧工事 ▲事業完了に向けて工事が進む  
JR仙石線鳴瀬川・吉田川鉄道橋
▲旧北上川分流地点の状況と改築計画概要 ▲北上川堤防強化事業
特定構造物改築事業
特定構造物改築事業とは、すでに耐用年限に達し老朽化が著しく進行している河川管理施設及び河川改修計画に照して著しく洪水流下断面を阻害している許可工作物について、改修計画に基づく抜本的な大規模改築を要する場合に、機動的かつ集中的な投資により必要な改築を行うことにより所要機能の早期回榎・向上を図る事業です。
@JR仙石線鳴瀬川・吉田川鉄道橋改築事業(平成12年度完了予定)
現在のJR仙石線鳴瀬川・吉田川鉄道橋は、橋台が河道内に張り出しているため、上下流に比べ川幅が極端に狭くなっています。また、鉄道橋の桁下高も1.1m〜1.7m程度高さが不足しています。このため、洪水時には当地点で流れが著しく妨げられ非常に危険な状態になっています。
本事業は、所要の流下断面を確保するため、河川改修の一環として現鉄道橋の架け替えを実施し、鳴瀬川及び吉田川下流域における治水安全度の向上を図るものです。
また、本事業に併せて防風対策も行うこととしており、高さ1.8m程度の防風壁を橋梁の上流側に設置し、仙台〜石巻間のアクセス向上(強風による運行停止回数の低減)も図ります。
A旧北上川分流施設改築事業
北上川から旧北上川に分流している鴇波洗堰及び脇谷洗堰は、当該分流地点下流部の北上川開削に併せて建設されたもので、昭和7年に完成しております。これらの分流施設は、洪水流量の低減及び平常時の水量確保を目的に設置され、以来70年近くにわたって石巻及び県北地域の繁栄の礎となってきました。
しかし、現在の分流施設は老朽化が著しいうえ、旧北上川及び江合川・迫川等の支川流域の治水安全度を効率的に向上させる必要があることから、現分流施設を改築する事業として平成8年度に着手し、各種の調査設計を進めてきております。今後も本事業の説明に努めるとともに、関係地域の皆様方のご理解とご協力を得て、平成12年度に本体工事に着手する予定です。
なお、現分流施設である鴇波洗堰、脇谷洗堰及び閘門は、歴史的土木施設として今後も保存することとし、これらを活かした河川環境の整備と保全を図ることとします。
河川の管理
当事務所の管理区間を6出張所(米谷・飯野川・大崎・涌谷・鹿島台・鳴瀬)で分担して管理しています。
管理業務としては、良好な河川維持のため河川巡視、水質監視の他安全な生活を守るため洪水対策等を実施するとともに、水防月間、砂利災害防止月間や河川愛護月間などの諸行事に取り組んでいます。
@河川維持修繕事業
当事務所河川管理区間約210.5kmについて、河川管理施設の維持修繕を行っています。維持修繕は、北上川下流、江合川、鳴瀬川、吉田川の全区間の堤防除草、堤防天端補修、護岸補修、側帯改善および北上大堰等大型施設の維持修繕を行います。また、排水ポンプ車(30立方メートル/m×3台、60立方メートル/m×3台 計6台)及び照明車(2kw×2台)を配備し、災害発生時における機動的な内水排除作業を実施します。
A河川工作物関連応急対策工事
当事務所河川管理区間内にある河川工作物の付属施設および関連施設が不十分、または構造が適当でないために、前後の一連区間の治水機能に比較して、工作物周辺の治水機能が劣っているものについて改良工事を行うもので、樋管等の空洞化対策、止水対策およびゲート操作の改善等を行います。
B洪水予報
洪水による水害を防止、軽減し、沿川住民の安全を図るため、気象台と共同し、当事務所管内河川について、洪水予報の発表を行うとともに、水防作業のための水防警報の発表を行います。
C雨量観測
河川計画・河川管理のための基礎データ収集および洪水対策を目的として、管内19箇所に雨量計を設置し、毎時間観測しており、事務所で瞬時に各地の雨量がわかるようになっています。
D水位・流量観測
管内河川の主要な地点の水位は毎時間自動的に観測されており、リアルタイムでデータが事務所に送られ、洪水時には河川の状況をいち早く把握して、洪水予報を行います。
流量観測については、現在管内14箇所で行っており、雨量や水位のデー夕とともに河川計画や河川管理上の基礎資料に用いています。
E河川水辺の国勢調査
近年、河川環境の保全と利用に対する国民のニーズが高く、自然豊かな川づくりのためには河川を環境という観点からとらえた系統的な基礎情報の収集整備をはかることが重要です。このため、国土交通省では国が管理している全国109の1級水系の河川について「河川水辺の国勢調査」を実施しています。
この調査は「魚介類調査」、「底生動物調査」、「植物調査」、「鳥類調査」、「陸上昆虫類調査」、「両生類、爬虫類、哺乳類調査」という6つの生物調査と、川の瀬・淵や水際部の状況を調査する「河川調査」、河川空間の利用者等を調査する「河川空間利用実態調査」からなっています。
▲北上大堰

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