〈建設グラフ2001年5月号〉

寄稿

安全で安心できる岩手の地域づくり

国土交通省 東北地方整備局 岩手工事事務所長 佐藤 宏明 氏

佐藤 宏明 さとう・ひろあき
生年月日 昭和31年3月18日生
出身地 北海道帯広市
最終学歴 北海道大学大学院
昭和 55年 4月 北陸地方建設局富山工事事務所採用
昭和 57年 4月 宮城県河川課へ出向
昭和 59年 4月 河川局開発課係長
昭和 61年 4月 関東地方建設局宮ヶ瀬ダムエ事事務所調査設計課長
昭和 63年 1月 関東地方建設局河川部河川調整課長
平成 元年 7月 関東地方建設局河川部河川計画課長
平成 2年 4月 本省河川局河川計画課長補佐
平成 4年 7月 東北地方建設局胆沢ダム工事事務所長
平成 7年 4月 東北地方建設局企画部企画調査官
平成 9年 4月 (財)ダム水源地環境整備センターヘ出向 研究第三部長
平成 11年 4月 現職
はじめに
近年、少子化・高齢化が進み、生産年齢人口の減少、福祉需要の増大、中心市街地の空洞化などにより、地域の活力低下が社会問題となっています。今、地域を活性化するために地域の利点、弱点を互いに補い連携しながら交流人口を増やす地域づくりが必要とされています。このような社会情勢に応じた国土づくりを推進するため、岩手工事事務所では、「地域活動への支援」として、防災施設、交流・学習施設の整備、「広域活動への支援」として、航路等の整備、道路の整備、港湾・空港アクセス路の整備、サイクリングロードの整備を行うとともに、事業の実施に際しては、「年齢や性別、体の自由・不自由に関係なく、全ての人が等しく使いやすいようなノーマライゼーション、環境への配慮、コスト縮減・技術研究開発への取り組み」を基本方針に、各事業を行っているところです。この基本方針に沿い、岩手工事事務所で進められている河川・砂防事業、道路事業の中から主な事業を紹介します。
主な事業の紹介

@砂鉄川床上浸水対策特別緊急事業
砂鉄川最下流部に位置する川崎村は、北上川の増水による砂鉄川への逆流により、たびたび浸水被害を受けてきました。このような状況を早期に解消するため、平成11年〜15年の5ヶ年で重点的に投資を行い、北上川との合流地点から完全バック堤方式で堤防を築くものです。
また、砂鉄川は、「名勝・猊疵鼻渓(げいびけい)」で全国的にも知られるように、古くから「清流の川」として地域住民から親しまれてきており、現在でも、数多くの人が川とふれあい、川から恩恵を受けている状況にあり、事業実施に際しては、計画・設計・工事の主要段階で地元及び関係者との調整を踏まえ、可能な範囲で背後地の宅地を地上げするなど、安全で、環境に優しく、人にも優しい川づくりを目指しています。
この事業では、築堤、掘削、排水樋管・揚水機場の建設、橋梁架替え・道路付替え等の工事が行われますが、現在は、堤坊の築堤工事が盛んに行われております。

砂鉄川床上浸水対策特別緊急事業
▲川崎村(北上川・砂鉄川合流点の浸水状況)
A一関遊水地事業
北上川の中流部・岩手県南部に位置する一関地区は、北上川狭窄部の手前に位置している地理的特性から古来より水害に悩まされてきました。なかでも、昭和22年、23年に連続で来襲した「カスリン・アイオン台風」による約600人の死者行方不明者を出した未曾有の大洪水は、戦後間もない一関地区を壊滅状態にしました。一関遊水地は北上川5大ダムとともに、このような水害を契機に計画された北上川の治水の根幹をなすプロジェクトです。
遊水地は、市街地を洪水から守る周囲堤と中小洪水を制御し調節効果を増大させる小堤からなり、第1・第2・第3の三つの遊水地で構成されており、昭和58年度から着手した市街地を守る周囲堤の盛土工事は平成5年度にアイオン台風洪水の高さまで完成し、治水効果を発揮しています。現在は計画高水位の高さまでの築堤工事を推進しています。遊水地事業では、築堤、排水機場・集中管理センターの建設を行っています。この集中管理センターは、一関遊水地の陸聞、排水機場、水門等の施設を一元的に管理し、効率的・効果的な河川管理の中核となる施設で、洪水時には情報の収集・提供、水防活動の拠点としても活用されます。
また、この施設の中には、北上川の風土、歴史、文化、自然、災害、治水等の情報を広く発信し、治水の知恵と地域発展の関わりなどについて学習体験できる「北上川学習交流館」が併設されます。
周囲堤建設に伴い、周囲堤と一連堤となる支川大田川堤防では、堤防嵩上げのため、JR東北本線橋梁及び国道4号橋梁の改築事業を実施しております。なお、JR橋梁は堤防天端を横架する従来方式の橋梁では、特別史跡である「無量光院跡」の保存を困難にする平泉駅の嵩上げが必要となるため、既設の鉄道敷高を変えない全国初の函渠と土堤による遮水壁構造を採用しています。
▲第三遊水地氾濫状況(一関市舞川地内)
B水辺プラザ整備事業
川を基軸に歴史・文化や豊かな自然等を素材にした地域の人々の交流ネットワークを構築し、この交流ネットワークの核となる交流拠点として親水、自然学習、休息、交流・連携、地域のシンボル、流域・地域の情報発信等マルチ機能を有する施設を市町村等と連携してつくるものです。
当事務所管内では8ヶ所で整備する予定となっており、整備にあたっては、懇談会等を開催し、利用者である地域住民の意見を最大限実現できるように取り組んでいます。
また、水辺プラザを単体として捉えず、国道や鉄道、サイクリングロード等をネットワークの経路として利用し、水辺プラザ周辺の様々な資源、施設との積極的な連携を図るとともに、同じネットワークを形成する道の駅、森の駅等との連携を強め、地域の魅力をより高めることを目指しています。
整備される8地区は、それぞれの地域に合わせた特色を出して整備をするようにしており、画一的な物にならないように努めています。
水辺プラザ「北上川歴史回廊」構想
▲水沢地区 ▲一関水辺プラザ
C八幡平山系砂防事業
八幡平山系は岩手山や秋田駒ヶ岳など多くの火山が集まっており、古くからの火山活動による堆積物が広く分布しており、地質は脆く、急傾斜のため風化が進む山腹から土砂が流出し、下流の人家や耕作地が土石流の危険にさらされています。また、自然豊かで温泉もあり、多くの観光客が訪れます。そのため地元の人々、観光客を土砂災害から守るため平成2年度より事業を行っています。
現在、荒廃が著しい松川と雫石川の流域において砂防事業を実施していますが、流域内には国立公園もあるため、自然景観にも配慮した事業を進めています。また、山の荒廃を防ぐためには、適切な間伐をし、健全な森林を保つことが川を守ることにつながります。
間伐をし、その間伐材を活用した砂防施設もつくっています。
▲岩手山焼走り床固め工群 第2号 工事の状況  ▲八幡平山系砂防
完成した松川第1砂防ダム(湯ノ又砂防ダム)
D岩手山火山防災対策
平成9年12月に活発化した岩手山の火山活動は、周辺住民に脅威を与えるとともに、観光客の激減等非常に深刻化しています。
そこで噴火した場合に岩手山周辺や北上川、国道4号・46号に広く被害を及ぼすことが想定されることから、岩手県や関係市町村及び関係機関で連携し、連絡体制の確保、情報の共有化、ハザードマップ、岩手山火山防災ガイドラインの作成、防災訓練等の災害に備えた取り組みを行っています。
また、監視体制の強化を図るため、監視カメラ・土石流センサー等を設置し、岩手山の状態、土砂移動を監視・観測しています。緊急時に対策本部として活用できる防災スペースとして「岩手山火山防災情報ステーション(イーハトーブ火山局)」を建設しました。
この施設は、緊急時の対策本部として活用されるとともに、平常時は砂防工事従事者、消防団等防災関係者、小中学校等学校関係者等が火山に関する知識の普及、教育・研究等の学習・研究施設として活用され、火山防災意識の高揚が図られています。また、その他の一般の方々(観光客を含む)にも幅広く、岩手山の活動状況、防災体制整備の進捗状況、岩手山周辺の火山の恵み(自然環境、温泉、地熱発電)等に関する情報も発信されています。
▲黒倉山(西岩手山)の噴気の状況(平成12年1月19日)
E平泉バイパス事業
東北地方の大動脈である「一般国道4号」が通る平泉町は、中尊寺金色堂、毛越寺、源義経が最期を遂げたという高舘義経堂をはじめ、柳之御所遺跡等、見所が多くあり全国的にも知られる観光都市です。一般国道4号が果たす役割は様々ですが、この平泉町においては、観光ルートとしてのウェイトが大きくなっています。
しかし、市街地の中心部を縦貫する全幅9.5mの2車線道路では、近年の交通量の増加と車両の大型化への対応が難しく、特に観光シーズンには平常時の1.3〜1.5倍の交通量が殺到するため、大変な渋滞が起こっています。そのため、地域住民をはじめ観光客からも早急な対策が望まれていました。
平泉バイパスは、円滑な道路交通の確保、交通安全の確保、主要幹線機能の回復、広域観光ルート形成を目的に昭和48年度に計画調査を開始、一関遊水地堤防と併設する構造(全延長5.8kmのうち、3.8km)となっていることから、一関遊水地事業との調整を経て、昭和56年度に事業着手、59年度から工事に着手し事業を進めています。
この平泉バイパス事業では、工事予定地にあった遺跡を工事前に緊急発掘調査を行った際、この遺跡が、かつて中央にも劣らない繁栄を誇った奥州藤原氏の政庁跡で「柳之御所跡」であることが判明し、この遺跡は、我が国の歴史を解明する上で重要であるとの判断から、遺跡区域を避け、堤防及びバイパスルートを川側へ変更するという大英断を行っています。この「柳之御所跡」を残したことにより、平成12年11月17日、この柳之御所跡を含む、中尊寺、毛越寺など文化遺産がユネスコの「世界遺産」の暫定リストに登録されました。
▲一般国道4号平泉バイパス ▲平泉町 柳之御所遺跡の発掘状況
F花巻東バイパス事業
岩手県のほぼ中心に位置する花巻市は、県内唯一の花巻空港を有しているほか、東北新幹線、東北縦貫自動車道と東北横断道釜石秋田線の結節点であるなど広域高速交通拠点となっている全国でもまれな地域です。花巻東バイパスは、花巻市内を通過する国道4号の渋滞解消や交通安全の確保、東北横断道の花巻東ic、東北新幹線新花巻駅、花巻空港等へのアクセス機能を高めることを目的に、昭和62年度から事業に着手しています。
また、現在この地域において5つの大型事業が集中して行われています。
重要港湾を有する釜石市、空港を有する花巻市、秋田港・秋田空港を有する秋田市を結び、産業経済の発展を担う道路公団の「東北横断自動車道」。花巻市等における都市機能の集積を計画的に促進する地域公団の「流通業務団地」。滑走路を拡張することにより大型旅客機の発着を可能にし、流通の強化を目指す岩手県の「花巻空港滑走路拡張計画」及び空港東側のアクセス向上を目的とする「花巻空港アクセス道路」。そして、この「花巻東バイパス」。
そこで、花巻市北部に集中している事業(5大プロジェクト)を、地域の方々をはじめ、花巻市民及び各事業利用者等多くの方々へ事業の目的と必要性等を紹介し、理解を深めるための施設として「花巻ふれあい学習館」を開所しました。この学習館では、5大プロジェクトが分かる模型や各事業を紹介するパネル・パンフレット等で事業をprしており、常務員により事業の簡単な説明、今後の事業展開が説明され、工事状況等の情報提供や要望等の窓口として活用されています。
本年1月に、建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁が統合され国土交通省となったわけですが、この花巻東バイパス事業は、省庁統合の効果が最もわかりやすい事業と言えます。
▲一般国道4号花巻東バイパス
G橋場改良事業
国道46号は、県都盛岡市を起点とし、奥羽山脈を越え、隣県である秋田県協和町まで至る道路で、「地域高規格道路・盛岡秋田道路」の整備区間として指定されております。雫石町橋場地区には、落石崩落個所が存在しており、平成9年に実施した学識経験者による現地調査では、「将来的な侵食の進行により、転石が不安定化し、新たな落石崩落災害の発生が考えられるため、抜本的な対策が必要とされる」との所見が出されました。また、当該区間は幅員が9.5mと狭小である上カーブもきつく、死傷事故も発生しており、交通安全上の問題となっていました。
このような状況を踏まえ、落石崩落の危険を解消し、主要幹線道路としての機能の向上と、交通安全の確保を目的とした恒久防災対策として、局部改良を行っております。
▲一般国道46号橋場改良(地域高規格道路・盛岡秋田道路)
H盛岡拡幅事業
県都盛岡市の市街地を迂回する環状道路として、盛岡バイパスが開通してから30年が経ち、市街地の拡大発展は著しく、盛岡バイパス並びにその沿線が市街地化し、交通量の増大、車両の大型化に伴い、慢性的な交通渋滞と交通事故の問題が発生しています。
このような現状を解消し、交通の円滑化、交通安全の確保、沿道環境の改善を図るため、盛岡市北部において昭和58年度に事業着手し、4車線化事業を進めています。
現在は、JR東北本線と東北新幹線を横架する「茨島こ線橋」の工事を進めています。「茨島こ線橋」は老朽化に伴う損傷が激しく、幅員も狭いため、新たに上下別線の4車線橋梁とするものです。
また、この場所に盛岡拡幅事業について「見て・聞いて・実感して」頂ける施設として、「茨島ふれあい学習館」を開館しました。茨島こ線橋の完成模型やエ事状況、エ事過程が分かるパネル展示等、盛岡拡幅事業について学習でき、さらに盛岡地区の事業や茨島こ線橋以北の盛岡滝沢道路での「計画策定からの住民参加:pi(パブリックインボルブメント)」の取り組み状況などの掲示も行われています。小学生や地域の皆様が利用できる学習室も完備しており、地域活動や体験学習の場として利用されています。
▲一般国道4号 盛岡拡幅
おわりに
このように、岩手工事事務所では、地域の活性化支援のため、地域の歴史・文化を大切にし、地域の方々との対話を通した事業を進めております。
今後も、地域の活性化のため、より一層努力して参りますのでご支援・ご協力をお願い致します。

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