〈建設グラフ2000年5月号〉

寄稿

利根川下流工事事務所の概要

建設省関東地方建設局利根川下流工事事務所長 福田正晴 氏

福田正晴ふくだ・まさはる
岐阜県出身、
昭和54年3月 北海道大学大学院工学研究科修了
昭和54年4月 建設省入省
平成 4年4月 ダム水源地センター
平成 6年4月 近畿地方建設局琵琶湖工事事務所長
平成 9年1月 建設本省建設経済局建設振興課建設専門官
平成10年4月 関東地方建設局利根川下流工事事務所長
1.はじめに
建設省利根川下流工事事務所は、利根川本川の下流部である我孫子市・取手市から太平洋の河口である銚子市・波崎町までの千葉県と茨城県の県境を流下している約87qと、支川小貝川約7q、手賀川8qの合わせて約102q区間を管轄し、利根川改修第1期治水事業に着手した明治33年以来、河川の治水安全度の向上と地域発展のための各種の事業を推進してきました。
2.事業の概要
現在、利根川下流工事事務所では、河川改修事業、高規格堤防整備事業、直轄河川等災害復旧事業、利根川印旛沼総合開発事業、河川維持修繕、直轄堰堤維持費、河川工作物関連応急対策事業、河川事業調査、河川総合開発事業調査、建設機械整備、受託工事等の事業を行っています。主な事業の概要は次のようになっています。
1)河川改修事業
利根川水系工事実施基本計画が昭和55年に改定され、利根川下流部における計画高水流量は、8,000F/s(布川地点)です。その流量を安全に流せるよう河川改修事業を鋭意進めています。小貝川の改修として用地買収及び補償を実施します。
2)高規格堤防整備事業
利根川は超過洪水に対して破堤等による壊滅的な被害を回避するため、利根川下流部では平成4年度に矢口地区を全国に先駆けて完成、引き続き津ノ宮地区、須賀地区、小見川地区等を、平成11年度は出津地区と防災ステーションを完成させ、押付地区、安西地区、本宿耕地地区を実施しています。
3)利根川印旛沼総合開発事業
利根川印旛沼総合開発事業は、印旛沼の良好な水辺環境を保全、創造すると共に、水質浄化、治水安全度の向上、水資源の確保を目的とし、利根川水系印旛沼に多目的貯水池を建設するもので、継続して実施計画調査を行っていきます。
3.トピックス
1)北千葉導水路事業の運用開始
利根川やその支川である江戸川の中・下流部では、周辺地域の人口集中や資産の蓄積など都市化現象の進行にともない、洪水被害の増大や河川の水質汚濁の進行、膨大な都市用水の需要の発生などの問題が顕在化してきました。
この課題を解消するため、「利根川と江戸川を結ぶ新しい川=北千葉導水路」の建設を主とした「北千葉導水事業」が計画されました。
この事業は、@内水排除、A水質浄化、B都市用水の供給を目的としています。
@内水排水とは、手賀川および坂川周辺地域で、近年の著しい都市化により慢性的に発生する内水被害から、生命財産を守るために、河川改修とともに、手賀川から利根川へ、坂川から江戸川ヘポンプ排水を行うこと。A水質浄化とは、水質汚濁が著しい手賀沼(全国湖沼汚濁ワースト1位)等の水質浄化を図るため、既存の水利用に支障を及ぼさない範囲で、必要に応じ利根川下流部から最大10F/sの浄化用水を導入すること。B都市用水の供給とは、都市用水の安定供給を図るため、既存の水利用に支障を及ばさない範囲で、利根川下流部からの導水により江戸川において最大10F/sの新規開発量を含む最大30F/sの都市用水(東京都・埼玉県・千葉県の約670万人分の飲み水等)を供給する。
(写真1、2、3)
写真1 北千葉揚排水機場

写真2 北千葉第二機場

写真3 松戸排水機場

2)利根川治水百年記念行事 利根川本川及び江戸川の舟運の推進のための工事(低水工事)が明治8年(1875年)から始まりました。一方、築堤などの治水工事(高水工事)については、全国的な大水害が発生し、旧河川法が明治29年(1896年)に制定されたのを受けて明治33年(1900年)から利根川第1期改修工事が千葉県佐原市大倉地先左岸堤において開始されました。この工事は我が国はじめて、日本の技術者による統一的・計画的に行われた本格的な高水工事です。
以降、明治43年8月台風、昭和22年9月のカスリン台風など大きな水害がありましたが、その都度、川幅の拡幅、堤防の嵩上げ、河床の掘削、ダムや遊水池の建設など治水工事を進めてきました。
このように利根川における組織的、近代的な治水事業が着手されてから、平成12年には100周年を迎えることになりました。
時代の変遷につれて人々の価値観が多様化しており、利根川流域の8行政機関からなる 「利根川百年記念行事委員会(62年発足)」では、利根川流域の人々と共に「利根川の過去」を振り返り、そして「利根川の未来」を考える輪を広げてゆく活動を行っています。
(TONE21)この活動は、各種の記念行事を行うと共に、長期的な視点から新しい将来構想を展望し、流域の人と行政が一体となってそれらを推進していくことを目的としています。
この主旨に添って利根川下流工事事務所でも、10月8日(日)地元佐原市にて、利根川下流域の記念行事を計画しています。これは記念式典に引き続き基調講演及びシンポジウムを行い、利根川下流域についての将来構想を展望していこうと考えています。
(写真・4、5、6)

大正10年に完成し、現在も稼働中の横利根閘門
平成12年4月中には重要文化財に指定予定
(直轄の河川構造物第1号)

明治44年頃の佐原町付近の浚渫工事

利根川本川締切工事
4.おわりに
21世紀に向けての河川整備のあり方について、従来の河川法では、水系ごとに「工事実施基本計画」において河川工事の基本となる事項を定めることとしていましたが、平成9年河川法改正により、これを「河川整備方針」と「河川整備計画」に区分し、具体的な川づくりが明らかになるように、地域の意向を反映する手続きを導入していきます。
自然が共存する川づくりを、地域の皆さんと一緒になって、積極的に進めてまいりたいと考えています。

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