〈建設グラフ2000年4月号〉

寄稿

コスト縮減への取り組み
―仮設鋼矢板を本体構造とする石神井川護岸設計について―

東京都建設局 第四建設事務所 主任 原 進 氏

原 進 はら・すすむ
昭和 45年 東京都建設局入都
江東治水事務所勤務(高潮対策事業担当)
52年 小笠原支庁勤務(砂防事業担当)
54年 河川部勤務(河川維持事業・砂防、地滑り、急傾斜、海岸事業担当)
平成 2年 第三建設事務所勤務(中小河川事業担当)
5年 第一建設事務所勤務(中小河川事業担当)
7年 主任
第四建設事務所勤務(中小河川事業担当)
現在に至る
1.はじめに
東京都は、道路、河川など都市基盤堅備に際し、社会のニーズにふさわしい内容になるよう、また、限られた財源の中で最大の効果が得られるよう、効率的、効果的な事業執行に努めている。さらに、二十一世紀の本格的な少子高齢社会の到来を踏まえると、早期に必要な都市基盤整備を着実に推進することが緊急の課題となっている。一方、公共事業費の割高感が報告されて以来、建設コスト、事業決定プロセス等公共事業を取り巻く環境は、大変厳しいものがある。
このような状況の中で、都民の理解と協力を得ながら都市基盤整備を着実に進めていくためには、税金の使途を託された公共事業執行者が事業の目的や必要性、内容を具体的にわかりやすく説明する責任が―層求められている。@入札・契約手続きの改善、A建設コストの縮減、B公共事業の評価システムの導入等に対し今後とも一層の創意工夫を図り、透明で公正な公共事業を展開し都民の厳しい視線に応えて行くことが重要である。

2.新たな護岸設計の概要
このような社会的な要請を踏まえて、都市河川である石神井川を良質かつ低廉な価格で整備・維持していくためには、従来より実施している設計・施工を新たな観点から見直し、建設コスト縮減の検討を行う必要があった。
これまで、石神井川整備工事では、図-1に示すような構造形式で整備を行ってきた。
図-1 従来の護岸標準図
これまでの設計では、施工後も存置を余儀なくされた山留め鋼矢板はあくまで仮設材として扱い、完成系での護岸の一部には含めないものとしてきた。こうした現状のなかで広幅鋼矢板に着目し、銅矢板と躯体の一体化によるコスト縮減の可能性を検討することにした。
本設計は、広幅鋼矢板を仮設材から本体構造として活用する等多くの技術的課題を検討及び検証をする必要があることから、平成10年度に第四建設事務所を中心としたインハウス方式による、立場の異なる局内の関連セクショのメンバー15名からなる設計VE検討委員会を設置した。
設計VE検討委員会では、建設コスト縮減を踏まえ、次の項目の検討を行った。@広幅鋼矢板の採用、A広幅鋼矢板Bwと躯体の一体化の設計手法の確立、B護岸基礎杭の減量及び躯体断面の減量、C大型覆工板(3mサイズ)の採用、D仮設部材の減量などである。
今回の設計は、広範囲な技術的課題を検討・検証しているので、ここでは仮設鋼矢板の本体構造利用に関する護岸設計方針について述べる。
3.護岸設計本方針
今回の構造的特色は、断面性能の優れた新材料を使用して、山留め鋼矢板に三つの性格をもたせることになる。すなわち、@仮設材としての役割、A根入れ部については抗材、B躯体部についてはrc部材、として本体に利用することである。このことは、山留め鋼矢板と躯体コンクリートをジベル及びモーメントプレートを介して完全に一体化させる構造とするものである。本設計での一体構造には、山留め鋼矢板とフーチングとの一体化及び山留め鋼矢板と立壁との−体化であり、それぞれ以下の一体化方法を採用した。
@山留め鋼矢板とフーチングとの一体化
本箇所の結合部には、主に前列杭に作用する鉛直反力の作用により上向きの曲げモーメントが発生する。この曲げモーメントはフーチング結合部を山留め鋼矢板からめくり剥がすように作用する力である。この現象をメカニズム的にとらえると鋼管矢板基礎の頂版に作用する曲げモーメントと同様である。このため、モーメントプレート方式により一体化を図ることとした。](写真-1、図-2参照)
写真-1 モーメント・プレート取付状況

図-2 モーメント鉄筋・プレート標準図
A山留め矢板と立壁との一体化
RC構造を成立させるためには、山留め鋼矢板と立壁コンクリートとの間に作用するせん断力に抵抗する部材が必要であり、山留め鋼矢板の躯体側にジベル(CT形鋼)を配置し一体化を図ることとした。一体化された山留め鋼矢板は、かぶりの無い鉄筋としてカウントするRC構造とした。(写真-2、図-3参照)
写真-2 CT形鋼取付状況
図-3 CT型鋼設置標準図

これら全体の解析については、基礎構造に使用している材料が広幅鋼矢板と鋼管杭からなる異種の杭材によって構成されていることから、骨組解析(フレーム解析)を採用することとした。また、広幅鋼矢板は仮設部材から本体構造部材へと変化していくことから、作用荷重の変化毎に計算を行う逐次計算法を採用することとした。なお、従来のrc構造と異なる複合構造部材については、オープンサンドイッチ構造であることから、鋼コンクリートサンドイッチ構造設計指針(案)を準用しながら照査を行うこととした。

4.解析手法の検証
護岸構造物の重要性から解析手法の妥当性、構造各部の安全性などについて確認する必要があり、解析手法の妥当性を検証するために計測管理を実施することとした。なお、計測期間は約2ヶ年とした。計測管理の項目は、@基礎杭及び山留め鋼矢板に作用する軸力測定、Aモーメント鉄筋に作用する引張力測定、Bジベル(ct形鋼)に作用する剪断力測定、C躯体コンクリート内で発生する硬化発熱温度測定、D各段階の切り梁に作用する軸力測定である。
5.コスト縮減の効果
設計VE検討委員会での検討結果を取り込んだ新設計が、従来設計と比べてどの程度のコスト縮減になるのかを標準部で比較算出した。その結果従来設計に比べ約10%のコスト縮減となることが確認できた。
この結果を項目別にみると、@広幅鋼矢板の使用が3%、A躯体部で4%、B仮設構造で3%という結果になった。
具体的には、広幅鋼矢板の使用により、@材料費及び施工費の縮減、A一体化構造により護岸基礎の減量及び躯体構造のスリム化による減量。
一方仮設構造の工夫により、@覆工受け桁の減量、A桟橋杭の減量、B覆工面積の減量等となった。これらのことにより、上記縮減率を達成することことができた。
新構造形式を図-4に、写真-3、4で現在の状況を示す。
図-4 今回の護岸標準図


写真-3 仮設構造と新設護岸

写真-4 完成間近な当該工区を上流より望む

6.おわりに
仮設鋼矢板を本体構造とする今回の護岸設計を実施することによりコスト縮減が具体的な数字として表せることとなった。しかし、まだまだ検討すべき項目や今後判明する計測結果との照査、施工性の検証、改善など、なお多くの課題があり、今後とも絶えずコスト縮減の観点から設計、施工などを見直していくと共に、石神井川の整備をより安く、早く行い、水害に対し安全で、地域の人々が親しめる川となるよう敗り組んでいく考えである。

HOME