建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年10月号〉

寄稿

繰り返される洪水被害の歴史にピリオド

全国でも初めてのテルハ型クレーンとRCD工法による施工

国土交通省 東北地方整備局 長井ダム工事事務所 谷田 広樹 所長

谷田 広樹 たにだ・ひろき
昭和32年4月10日生出身地 愛知県名古屋市
昭和56年3月山梨大学 工学部 卒
昭和56年4月東北地方建設局 赤川ダム調査事務所 採用
平成 2年4月東北地方建設局 北上川下流工事事務所 調査課長
平成 4年4月東北地方建設局 岩手工事事務所 工務第三課長
平成 6年4月東北地方建設局 企画部 企画課長補佐
平成 9年4月東北地方建設局 北上川下流工事事務所 副所長
平成12年4月東北地方建設局 企画部 事業調整官
平成14年4月河川局 河川環境課 流水管理室 課長補佐
平成16年4月東北地方整備局 長井ダムエ事事務所長
▲平成15年10月撮影
山形県内は、東北を縦断する最上川水系に属する置賜野川流域で、梅雨前線などに伴う豪雨が繰り返され、洪水に伴う幾多の被害を被ってきた。そうした苦しみの歴史から県民を解放すべく、長井ダムが建設されている。このダムは、自然の改変を極力小さくするため、仮設ヤードをダム上流河床に配置し、港湾作業などで使用されているテルハ型クレーンと、RCD工法を組み合わせた、全国でも例のない施工システムを採用している。
史上空前の被害をもたらした羽越水害
去る昭和42年8月28日未明に、山形県内は東西に延びる前線が東北地方南部から北陸地方輪島の北を通過し、日本海北部に停滞していた低気圧に達して梅雨末期の気圧配置となった。低気圧が東に進むにつれて前線は北上し、その活動が活発になっていった。これによって、同日は早朝から降り出した山形県中南部の雨が、日中は一時小止みになった所もあったものの、前線の動きにつれて28日夕刻から29日未明にかけて次第に雨足が強まり、飯豊、朝日山系を中心とする西置賜地方で未曾有の集中豪雨となった。
その結果、早朝からゆっくりと上昇を続けていた各河川の水位は、28日の夕刻から夜半にかけて全川にわたって急激に上昇し、高畠町糠野目、長井市小出、白鷹町広野の各量水標では、それぞれ28日24時から29日4時までに指定水位を越えた。その後も、雨勢が増すにつれて1時間に30〜60cmと急上昇し、29日朝までには続々と警戒水位を突破する状況となった。
激しく降り続く雨の中で、各水防団、警察、消防、自衛隊をはじめ、一般家庭においても危険と不安のうちに必死の水防活動と避難が行われた。
特に、最上川上流地区では急激に水位の上昇で、白鷹町の本川左岸で溢水、各支川において堤防の決壊や氾濫が続出して、置賜地方から村山地方にかけての被害は死者8人、負傷者137人、流出家屋167戸、床上浸水10,818戸、床下浸水11,066戸、農地等への浸水13,180haに達した。被害総額は約226億3,800万円におよび、県政史上でも未曾有の大被害をもたらした。
記録を更新し続ける前線性豪雨に苦しめ続けられた県民生活
こうした最上川の洪水の主な原因は、大雨の他に、融雪による場合もあるが、特に大きな被害をもたらしてきた洪水の原因は、やはり大雨によるものが大半である。その原因としては、地理的条件から台風によるものは比較的少なく、むしろ前線性降雨や温帯低気圧によるものが多い。
羽越水害の他にも、過去に甚大な被害をもたらした主な洪水は、大正2年8月27日の台風十前線に伴う馬見ヶ崎川大洪水がある。須川では、当時既往最大の洪水といわれ、県南部を中心とした豪雨により、被害は家屋流失6戸、浸水537戸、堤防決壊・破損1,339m、道路損壊3,049m、橋梁流失5ケ所となった。
昭和28年8月13日には、寒冷前線による最上豪雨があった。これは最上・庄内地方を中心とした豪雨で、死者1名、負傷者1名、家屋流失2戸、半壊床上浸水261戸、床下浸水748戸、一部破損17戸、非住家291棟、農地浸水27,384ha、堤防決壊33ケ所、道路損壊45ケ所、橋梁流失44ケ所の被害となった。
昭和42年8月28日には、前帆犬蓼気圧による羽越豪雨が発生した。県中・南部を中心とした集中豪雨で、上流部は既往最大の洪水として記録を更新、激甚災害に指定された。この時の被害は、死者8名、負傷者137名、全壊流失167戸、半壊床上浸水10,818戸、床下浸水11,066戸、農地浸水10,849ha、宅地等浸水2,330haに及んだ。
昭和44年8月8日には、低気圧により、中・下流部にある庄内・最上地方を中心に32市町村にわたり甚大な被害死者2名、負傷者8名、家屋全壊流失13戸、半壊床上浸水1,091戸、床下浸水3,834戸、非住家1,988棟に被害が発生した。
昭和46年7月15日は、温暖前線により、京田川で、またも既往最大の洪水として記録を更新。県内中・北部を中心に大きな被害死者4名、負傷者6名、家屋全壊流失13戸、半壊床上浸水1,056戸、床下浸水5,383戸、一部破損14戸、非住家821棟の被害をもたらした。
最近では、平成9年6月27日の台風8号に伴う梅雨前線により、村山、最上地方を中心に内水及び無堤部浸水被害床上浸水9戸、床下浸水72戸、宅地等浸水3.1ha農地浸水1,612.5haが発生した。
長井ダムは、こうして繰り返された水害の歴史に終止符を打ち、県民を苦しみから解放する上でも欠かせない事業である。
長井ダムの使命と機能
長井ダムは、朝日山系の平岩山(標高1,609m)を源とする最上川山系左支川置賜野川に建設が進められており、機能としては洪水調節、河川環境保全などの流量確保、かんがい用水、水道用水の供給、発電を目的とする多目的ダムである。
洪水調節機能としては、ダム建設地点における計画高水流量1,000u/sのうち780u/sを調節して、220u/sを下流に流して、置賜野川と最上川沿川の洪水被害を軽減する。
反面、長期間にわたって雨が降らずに、河川水が減少してくると、汚染や河川敷の動植物が生息できなくなるため、ダムから必要な流量を放流し、河川環境を保全する。
一方、置賜野川や最上川沿岸の約7,900haの農地にかんがい用水を供給する。大規模化された水田や整備された用水路に必要な水量を満遍なく行き渡らせることが可能となり、干ばつ被害を軽減することも可能となる。
さらに、建設地である長井市に対しては、水道用水として最大10,000F/日を供給し、暮らしの水としても人々の快適な生活に貢献する。
その他、ダムから流れる水力を利用し、ダム下流の新野川第1発電所において、最大出力10,000kwを発電し、電力供給の安定と発展に貢献する。
長井ダムではテルハ型クレーンによるコンクリート運搬とRCD工法を組み合わせた、現地条件に適した工法を採用することで、工費の縮減と工期の短縮を図っている。また、周辺環境への配慮、様々なコスト縮減への取り組み、地域と連携した地域循環型リサイクルヘの取り組み等を強力に進めている。
▲テルハ型クレーンによるコンクリートの
ダンプトラックへの積み込み
▲RCD工法施工状況
主運搬設備にテルハ型クレーン
堤体へのコンクリート運搬といえば、ケーブルクレーンの使用が一般的で、テルハ型クレーンは、本来は荷役設備として港湾などで多く利用されているが、長井ダムはダムサイトの地形が急峻であり、仮設ヤードをダム天端付近に設けようとすると、大きな掘削(自然改変)が生じる。そこで自然環境に配慮した施工設備計画の一環として、ダムを打ち上がり高さに合わせてテルハ本体をクライミングさせる機能を開発。これにより仮設ヤードをダム上流河床付近に設け、下から上へ荷を上げるテルハ型クレーンのダム工事での使用が可能となった。これは大規模コンクリートダムとしては初の採用となる。最大吊り上げ能力は29.5tで、9Fバケットを吊り上げ、コンクリートを運搬することが出来る。しかも、クレーン自体の機構は簡素で故障が少なく、自動運転が可能だ。
RCD工法による施工
RCD工法(Rollercompacted Dam Concrete)は、セメント量の少ない貧配合の超硬練りコンクリートをブルドーザで敷き均し、振動ローラで締固めを行う工法で、汎用機械を用いた機械化施工により、工期の短縮と費用の省力化が図られ、経済的なダム建設が可能となる。
ちなみに東北地方整備局管内では、玉川ダム、月山ダムにもこのRCD工法が採用されているが、長井ダムでは、これに先のテルハ型クレーンを導入した施工体系が特徴といえる。
そのリフト厚は1mリフトを採用し、材料分離改善など施工性を向上させるため、粗骨材寸法80mmを採用した。セメントとフライアッシュは現場混合とし、夏季打設時などフライアッシュ置換率を状況に応じて適宣変えることにした。
堤内構造物は極力集約した配置とし、型枠のプレキャスト化を進めて省力化、合理化を図っている。
こうした施工システムの構築によって、上流河床ヤードに設置した施工設備との連携がスムーズとなり、作業効率が向上している。
環境に配慮した施工設備計画
長井ダムでは、地山斜面の掘削を極力減らし、周囲の環境へ与える影響を最小限とするため、堤体直上流の河床部に掘削土石によってヤードを造成して、骨材製造・貯蔵設備、コンクリート製造設備等の施工設備を配置した。
また、騒音・振動・粉塵の発生を極力抑制するため、低騒音・低振動型の建設機械を使用しており、それらの施工設備は建屋で囲い、色彩も周囲の環境との調和を図り、グレーと茶色を基調とした配色としている。
本体工事によって発生した濁水は、濁水処理設備で処理した後、排水。また、夜間工事及び道路照明に使用する照明灯は、昆虫が集まりにくいナトリウム灯を使用している。一方、工事用道路では散水を行い、粉じん飛散の抑制に努めている。
地域とともに
長井市では、家庭の生ゴミを堆肥化して地域の農業に利用し、そこで生産される農作物を再び家庭で消費するという地域循環サイクルシステム「レインボープラン」に先進的に取り組んでいることで、全国的に注目されている。
そこで長井ダムでは、そうした地域活動をふまえ、工事に伴って発生する伐採木を堆肥化するとともに、それを地域で活用してもらえるよう様々な取り組みを行っている。
その他、同市は民間・市民団体、行政機関で構成する「長井ダム周辺環境整備連絡会」を設置。「水循環」をテーマに、長井ダムを中心として集水、分水、利水の3エリアを区分して環境整備に関する検討を行うなど、水を活かしたまちづくりを進めている。そこで、そうした地域づくりへの取り組みも支援している。
一方、長井ダム工事事務所としての情報提供、広報活動も積極的に行っており、ダムの広報施設であると同時に置賜野川流域の自然や、地域の歴史などを学ぶ交流拠点として「野川まなび館」を平成14年5月に開設した。施設の計画策定や展示内容については、地域の有識者によるワークショップ型式で検討し、名称は公募で決定。
現場見学会も、この広報施設が受け付け窓口となっており、開設してからこの3月までに約3万2千人が来訪した。
長井ダム50万m3達成記念式典
平成12年9月13日に本体工事に着工した長井ダムは、昨年9月12日に定礎式を迎え、その後のコンクリート打設も順調に進捗。去る7月8日には、ダムサイトで「長井ダムコンクリート50万F達成記念式典」が、長井ダム既成同盟会会長・目黒長井市長を始め、地権者、関係者約150名が出席し、執り行われた。
式典では河川部長の式辞のあと、長井ダム工事事務所長の号令によりコンクリート製造設備が稼働。続いて工事の安全を願い、打設面をお清めし、25tダンプによって50万m3達成のコンクリートが打設された。コンクリート骨材には現場見学の小学生が将来の夢や長井ダムへの期待を書き込んだメモリーストーンを併せて使用。ダムと共に夢が大きく育つよう祈念した。
▲長井市長による万歳三唱 ▲河川部長の式辞 ▲小学生が書いたメモリーストーン

長井ダム本体建設工事

●長井ダム本体建設第1工事/間・前田・奥村特定建設工事共同企業体

東北支店/仙台市青葉区片平1-2-32
TEL. 022-266-8111



東北支店/仙台市青葉区二日町4-11
TEL. 022-225-8862



東北支店/仙台市青葉区堤通雨宮町2-25
TEL. 022-274-1231


●長井ダム本体建設第2工事/西松・清水・大豊特定建設工事共同企業体

東北支店/仙台市青葉区大町2-8-33
TEL. 022-261-8161



東北支店/仙台市青葉区木町通1-4-7
TEL. 022-267-9111



東北支店/仙台市青葉区中央2-10-1
TEL. 022-224-1581


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