建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年7月号〉

寄稿

離島振興と港湾整備

東京都港湾局 離島港湾部 部長 原田 龍次

原田 龍次 はらだ・たつじ
昭和21年生まれ、愛知県出身、名古屋工業大学卒
昭和45年東京都建設局入都
昭和59年三宅支庁副主幹(災害対策)
平成 3年建設局副参事(鉄道立体)
平成 5年都市計画局多摩開発室長
平成 9年南多摩西部建設事務所長
平成13年総務局災害対策担当部長
平成15年現職
▲平成15年度 元町港泊地(-7.5m)(北)
整備工事
▲平成15年度利島港護岸(防波)(西)・
岸壁(-6.0m)(西)建設工事
▲平成15年度羽伏漁港(3)防波堤建設及び
災害復旧工事
▲平成15年度神津島港海岸離岸堤(潜堤)建設
及びその他工事
▲平成15年度三池港岸壁(-7.5m)建設工事 ▲平成15年度御蔵島港岸壁(-7.5m)建設工事
▲平成15年度八丈島空港大賀郷側拡張整備
及びその他工事
▲平成15年度青ケ島港護岸(防波)建設工事
はじめに
東京都は、これまで、伊豆諸島・小笠原諸島において島民の生活を支える基盤を確保するため、本土からのアクセスポイントである港湾・空港等の交通基盤、水道や医療確保のための生活環境基盤、災害時に住民の安全を確保するための国土保全施設等の整備を進めてきた。
特に、港湾、漁港、空港、海岸は、物流や産業の拠点として、また島で暮らす人々の生命や財産を守る最前線として、欠くことのできない重要な役割を果たしている。
本地域は、豊かな海洋資源、変化に富んだ自然環境、ゆったりとした時が流れるような素朴な生活など、魅力あふれる地域資源に恵まれており、首都圏三千三百万の人々にとって短時間で訪れることのできる「癒し」の空間として貴重な存在となっている。
しかし、近年、本地域の活力は、基軸となる産業でもある観光業の不振、農・水産業の低迷等により停滞していることは否めない。特に観光客は、全国的な離島ブームの時期には137万人余りを数えたが、その後減少が続き、平成12年には三宅島の噴火、新島・神津島近海地震等の影響により、48万人にまで大幅に減少した。
このような中、都は、地域の活力を呼び戻し離島振興に寄与するため、港湾・漁港・空港・海岸の各事業を重点的かつ計画的に推進している。
以下に各事業における現状の課題と対策について述べる。
現状の課題と対策
港湾整備事業
これまで、利島や御蔵島などの小離島を除く他の島では、島を防波堤に見立て、反対側の位置にもうひとつの港湾をつくる一島二港方式で整備を行ってきた。その結果、島全体としては90%を超える定期貨客船の就航率を確保したが、季節風などの強い時期には、船舶が動揺し、危険な状況で船客の乗降や貨物の荷上げ荷下しを行っている。今後は、防波堤、岸壁拡幅、用地造成等の整備を進め、乗降や荷役の安全性・効率性を高める。
また、平成14年に導入された超高速船(ジェットフォイル)は、東京〜大島〜神津島を短時間で結び、神津島までが「日帰り圏」になるなど、利便性の向上に大きく寄与している。しかし、高速船は波浪の影響を受けやすく、冬季には就航率が低下する状況にある。今後、既存施設の改良や防波堤の整備等により就航率の向上を図っていく。
さらに、小離島は、連続欠航が生じるなど他の島と比べ、未だ就航率が低いが、地理的条件から一島二港方式の整備ができないため、一つの港に二つの突堤を整備する一港二突堤方式の整備を進めていく。
小笠原諸島においては、従来、26時間ほど要していた東京〜小笠原間を17時間程度で結ぶことができる新形式超高速船(テクノスーパーライナー)が、平成17年春を目途に就航する予定になっており、二見港においてこれに対する港湾の整備を行っている。

漁港整備事業
漁業振興の基盤となる漁港は、伊豆諸島・小笠原諸島に21の都営漁港があり、そのほかに2つの町営漁港がある。昭和26年に漁港法により整備が開始され、平成13年まで9次にわたる長期計画を策定し整備を行ってきた。平成14年からは、「漁港漁場整備事業計画(平成14〜23年)」に基づき、漁港、漁場整備等の水産関係公共事業を再編・統合した水産基盤整備事業を推進している。
しかし、多くの漁港は、島しょ地域の厳しい気象・海象条件の影響により、未だ安全で安心して利用できる港となっておらず、防波堤などの外郭施設や岸壁などの係留施設等の漁港の基本施設は、なお整備途上にあるなど、漁業活動にとって十分とは言えない。
今後は、荒天時においても、安全で安心して利用できる漁港を目指し、避難港としての機能を有する第四種漁港を中心に漁港の機能向上を図っていく。
さらに、近年の海洋レクリエーション需要の高まりに対応して、ダイビング・プレジャーボート対策支援施設等の整備及び地域物産販売施設の建設やイベントの開催などができる、ふれあい漁港拠点施設用地の整備なども進めていく。

空港整備事業
島しょ地域における空港は、高速交通ニーズへの対応に重要な役割を果たしており、羽田から大島へはb737型機(ボーイング737)とdhc8型機(ダッシュエイト)、羽田から八丈島へはb737型機(ボーイング737)が、また、調布飛行場から大島・新島・神津島へはbn-2型機(アイランダー)・do228型機(ドルニエ)が就航している。(三宅島へは運休中)
昭和31年の空港整備法の制定以来、八丈島、大島、三宅島、新島及び神津島と順次整備してきた。平成14年には大島空港の滑走路を1,200mから1,800mへと延伸しジェット化対応とした。現在、八丈島空港では、重量制限を行って運航している航空機の安定した就航を図るため、滑走路を1,800mから2,000mへと整備している。八丈島空港は、平成16年秋頃から滑走路長2,000mとしての供用を開始する予定である。また、小笠原空港については、テクノスーパーライナー就航後の動向に配慮しつつ、航空路案について技術的な概略検討を行い、運航及び環境等について検討していく。
今後は、全国的なレベルから見ると未だ低い就航率の向上にむけて、調布飛行場を含む都営空港において、計器飛行方式の導入についての技術的な検討を行っていく。

海岸整備事業
島しょ地域は、台風の来襲地帯であるとともに年間を通して風波の強い、厳しい気象条件にさらされている。一方で、美しい砂浜やきれいな海を求めて数多くの観光客が島を訪れている。このような状況を反映して、これまでの波浪から人々の生命、財産を守り、侵食から国土を保全する「防護」に加えて、海洋レクリエーション需要の増大への対応など「環境」・「利用」を加えた整備が求められている。
現在、港湾海岸6海岸、漁港海岸3海岸において、高潮対策、浸食対策、海岸環境整備を行っている。第一に高潮対策として、許容越波量など防護水準を満たしていない一部地域において、海岸保全施設を整備し海岸背後の安全性を図っている。また、侵食対策として、今後、海岸侵食の進行により護岸や防潮堤などの安全性が危惧される地域について、離岸堤や潜堤、養浜などの施設を整備し、安全性・耐久性に優れた整備を図っていく。さらに、海岸は、人々の憩いの場として、海水浴やダイビングなどレクリエーションの場として様々な利用がなされている。このため、親水護岸や遊歩道などを整備し、親しまれる海岸環境の整備を図っていく。

魅力ある「島のみなとまちづくり」
島しょ地域の活力再生のためには、現在行っている港湾等の整備のほか、都や町村、島民が一体となった取り組みが不可欠である。 そこで、都は各島、島々のパートナーシップから生まれる個性的な発想をもとに、港湾や空港を魅力的で賑わいのある空間としていく、魅力ある「島のみなとまちづくり」事業を立ち上げた。今後は、島の玄関口である港湾や空港、漁港、海岸の活用・整備を通じて伊豆諸島・小笠原諸島の地域再生を図っていく。
おわりに
都財政は依然として厳しい状況にあるが、活力ある島しょ地域の再生を目指して、港湾等の整備を着実に推進していくことが島しょの振興にとって非常に重要である。
三宅島については、未だ火山ガスの放出が続いており、島民は帰島できない状況であるが、被災した港湾や海岸の施設の復旧作業を平成13年度より続けている。平成16年5月には島民に対して帰島の意向調査が行われており、この結果を受けて、村、都、国が協議し、帰島時期を判断することとなっている。今後は復興に不可欠な拠点港や産業に必要な漁港の整備を着実に進めていくつもりである。
このように様々な課題があるが、今後も継続して、島の玄関口である港湾や空港、漁港、海岸の整備を進め、島しょで暮らす人々の生活向上や産業振興の発展に寄与していく所存である。 

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