建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年6月号〉

寄稿

意識変え 生き物になる 九大施設(天勝)

−学府・研究院制度を支え、独創的・先端研究に対する流動的施設−

九州大学施設部

はじめに
九州大学は、21世紀の大学基本方向を定めた「九州大学の改革の大綱案」の理念を踏まえ、大学院重点化による国際レベルの先端的学術拠点の構築、学府・研究院制度の導入に伴う柔軟な組織編制を推進しており、これらに対応した空間の創造に取り組んでいます。

1.主なプロジェクトの紹介
現在、進めている主なプロジェクトを紹介します。

(1)新キャンパス整備
理系、文系の学部・大学院が所在する箱崎地区、全学教育を実施している六本松地区、農学部附属農場が所在する原町地区の3地区を移転統合する事業で、福岡市西区、前原市、志摩町の2市1町にまたがる275haに約50万uの建物を整備するものです。

(2)医学部附属病院再開発整備
先端医療、臨床医学の教育研究、地域医療の中核を担う機関として、適切な教育研究活動、医療活動が行えるように医学部附属病院を再開発するものです。歯学部附属病院および生体防御医学研究所附属病院との統合を視野に入れた計画を進めています。

(3)総合研究棟整備
病院地区・筑紫地区の戦略的施設としての総合研究棟整備を進めています。
総合研究棟は、長期使用に耐えるフレームを作り、内部空間は弾力的・流動的に利用可能な計画とし、時限付きのプロジェクト研究への対応が可能な計画としています。

2.新たな整備手法への取り組み
「国立大学等施設緊急整備5か年計画」にもとづき、pfi、寄附金等を活用した新たな整備手法による施設整備を進めています。
(元岡)研究教育棟Tは、工学研究院(地球環境工学部門群)とシステム情報科学研究院の建物で、延べ面積約5万uであり、現在pfi事業の手続き中です。平成15年8月に事業契約の締結を予定しています。

3.施設マネージメントの推進
九州大学は、施設整備を大学のトップマネージメントの一環と位置づけ、全学的見地から、施設の有効活用や管理運営に取り組んでいます。
具体的には、学内共通利用施設を戦略的に使用するため、学内規定の整備を行い、施設の一元管理を行うfm(ファシリティ・マネージメント)の導入に向けた検討を進めているところです。

新キャンパス計画について
マスタープラン2001の空間モデルのイメージ
新キャンパスへの移転事業は、福岡市西区(元岡・桑原地区)、前原市及び志摩町にまたがる敷地を移転候補地とする「九州大学新キャンパス移転構想」が、1991年(平成3年)10月に評議会決定されたことに始まります。2000年(平成12年)6月に着工された@工区(学園通線西側のセンターゾーン、理学、工学、農学系が位置するウエストゾーンの主要部分)の造成は2002年(平成14年)3月に終了し、2003年(平成15年)1月には工学系研究教育棟の起工式が行われ、2005年(平成17年)後期には、工学系研究院のうち機械航空工学部門群と物質科学工学部門群が新キャンパスへ移転する予定です。
「新キャンパス・マスタープラン2001」をもとに着々と進行する新キャンパス建設の現況を以下に紹介します。

新キャンパス第1ステージに向けて
九州大学は、半世紀近く稼働してきたわが国の高等教育システムが抱える諸課題を正面からとらえ、新しいシステムづくりを模索しながら、時代の潮流の先陣をきるべく、大学院教育の飛躍的充実を目指す大学改革を進めてきました。この大学改革によって国際的・先端的学術拠点の構築を進めるとともに、それに相応しい研究・教育施設の整備や新しいスタイルのキャンパス生活を実現するために、新キャンパスにおいて建設を進めています。新キャンパスでは、九州大学で蓄積された科学技術や学術文化、多様な資料や施設などの開放を通じて、地域社会との交流をこれまで以上に深めることにしています。
新キャンパス用地は、百万都市福岡の西方に位置する悠久の歴史と自然に恵まれた環境にあります。九州大学は、大学改革による新しい組織づくりと新キャンパス建設を同時期に推進できるまたとないチャンスを得て、恵まれた環境のもとに、これまでの良き伝統を継承するとともに新たな歴史を刻み、世界的レベルの知的活動を展開していくことが大いに期待されています。

「新キャンパス・マスタープラン2001」
21世紀を活き続けるキャンパスの創造
1.マスタープランの目的と役割
マスタープランは、未来を見据えた人間性、文化性豊かな研究教育環境を創造するための土地利用等の空間構成と交通等の骨格形成の方針を提示するとともに、緑地等のオープンスペースと建築物によって形成される空間の質−クオリティ・オブ・ザ・プレース(quality of the place )−を確保するための目標と方針を九州大学全体で共有するためのものです。
このように、秩序ある施設整備と建物及びオープンスペース等の管理・運営の全学的な指針としてマスタープランの役割は、以下の5点に集約されます。
(1)ビジョンから空間への橋渡し
(2)空間の質−クオリティ・オブ・ザ・プレース−の保障
(3)骨格形成と土地利用の方針
(4)将来像と目標像の共有
(5)首尾一貫した秩序ある段階的整備のための指針

2.土地利用の方針
土地利用の条件として、5ヶ所のゲート、湧水源「幸の神」への配慮、緑地の保全、治水・利水と地下水の涵養、歴史環境の保存、東西に長い敷地の特性があげられます。これまで学内で検討されてきたゾーニングの方針を踏まえ、周辺敷地の緑地を保全しながらキャンパスのほぼ中央に、アカデミック・ゾーンを設けます。東側と西側には運動施設ゾーンを、敷地南西部、中央部北側、東部には農場ゾーンを確保します。 3.骨格の形成
(1)全体骨格形成の方針
キャンパスの各ゾーンを機能的に結び、全体を貫く骨格を形成します。それは、アカデミック・ゾーンを東西に伸びる骨格と、西側の農場ゾーンから運動施設ゾーンにつながる南北の骨格により構成されます。
(2)学際的な知的活動をつなぐ連続的な空間「キャンパス・モール」
東西にわたる一体的な土地利用、研究・教育活動の活性化を図るため、中央を東西方向に貫通する歩行者空間を形成し、自動車等を排除した、人間主体の快適で賑わいのある環境を創り出します。
(3)未来を拓く空間軸「未来のポテンシャル軸」
社会の変化に対応しつつ、研究・教育のポテンシャルを維持向上し、世界水準の研究の推進、社会貢献等を戦略的に展開するため、将来の建設用地を確保します。
(4)研究・教育活動を支援する動脈「幹線道路」
新キャンパス内に、主として自動車交通のための幹線道路を設け、沿道に駐車場を分散します。
(5)憩いと安らぎをもたらす開放的な「キャンパス・コモン」
アカデミック・ゾーンの南側に、美しいランドスケープ・デザインを施し、寄附施設等の立地用地ともなるオープンスペースを整備します。
(6)緑地を繋ぐ「グリーン・コリドー」
東西に長い敷地を適度なスケールで分節するとともに、生態系に配慮して周辺敷地の保全緑地をつなぎます。
(7)新たな伝統を刻む「象徴的空間」
新キャンパスを代表する固有な空間、記憶に残る空間、不変の空間、美しさや風格を備えた空間といった特徴や意義を備えた象徴的空間づくりを行います。
(8)保全緑地の環境資源を活かす「ネイチャー・トレイル」
保全緑地やキャンパス・コモンの豊かな自然環境を活用し、安らぎと潤いを与える生活環境を提供するために、保全緑地や整備緑地内に散策路を整備します。

4.学府・研究院制度の空間構成
学府・研究院制度の理念を実現するために、学部(学科)、学府(専攻)、研究院(部門)相互の関係に配慮しながら、学際的教育や研究の活性化、組織間の交流・連携を促す空間、競争を促す空間等を確保した空間構成とその管理・運営を導入します。
学府・研究院制度の導入
従来の大学
工学系地区基本設計の概要
□マスタープラン2001の具現化
工学系地区基本設計を始めるにあたり、まず、マスタープラン2001で求められている性能を満たしながら、いくつかの計画目標を空間として実現することが求められました。その代表的なものとして、学府・研究院制度の理念を実現する空間構成、伝統を創り出す象徴的空間と柔軟に変化・増殖する空間の共存、糸島地域の環境との共生等がありました。これらの課題は、度重なる議論を経て、以下に示す一つの空間タイプに収斂しました。
また、地区基本設計としてまとめていくうえで、デザインを方向付けるための「デザイン・ガイドライン」を設けています。これは、豊かなキャンパス空間を形成し、将来にわたり維持、活用し続けて行くため、空間づくりに関する基本的な要素を示し、そのデザインの考え方をまとめたものであり、キャンパスのアクティビティ、景観形成、エコロジーの視点から、キャンパス全体、建築物、オープンスペースに関する項目を設定しています。

□学府・研究院制度の理念の空間的表現
全国に先駆けて九州大学で実現した学府・研究院制度の理念を空間的に表現するにあたり、まず、断面構成において、低層部に「学部」の空間を配置し、中高層部に「学府・研究院(大学院)」の空間を配置しました。これにより、学部学生の利用する講義室、情報学習室等のスペースがキャンパス・モールレベルと一体的になり、講義と講義の間に大量移動する学部学生の動線を処理するとともに、キャンパス・モールの活気を演出します。また、中高層部に学府・研究院を置くことにより、大学院の閑静な研究環境を確保します。つぎに、平面構成において、学府と研究院からなる大学院の空間を南北に配置しています。北側には、学府の空間をラボゾーン及びセミオフィスゾーンとして配置し、実験室及び大学院生室等を主体とする変化する空間として位置づけ、専門領域の壁を取り払い、フレキシブルな利用が可能な連続する空間としています。施設の南側には、研究院の空間をオフィスゾーンとして配置し、研究院の教官室(個室)を主体とする不易の空間としています。さらに、その中間には、吹き抜けを配置して採光、通風等を配置し、良好な室内環境を確保しています。

センター地区基本設計の概要
現在、マスタープランにもとづいたセンター地区基本設計が進められています。この地区は、新キャンパスの顔でもあり、公道をはさんでいるため、キャンパスの一体感を創出する必要があります。また、散漫にならないコンパクトな空間構成と施設配置、動線計画を行います。この地区には全学教育施設、総合研究博物館、課外活動施設等をはじめ、産学・地域・国際連携施設を配置し、国費による整備だけでなく、民間資金等の導入による新たな手法について検討を進めています。センター地区の各施設は、第Aステージ(2008年度〜2011年度)のオープンを目標としています。
空間モデル−施設配置イメージ(センター地区)

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