建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年2月号〉

寄稿

吾妻の流れを、明日のくらしに活かす

国土交通省関東地方整備局 八ツ場ダム工事事務所長 野田 徹

野田 徹 のだ・とおる
三重県出身
昭和56年3月北海道大学工学部土木工学科卒
昭和56年4月群馬県土木部河川課
平成 4年7月大臣官房技術審議官付補佐
平成 6年4月河川局治水課長補佐
平成 8年4月中部地建天竜川上流工事事務所長
平成10年4月和歌山県土木部河川課長
平成12年4月関東地建河川部河川調査官
平成13年4月八ツ場ダム工事事務所長
はじめに
利根川流域では、過去、記録に残っているものとしては宝永元年(1704)、寛保2年(1742)、元明6年(1786)、享和2年(1802)、弘化3年(1846)、明治29年(1896)、明治43年(1910)に大規模な水害が発生。戦後においても、昭和22、24、34年の洪水など、何度も洪水に見舞われ、家屋の流出倒壊や浸水被害がたびたび起こっています。昭和49年の多摩川の破堤、昭和56年、61年の小貝川の破堤や、平成10年の那珂川の大災害は記憶に新しいところです。
また、近年、生活に産業にと、大量の水を必要とする首都圏ですが、下流部に首都圏を抱える利根川水系では水需要が逼迫し続けており、河川に多くの水が流れているときだけ取水可能な不安定取水によってまかなわれています。このため、2〜3年に1回、渇水が発生しているのが現状です。
こうした現状を受け、吾妻川の中流に、利根川総合開発計画の一環として利根川水系の上流ダム群とあいまって下流部の洪水被害を軽減し、水資源の有効利用として首都圏の都市用水の開発も行い、治水、及び利水上極めて重要な施設として建設されるのが八ツ場ダムです。
ダムの概要
ダムが建設される吾妻川は、その源を群馬・長野県境の鳥居峠に発し、浅間山・草津白根山の中間を東流して、万座川・熊川・白砂川等の支川を合わせ、途中、吾妻峡と称される美観をつくりながら、さらに温川・四万川・名久田川等の支川を合わせ、渋川市付近で利根川と合流する一級河川です。その流域面積は約1,370k平方メートルとなり、幹線流路延長は約76qに及ぶ、利根川水系の代表的な支川の一つです。
利根川の治水計画では、利根川水系工事実施基本計画において、基準地点の八斗島における基本高水のピーク流量22,000立方メートル/sのうち6,000立方メートル/sを上流ダム群によって調節し、下流部の洪水被害の軽減を図ります。
八ツ場ダムは、これら上流ダム群の一翼を担うダムであり、ダム地点における計画高水流量3,900立方メートル/sのうちの2,400立方メートル/sの工事調節を行い、吾妻川下流の洪水流量の低減をも合わせて図るものです。
また、群馬県、及び下流都県の新規都市用水として14.07立方メートル/sを開発するとともに、農業用水の合理化により行われるかんがい期の用水確保と合わせて、新たに1日最大22,123立方メートル/sの補給を行います。
ダムは、重力式コンクリートダムで、標高(ダム天端)586.0mの群馬県長野原町川原畑・川原湯地区に建設され、ダム本体の高さは131m。また、総貯水容量は107,500,000立方メートルとなっており、これは東京ドーム約87個分に相当します。利根川水系の他のダムと比べると、高さでは4番目、貯水量では3番目に大きなダムとなります。
生活再建対策
ダム建設に伴い、長野原町の川原畑、川原湯地区が全戸水没となり、移転を余儀なくされます。また、横壁、林、長野原地区はその一部が水没することとなります。中でも川原湯温泉街では18軒の旅館や約50軒の土産店、小売店、サービス業が全部水没することになります。
公共施設としては、小中学校、公民館、JR吾妻線、国道145号等が水没するために、これらの公共施設の移転及び付替えが必要となります。なお、水没者の多くは現地再建方式によりダム湖周辺の移転代替地に移転することになります。
当地域の振興に係る諸事業は、ダム事業、水源地域対策特別措置法の整備計画事業、及び利根川・荒川水源地域対策基金事業等により実施されるものであり、今後国、県、及び町が一体となって取り組みます。
平成13年6月には長野原町において懸案の補償基準が妥結しました。今後は、関係する皆様方のご理解と、関係機関の協力を得ながら、事業の推進に向けて努力してまいります。
終わりに
八ツ場ダムは、故郷の水没という、地域の人々の大きな犠牲を払って建設されます。水没関係者の皆さんの安定した暮らしが築かれてはじめて、八ツ場ダム事業は成功したと後世の評価を受けることになるのです。しかし、これにはまだ長い道のりと地元の皆さんの苦労がそこにあるということをダムの恩恵を受ける首都圏の人々に、是非心に留めていただきたいと思います。

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