建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年1月号〉

寄稿

地域に根ざした河川・砂防・地すべり対策事業

天竜川すてきな未来へ

国土交通省中部地方整備局 天竜川上流工事事務所長 浦 真

浦 真 うら・まこと
石川県出身
昭和60年4月 入省
平成10年4月 河川局 砂防部 傾斜地保全課長補佐
平成12年4月 中部地方建設局 天竜川上流工事事務所長
天竜川上流工事事務所では、直轄河川事業として天竜川本川のうち、静岡・愛知県境から長野県辰野町までの約110.6kmと三峰川をはじめとする4支川の約16.2kmの合計約127kmを管理し、改修事業を実施しています。
一方、直轄砂防事業は、昭和12年度着手の小渋川流域をはじめ、三峰川・遠山川・竜西の各流域の合計10流域、1,332km2において、砂防堰堤・床固工群や砂防林などの砂防施設整備を実施し、また直轄地すべり対策事業として、昭和63年度より入谷地すべり区域(大鹿村)・此田地すべり区域(南信濃村)の2箇所において集水井・アンカーなどの地すべり対策工事を行っています。
当地域は、過去に幾度となく大規模な洪水及び土砂災害に見舞われており、近年、伊北地区(伊那北部)A期改修(釜口水門暫定400m3/s放流対応・最終計画としては600m3/s放流対応)及び川路・龍江・竜丘地区改修完成、200箇所を越す砂防施設の完成など、着実に事業が進んでいますが、未整備箇所も多く、地域住民の直轄事業への期待は非常に大きいものがあります。こうした状況の中、平成14年度は河川事業費約20億円、砂防事業費約51億円をもって各事業を進めております。
河川改修事業
1.伊北改修
辰野町宮木地先において、河川改修計画に基づく引堤のための用地取得を昨年度に引き続き行います。

2.中流部改修
伊那市西春近地先において、昨年度の猪の沢樋門工事に続き、霞堤開口部の締切を行います。(写真-1)
中川村田島地先において、昨年度の築堤護岸工事に続き、前沢川合流点処理に向けて事業進捗を図ります。
▲(写真-1) 猪の沢樋門(伊那市)
河川環境整備事業
自然豊かな三峰川において、治水、自然環境の保全、河川空間の利用を増進するために住民の意向を反映した「三峰川みらい計画」の実現に向けた施設整備を行います。 (写真-2)
今年度は高遠町小原地先において、環境整備工事と測量設計を実施します。
▲(写真-2) 榛原河川環境整備事業
(伊那市)
地域住民との交流・連携
1.天竜川流域ネットワーク(TENET) 【川のメールマガジン】
流域の皆様が、本ネットの発信する川の情報を利用して身近の川に行き、川に親しんでもらうことを目的として、平成13年3月より川での市民活動の活性化・連携を重点に運用しています。

2.河川整備計画策定に向けて
流域の方々から意見を集約し策定された「天竜川みらい計画」を、天竜川を育む理念として位置付け、河川整備計画の検討を行っていきます。今年度は、流域での公募による応募者や学識経験者等からなる流域委員会(仮称)を立ち上げて議論をしていただく予定です。
河川管理
1.天竜川総合学習館「かわらんべ」
今年度の7月7日(川の日)にオープンし、洪水時の河川・気象情報の発信基地の他に、川の学習拠点と地域のコミュニティー施設の機能を併せ持ち、河川管理並びに地域との協働・連携を図っていきます。 (写真-3)

▲(写真-3) 天竜川総合学習館、
水辺の楽校いいだ(飯田市川路地先)
2.光ファイバーケーブルの整備
昨年度、飯田市の天竜峡から飯田河川出張所までを光ファイバーケーブルで結び、テレビカメラにより現場の状況をリアルタイムで把握できるようにしました。
今年度は、上記箇所から高森町まで延伸し、直轄砂防区域を含めた広い範囲の画像データを把握できるようにします。また、伊那市の三峰川沿いのルートにも布設し、中流部と同様に直轄砂防区域を含めた広い範囲の画像データを把握できるようにします。
砂防事業
天竜川流域は、中央構造線をはじめとする多くの断層が走り、破砕・変成作用を受けた脆弱な地質構造と、急峻な地形により膨大な土砂を生産するため、古来より幾多の土砂災害を受けて来ました。そのため、流出土砂対策の重要性が認識され、天竜川流域の人命と財産を守るため、砂防堰堤等の整備や地すべり対策を推進しています。1.重荒廃地域からの土砂流出防止
中央・南アルプスの広大な荒廃地から生産される多量の土砂を抑制・調節するため継続して、5箇所の砂防堰堤の整備を推進します。 (写真-4・5)
▲(写真-5) 漆平沢砂防ダム(上村)
2.土石流危険渓流等からの土砂流出防止等
住民の生命・財産が土石流の危険にさらされている土石流危険渓流において2箇所、それ以外の渓流においても7箇所の砂防堰堤・床固工群を整備し、更に、新たに2箇所の砂防堰堤に着手します。
また、土石流の直撃を受ける恐れのある地区等において土砂災害の犠牲となりやすい高齢者、寝たきりの方、障害者等自力で避難できない方々等の災害弱者関連施設を保全するため、砂防堰堤1箇所の整備を進めます。

3.扇状地頂部での土砂氾濫防止
扇状地頂部での土砂氾濫を防止するための根幹施設として、太田切川、中田切川、片桐松川で床固工群の整備を進めます。 (写真-6)
▲(写真-6)片桐松川床固工群 
(松川町)
4.地域活性化への寄与
個性あふれた地域プロジェクトと整合をとりつつ砂防事業を展開することにより、地域活性化に寄与することを目的に「水辺の楽校」・「水辺のプラザ」等の支援のため、床固工2箇所及び山腹工2箇所の整備を進めます。

5.自然環境への配慮
流域における良好な自然環境を保全していくために、藤沢川、中田切川、新宮川の各流域で砂防林を整備し、渓畔林を保全するとともに周辺環境との調和を図ります。
総合土砂管理の取り組み
流砂系における土砂動態モニタリング調査をはじめ、「総合土砂管理」への取り組みを進めています。
与田切川及び小渋川を中心に土砂移動現象の調査・解析を行うこととし、与田切川では流砂観測装置を用いた観測をします。また、砂防堰堤のスリット化を3箇所で取り組みます。 (写真-7)
▲(写真-7) 与田切川流砂観測装置
(飯島町)
流域防災情報のネットワーク化
砂防及び地すべり対策のソフト対策として情報基盤整備を計画的に進め、流域防災情報のネットワーク化を図るため、流域2町村に防災情報基地を整備するとともに、光ファイバーケーブル、cctvカメラ、ワイヤーセンサー、水文観測機器等の施設整備を推進しています。 (写真-8)
▲(写真-8) 小渋川砂防ステーション
地すべり対策事業
1.大鹿村における入谷地区では、地すべり土塊の深部の地下水を排除する横ボーリング工、地すべりの活動を防ぐアンカー工、現場打ち法枠工等の整備を進めています。
(写真-9・10)
一方、南信濃村の此田地区においては、雨水の浸透によって地すべりが誘発されるのを防止する表面排水工及び横ボーリング工等の整備を進めています。

2.入谷、此田の両地すべり地区で、地すべりの常時観測を行うためgpsを用いた観測機器設置をはじめとする観測機器の充実を進めています。
これらのデータは光ファイバーケーブルを通じて収集し、土砂災害防止のため地域の皆さんにも提供するように計画しています。

▲(写真-9) 地すべり工事模式図 ▲(写真-10) 砂法枠工(上部)、アンカー工(下部)入谷地区(大鹿村)

HOME