〈建設グラフ2001年2月号〉

寄稿

地域連携と緑の道路(みち)づくり

国土交通省 中部地方整備局 飯田国道工事事務所長 大場 重明 氏

大場 重明 おおば・しげあき
岐阜県出身
昭和 39年 4月 建設省入省
平成 元年 4月 中部地方建設局 静岡国道工事事務所 調査課長
平成 3年 4月 中部地方建設局 企画部 技術管理課長補佐
平成 6年 4月 中部地方建設局 名四国道工事事務所 副所長
平成 8年 11月 中部地方建設局 道路部 交通対策課長
平成 10年 4月 中部地方建設局 道路部 道路工事課長
平成 11年 4月 中部地方建設局 道路部 特定道路工事対策官
平成 11年 7月 中部地方建設局 飯田国道工事事務所長
▲上松バイパスを起点(見帰地区)より終点を望む H10度完成 ▲伊那木曽連絡道路 権兵衛峠道路

はじめに

長野県は、東日本と西日本、太平洋側と日本海側との結節点に位置し、古来から人、もの、文化が行き交う交流の地であった。近年、オリンピック・パラリンピックを契機に県内(特に北中部地域)を縦横に走る高速道路網や北陸新幹線整備により交流圏も飛躍的に拡大した。しかし、飯田国道工事事務所が担当する長野県南部(南信)地域には御嶽山、中央アルプス、南アルプスがそびえ、その間を木曽川、天竜川が流れており、白然に恵まれている反面、地形が厳しく、道路を始めとする社会・生活基盤が十分整備されているとは言えず、それらの整備に対する地元の期待は大きい。

▲474号飯喬道路 三穂地区改良工事(工事中) ▲361号権兵衛峠道路伊那側から
本坑掘削中の権兵衛トンネルを望む
▲沿道開発が進む153号飯田B・P ▲153号飯田B・P 背面に南アルプスを望む
▲153号飯田B・P 飯田松川高架橋2期線工事

事業の概要

飯田国道工事事務所は、昭和32年4月に「木曽国道工事事務所」として設置され、19号の一次改築工事完了に伴い、昭和43年、現在の名称に変更された。
現在、当事務所は、長野県南信地域の国道のうち、国道19号・153号・474号の改築及び管理、361号の改築事業を担当しており、その延長は約200kmに至る。
以下に事業の概要を紹介する。


(1)高規格幹線道路

三遠南信自動車道は、長野県飯田市の中央自動車道を起点として、静岡県引佐郡三ヶ日町の東名高速道路に至る高規格幹線道路であり、中央自動車道から引佐郡引佐町の第二東名までの約100kmが国道474号として整備されている。
「三遠南信」の「三」は愛知県の豊橋市を中心とする三河、「遠」は静岡県の浜松市を中心とした遠州、「南信」は長野県の飯田市を中心とした南信州を指しており、地域間相互の連携強化及び既存の高速交通体系に取り残された地域への高速サービスを提供するとともに、奥三河、北遠州及び南信州地域の秩序ある開発、発展に寄与することを目的としている。
当事務所はそのうち主に長野県内区間約50kmを担当しており、起点部の飯喬道路(約15km)において昨年度本線工事に着手したところであり、今後も用地買収・本線工事を促進する予定である。
この路線周辺では一昨年来オオタカの飛翔が確認され、「飯田国道管内猛禽類保金対策検討委員会」(委員長:信州大学中村浩志教授)を設置し、猛禽類の保全対策について指導助言を頂きながら事業を進めている。
また、静岡・長野県境の青崩峠道路(約13km)についてはルート決定に必要な調査を継続する。
なお、交通不能区間であった矢筈トンネル区間(4.8km)及び草木トンネル区間(2.2 km、浜松工事事務所管理)は平成6年から2車線で供用している。


(2)地域高規格道路

伊那木曽連絡道路は、中央アルプスで阻まれた伊那谷と水曽谷間約20kmの地域高規格道路である。この間を渡る国道361号は権兵衛峠と姥神峠の2カ所で交通不能となっており、長野県とともに交通不能区間解消を目指し事業を進めている。
当事務所は中央アルプスを横断する権兵衛峠道路6.1kmを権限代行として事業化し、現在両坑ロから本坑の掘削を進めている。
木曽を通過する国道19号では、一且災害や交通事故などによる通行止めが発生すると途中迂回路がなく影響が大きかった。
361号の整備により木曽地域と伊那地域の交流は勿論、広域物流を支える役割も期待されている。


(3)一般国道二次改築

国道153号飯田バイパスは、中央自動車道飯田i.cに接続し、南信地域の中心都市である飯田市の中心市街地を迂回する市街地環状道路の骨格となる道路である。
昭和50年の事業化以来供用延長を延ばし、昨年4月に6.1km全線暫定2車完成させた。また並行して4車化も行ってきており、現在残る1.5km区間の4車化工事を進めている。
国道153号伊南バイパスは、現道が複雑な地形に沿っているため、走行条件が悪く事故や渋滞が頻繁に起こる飯島町から駒ヶ根市の区間に計画された延長9.2kmの権限代行事業である。現在、駒ヶ根市内区間約2kmを優先整備区間として用地買収を進めている。

(4)防災対策事業

木曽谷を縦貫する国道19号は、中央白動車道の危険物車両の通行不可区間の迂回路としての役割を担い、大型車などの交通が多い。一方、木曽川沿いの狭い厳しい地形を通過しており、土砂崩落等災害の発生しやすい箇所を抱えている。
そこで当事務所は、災害に強い道路ネットワーク整備として、十二兼改良・中山改良等の防災対策事業を行ってきており、十二兼改良は昨年8月に完成した。中山改良は、橋梁工事を継続しており、現道沿いの工事が主で、安全な交通の確保を図りつつ慎重に工事を進めているところである。
また、平成9年11月に直径約3m程度の岩塊が落石防護策を突き破って車道上に落下し、2日間の通行止めを余儀なくされた区間については、緊急対策工事の完了を受けて、昨年度から抜本対策として対岸にわたる新しいルートヘの改良事業を桟改良として事業化した。
153号でも、昨年9月の豪雨災害により通行止めを余儀なくされ、現在その復旧工事を行っている他、計画的に防災対策工事を進めている。

(5)道路管理と情報化の支援等
国道19号92km、153号49 km、474号5 km、計146kmを管理しており、維持修繕・交通安全事業等を推進し、道路利用者に対する安全性向上に努めており、通常の維持・修繕・交通安全事業の他、震災対策としての橋脚補強(19・153号)・雪害対策としてのスノーシェルター設置工事(153号)を実施している。
また、高度情報通信社会の推進を支援するため、道路管理用光ファイバーの整備と併せて情報ボックスの整備を推進しており、13年度にはほぼ完了する見込みである。

▲h9.11落石 2日間通行止め (上松町桟) ▲h9.11の緊急対策 (上松町桟)
▲三遠南信自動車道 飯喬道路 ▲三遠南信自動車道 飯喬道路起点部を望む

三遠南信自動車道(一般国道474号)小川路峠道路
▲喬木IC ▲程野側

矢筈トンネル坑門工
▲喬木側 ▲程野側

おわりに

この南信地域は、古くから愛知県・静岡県との交流が盛んであった。しかし、地形的理由から天竜川下流域の遠州・三河地域とを結ぶ交通網はjr飯田線以外に十分整備されることなく交流の線が細くなっていた。近年、この地域と三河・遠州との連携・交流を積極的に進め、合わせて過疎の進む中山間地の活性化を図ろうとしている。それらを実現するために必要なものが、三遠南信自動車を始めとする道路等の社会基盤である。
飯田国道工事事務所は、南信州の発展と活力ある地域づくりや豊かさを支えるため、一歩一歩着実に基盤づくりを進め、「長野県の県土づくり」に貢献したいと考えている。


▲ドングリ拾い遠足
「地域と連携しながら進める緑の道路づくり」の基本方針に基づき、地元の方々や小学校の協力を得て、貴重植物の移植や郷土種による法面緑化のための種子(ドングリ)拾いなどの活動を実施しています。 

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