建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年12月号〉

寄稿

“日野川”を地域住民に愛される川に

国土交通省 中国地方整備局 日野川工事事務所長 山本 正司

山本 正司 やまもと・しょうじ
広島県出身
昭和28年9月5日生
昭和51年3月愛媛大学工学部卒
昭和52年4月建設省入省
平成9年4月大臣官房技術調査室補佐
平成11年7月中国地方建設局企画部事業調整官
平成13年4月温井ダム工事事務所長
平成14年4月現職
事務所の紹介
日野川工事事務所は、鳥取県の西部に位置する日野川水系に係る河川事業、上流日南町の多目的ダムである菅沢ダムの管理、また大山山系南西斜面における日野川水系の砂防事業、日野川からの流出上砂で形成されたと言われる弓浜半島の海岸事業、というように水系の上流域から最下渡部までの水系一貫とした総合的な事業を行っている。
また、平成6年7月、機構改革により発足した新しい事務所であり、平成7年から流域内の市町村と土木事務所をメンバーに発足した「日野川への想いを語る会」など流域との関わりを当初から大切にしている事務所である。
河川事業
◆自然環境に配慮した改修
日野川は、中国山地の三国山(1,004m)に源流を発し、日本海に注ぐ流域面積860平方キロメートル、幹線流路延長77kmの一級河川である。
日野川の河川事業は、昭和36年度から直轄事業として狭窄部の引堤、掘削、護岸等を主体とした事業を実施してきた。近年における代表的な事業は、老朽化した固定堰を可動堰(ゴム引布製起伏堰)法勝寺堰(昭和61年度)、日野川堰(平成5年度)を完成した。
現在、西伯郡岸本町上細見地区の築堤護岸整備を実施しているが、事業展開のプロセスとして、住民参画型の「上細見地区川づくり懇談会」を設立し、その中で出された様々な意見を事業に反映させ、多自然型川づくりを行っている。
今後も当地区における改修の促進にあわせ自然環境に配慮した整備を行う必要がある。
▲上細見地区(現在)
砂防事業
◆自然環境にマッチした緑の空間の創出
大山は標高1,709mの中国地方随一の高峰であり、その姿が富士山に似ているところから「伯者富士」と呼ばれている。その大山は、およそ1万年くらい前に活動を終えたと推定される死火山であり、その山体は既に解体期にあることに加えて、各渓流から流出する土砂が下流に大災害を起こしていた。砂防事業は、昭和7年から鳥取県により施工されていたが、昭和49年度より直轄砂防に移管し現在に至っている。
現在、日野川工事事務所では、大山山系南七渓流(別所川、清山川、大江川、白水川、小江尾川、船谷川、俣野川)を整備しており、今年度は大江川床固群、池の内砂防堰堤の促進を行っている。なお、近年の砂防事業は、自然景観の保全・復元や、動植物の生態系への配慮が求められており、とりわけ、この地域の一部は大山隠岐国立公園内にあることから、環境や景観には特に留意して施工を行っている。また、日野川流域の上砂の総合管理という観点から海岸線の維持、安定のために、安全に土砂を下流に流せるような、透過型砂防堰堤の整備や、魚ののぼりやすい魚道の設置を行っている。
今後、地域開発との連携を図りながら土砂災害に対する地域の安全性の確保、自然環境・景観の保全と創出及び水辺プラザの整備など渓流空間利用を図るべく事業を推進する。
▲栗尾砂防堤
海岸事業
◆美しい海岸の保全
皆生海岸は、鳥取県西部に位置する弓ヶ浜半島の美保湾に面した海岸を総称したもので、総延長約16kmの海浜海岸である。日野川からの流出土砂の減少とともに海岸浸食が始まり、最大で300mもの砂浜が後退し、温泉旅館等が幾度となく海に沈む悲劇を繰り返した。
この浸食をくい止めるために、昭和35年に直轄海岸工事区域の指定を受け、以来、突堤、離岸堤による浸食対策を実施した。特に全国に先駆けて実施した離岸堤は、砂浜の回復に著しい成果をあげたことで有名である。
現在、海岸の美しさの象徴でもある白砂青松を出来るだけ残すために、皆生海岸の特性である時計回りの沿岸流を利用した「サンドリサイクル」と、それをより効果的且つ経済的に実施するための「人工リーフ」の整備に着手している。
今後においても、サンドリサイクルと人工リーフの適切な組み合わせを検討しつつ、皆生海岸全体の漂砂管理対策を柱とした整備を行うことが必要と考える。
▲皆生海岸全景
菅沢ダムの管理
◆適切かつ安全なダム管理
菅沢ダムは日野川の支流である印賀川に作られた高さ73.5m、有効貯水量17,200千立方メートルの鳥取県内最大の多目的ダムで、昭和43年9月に完成した。このダムの完成により、安全で安心できる社会基盤を築き、鳥取県西部地域の発展に大きく寄与した。
しかし、完成後33年が経過し、ダム管理施設の老朽化や構造上の問題点等から、適正なダム管理に支障をきたすことが想定されるため、平成14年度よりダム施設改良事業に着手しており、洪水吐ゲートの改造、選択取水設備の設置等行う予定である。
▲菅沢ダムと日南湖
最後に
◆新しい時代における安全で美しい国土づくりのために
日野川工事事務所は、水をとおしての流域、また、動植物が生きる有機的な空間での係わりに大変恵まれた“日野川”を掌握する事務所である。
新しい時代における安全で美しい国土づくりのために、日野川工事事務所は、ダム管理・河川・砂防・海岸事業を通じて水系一貫とした事業の展開を図り、地域住民から愛される川づくりに一歩一歩着実に取り組んでいきたいと考える。

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