建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年10月号〉

寄稿

揖斐川・根尾川流域の自然と人々とのおだやかな調和をめざして

じっくりと自然といっしょに。

国土交通省中部地方整備局 越美山系砂防工事事務所長 田井中 治

田井中 治 たいなか・おさむ
昭和59年京大林学科(砂防学研究室)卒
昭和59年建設省入省秋田県土木部砂防課
昭和61年建設省中部地方建設局多治見工事事務所砂防調査課 調査係長
昭和63年林野庁指導部治山課 地すべり係長
平成 2年建設省東北地方建設局福島工事事務所調査第一課長
平成 4年建設省九州地方建設局河川部 建設専門官
平成 6年建設省土木研究所砂防部地すべり研究室主任研究員
平成 8年日本道路公団技術部道路技術課 副参事
平成10年建設省建設経済局建設振興課労働・資材対策室課長補佐
平成12年建設省中部地方建設局越美山系砂防工事事務所所長
事業の概要
揖斐川流域の直轄砂防事業は、昭和2年に根尾川において初めて着手され、その後の第二次世界大戦で事業を中断。昭和26年にそれまでに完成していた砂防設備を岐阜県に移管しました。
しかし、昭和40年9月の台風24号に伴う前線で集中豪雨になり、越美山地周辺の揖斐川上流域、真名川流域は、未曽有の災害に見舞われた事を機に旧建設省は、昭和43年に越美山系砂防工事事務所を設置し、揖斐川上流の横山ダム(昭和39年完成)上流域および根尾川の根尾西谷川、根尾東谷川合流点(根尾村樽見)上流域で再び直轄砂防事業に着手しました。その後、平成元年9月1日から7日にかけての秋雨前線豪雨により、揖斐川本川中流および根尾川において災害が発生したため、平成元年度より久瀬村を中心とした横山ダム下流域および根尾村の樽見より「直轄砂防事業区域」を下流域に拡大し、土砂災害対策を実施しています。
昭和43年の事業着手以来、荒廃地域からの土砂流出防止、多目的ダムヘの土砂流入抑制および土石流危険渓流での土砂災害防止等の事業を推進しているほか、活力ある地域づくりを支援する施策に着手し、土砂災害から生命と財産を守ると共に「緑と人とのふれあい」を大切にした自然環境重視の事業を進めています。
直轄区域の概要
揖斐川は、木曽三川の最も西に位置し、その源を岐阜県揖斐郡藤橋村冠山、釈迦嶺、高倉峠などの小さな谷川に発し、「安八郡神戸町地先」で本巣郡根尾村能郷白山を源とする根尾川を合わせて濃尾平野を南流し、「三重県桑名市地先」で長良川と合流、伊勢湾に注いでいます。その流域面積は、3,880平方キロメートル(うち揖斐川本流域約1,840平方キロメートル)に及びます。
当事務所の直轄砂防事業区域は、揖斐川の上流域にあたる揖斐郡久瀬村、藤橋村、坂内村、本巣郡根尾村の4村、867.9平方キロメートルに渡ります。これらの地域は、標高1,300m前後の山々からなる急峻な山地からなり、揖斐川と根尾川の2つの河川が流下し、これら河川に流入する支渓の多くは急峻な谷地形をしています。
地質は、多くが美濃帯と呼ばれる堆積岩類(泥質混在岩・砂岩・泥岩・石灰岩・チャート等)で形成されていますが、摺曲作用を受けていると共に、根尾谷断層に代表される活断層が発達しているため、複雑かつ脆弱な地質構造となっています。
暮らしを、環境を打ち砕いた水と土砂の猛威
昭和40年災害(奥越豪雨)
昭和40年(1965)9月13日から15日にかけ、台風24号に刺激された前線により総雨量1,000mmを超える豪雨が福井・岐阜県境の能郷白山を中心とする狭い地域に集中しました。岐阜県の主な被害は、藤橋村東杉原集落で東前の谷の氾濫による集落の埋没、徳山村の白谷(徳山白谷)や根尾村八谷の根尾白谷では大崩壊が発生するほか、根尾村の能郷谷からの土砂流出により、耕地の埋没、土木施設の破壊が起こるなど各地で多大な被害をもたらし、死亡1人負傷12人を含め173世帯625人が罹災しました。また、横山ダムでは、計画を上回る土砂の流入により、貯水池の埋没が危惧されました。

昭和50年災害
昭和50年(1975)8月21日から23日にかけての台風6号による集中豪雨は、伊勢湾台風を上回る豪雨となり、坂内村広瀬では総雨量が750.4mmに達しました。この集中豪雨に直撃された坂内村では至る所で谷川が氾濫し、特に坂本地区の友谷や川上浅又川では土石流が発生し、多大な被害をもたらしました。

昭和61年災害
昭和61年(1986)8月21日から22日にかけての雨は、根尾村の松田観測所で時間最大雨量104mmを記録する局地的な集中豪雨となり、根尾村松田地区では土石流災害が発生し、特に栃ヶ洞谷では下流の民家が土砂で埋没する被害が発生しました。

平成元年災害
平成元年(1988)9月1日から7日にかけての秋雨前線の影響による集中豪雨は、根尾村樽見地区を中心に総雨量600mmを超す記録的な豪雨となり、この豪雨により久瀬村小津を含め各地の小渓流において土石流が発生し、家屋や道路等に多大な被害を及ぼしました。 
【根尾谷断層】
▲震災当時の断層 ▲現在の断層(根尾村水鳥)
明治24年(1891年)10月28日6時37分、東海地方を襲った濃尾地震は、マグニチュード8.0と推定され、わが国内陸部では史上最大のものとなりました。
【揖斐川流域の三大崩壊地】
1895年(明治28年)8月5日坂内村川上ナンノ谷、1965年(昭和40年)9月14日〜17日徳山白谷、根尾白谷で大きな山崩れが発生。この三大崩壊は、1891年(明治24年)10月28日の濃尾大地震とその後の集中豪雨等によって地盤がゆるんだことが一つの要因だと考えられています。
▲白谷大崩壊(根尾村)
魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業
魚にやさしい渓流づくり-越美山系の魚道-
この事業は、堰、床止、ダムなどの河川横断施設について、施設とその周辺の改良、魚道の設置・改善、魚道流量の確保など魚類の遡上環境の改善を推進し、より豊かな水域環境の創出を図るもので、揖斐川については、平成4年3月31日に関東地方の多摩川、広島県の太田川とともに全国で最初に第一次指定を受け、39箇所で事業が展開されています。なお、魚道は、このモデル事業だけに捕らわれることなく、「魚にやさしい渓流づくり」として、必要な渓流に順次設置しています。 

今までに完成した砂防施設(平成13年3月13日現在) 
(谷止工は床固工に含む)
種別 揖斐川 根尾川 合計
ダム工(基) 66 44 110
流路工(m) 3カ所 4カ所 6カ所
1,250.4 1,038.3 2,288.7
床固工(基) 6 13 19
山腹工(箇所) (1箇所) - (1箇所)
施設数(箇所) 75 61 136
▲地域活性化となる砂防施設
鷲巣谷第1砂防ダム〔淡墨公園整備事業〕(根尾村)
▲魚にやさしい丸型階段式魚道を
設置した坂内砂防ダム魚道(全景)

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