建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年10月号〉

寄稿

総人口普及率95.7%

施設の更新は、個々の課題を調整して複合的に実施することが重要

―東部太平洋沿岸に位置し、釧路湿原国立公園を望む

釧路市都市建設部 次長 鈴木 稔

鈴木 稔 すずき・みのる
昭和24年1月26日生
昭和42年室蘭工大 土木工学科卒
同  年4月釧路市役所奉職
    港湾計画課、都市計画課、水道部、下水道部、道路建設課等
平成11年より都市建設部次長
日本棋院釧路支部副理事長 九段格
はじめに
釧路市は、北海道の東部太平洋沿岸に位置し、背後には雄大な釧路湿原国立公園を望む、行政面積221.6平方キロメートル、人口191千人の道東の中核拠点都市であります。
当市の下水道事業は、市街地の発展による中心部の浸水対策の一環として、昭和30年に明治末期より開発された住宅地である「橋北東部排水区176.7ha」の認可を受け整備に着手し、以降17回の事業認可変更を行うとともに、予定処理区域4,248ha、予定排水区域3,629haとして現在も整備中であります。
1.釧路市の下水道の現状
当市は、市街地を3つの大きな川で分断されている地域性から、下水道区域を古川、白樺、大楽毛の3処理区に分け整備を行ってきたところ、現在まで3つの処理場と9つのポンプ場が供用開始となり、汚水普及率は、平成13年度末現在、95.7%と全道的にも高水準に達しております。
今後の汚水整備に関しましては、残された区域の整備に努めますが、認可区域沿線の市街化調整区域や農業・漁業従事者が居住する集落等が多く、これらの整備に関して、事業手法も含めて今後検討しなければならない課題であります。
一方、雨水整備に関しましては、平成13年度末現在の雨水対策整備率が53.7%であり、当初は浸水対策として取り組みを開始しながらも、これまで汚水整備を優先してきたという現状にあります。しかし、近年の市街地の拡大や土地の高度利用が促進された結果、市街地の保水能力が低下したことや降雨形態の変化などにより、釧路湿原国立公園につながる北部低地での浸水被害が度々発生しています。この浸水対策に関しましては、本年度から、雨水幹線の整備を行い順次解消していく予定であります。
2.今後の課題
このような整備を進めてきた結果、従前の下水道の基本的な役割である「公衆衛生の向上」「浸水の防除」「公共水域の水質保全」という目標は一定程度達成しつつあります。しかしながら、21世紀に入り市民一人一人の生活様式・形態も多様化している中で、今後の下水道に求められる役割も変化し高度化しております。
これらを踏まえ、今後の下水道は、以下のような課題を踏まえ展開していかなければならないと考えます。

■安心できる街づくり
(1)災害に強い下水道
釧路市は平成5年と6年に震度6の大きな2回の地震災害を被り、下水道施設も約23億円という被害を受けております。下水道は水道、ガス、電力と同じように都市における重要なライフラインの一つであり、災害により一度その機能を損なえば市民生活に多大な影響を与えるため、当然ながら災害に強い施設でなければなりません。
そこで、当市では、昨年度「釧路市下水道施設耐震化基本計画」を策定、今後の耐震対策の方向づけを行いました。

(2)浸水対策
浸水対策は、今後も継続して整備する課題と考えております。また、全国的に見ても雨水の整備率は50%台と汚水の整備率に比べると低く、昨年度、国土交通省が都市機能の集中地域を対象に「緊急都市内浸水対策事業」を創設したことから見ても、今後一層取り組む事業と認識しております。

■水環境の向上(合流改善事業)
近年、都市施設として親水空間や水辺広場等、水環境の整備に対する市民のニーズは高まり、流域の総合的な汚濁負荷量の削減や下水処理水の高度処理化等が求められております。これに係る課題としては、合流式下水道の未処理放流水の問題があります。
合流式下水道は、その機能上の問題から雨天時越流水が問題視されているところでありますが、本年度策定された「合流式下水道改善対策指針と解説」によって、今後の対応が示されたところです。
当市は、予定処理区域4,248haのうち、777.4haの合流区域を有していますことから、この「指針と解説」を準拠しながら、今後実態の把握やアクションプログラムの策定を行い、改善の実施に向け検討していきたいと思います。

■資源・資産の有効利用(汚泥乾燥・緑農地利用)
資源の有効利用は、下水道事業に関わらず全ての事業で求められている課題です。下水道事業で取り組める事例としては、汚泥や消化ガス等の利用があげられます。
当市の汚泥の取り組み状況ですが、汚泥発生量は3処理区併せて12,000t/年となっており、全量を緑農地に利用しております。しかし、現状では含水比が高く、環境への影響が懸念されるとともに、需要家からも性状の改変を求める声が高く、今後乾燥施設を導入していきたいと考えております。

■施設の効率的更新
当市の下水道事業の着手が昭和30年という事から、今後の事業の中心は「施設の建設」から「施設の更新」へ移行していきます。すでに、耐用年数の短い処理場の機械・電気施設の更新は一部始まりつつありますが、今後は管渠の更新も視野に入れ、維持管理の効率化による施設の延命を図り、事業の平準化を考慮しながら総合的な更新計画を立案しなければならないと考えております。

おわりに
社会が変化し豊かになるとともに、下水道に求められる役割も高度化、多機能化と変化しております。我々事業者側は、これら市民の声を受けて、今後の下水道事業の展開を効率よく進めなければなりません。
また、今後は特に地方の財政が逼迫する中「いかに効率よく」施設の更新等の課題を推進するかが鍵となってきます。これらの課題の対応に当たっては、事業単独での実施ではなく、個々の課題を調整して複合的に実施することが重要ではないかと考えております。
以上、これら係る課題を十分に認識しながら、快適で豊かな下水道づくりを目指し、今後の事業を実施して参りたいと思います。

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