建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年9月号〉

寄稿

我が国における下水道整備について

東海豪雨を契機として心新たに…

国土交通省都市・地域整備局 下水道部長 曽小川 久貴

曽小川 久貴 そおかわ・ひさたか
生 年 昭和22年
出身地 宮崎県
昭和46年4月建設省入省
平成 5年7月日本下水道事業団計画部上席調査役
平成 6年4月建設省都市局下水道部下水道企画課下水道事業調整官
平成 9年4月建設省中国地方建設局河川部長
平成11年4月建設省都市局下水道部公共下水道課長
平成12年6月建設省都市局下水道部長
平成13年1月国土交通省都市・地域整備局下水道部長
1.下水道整備の現状
庄内川は、源流を岐阜県恵那郡の夕立山(標高727m)に発し、岐阜県東濃地方の盆地を貫流し、濃尾平野を南下して伊勢湾に注ぐ一級河川である。なお、河川名は岐阜県内においては土岐川と呼ばれている。
流域内には名古屋市をはじめ、近年都市化の著しい春日井市、尾張旭市や陶都の瀬戸市、多治見市、土岐市などの諸都市を擁し、中部地方を代表する典型的な都市河川である。
庄内川工事事務所においては、庄内川における各種事業の実施、管理等を担当しており、以下にその概要を述べる。
2.これからの課題
先述したように、近代下水道の歴史の中で下水道の日的は、生活環境の改善、浸水対策に、公共用水域の水質保全を加え、膨大な整備ストックを背景にして再生水や下水汚泥、下水道管渠など下水道資源の利・活用が求められるなど、時代とともに新たな役割を付加しながら進められてきた。さらに、生活用水の3/4が下水道システムを経由する現状に至って、健全な水循環や艮好な水環境を創造する上で欠かせない社会基盤施設としての位置付けが一層高まっている。以下に、これらの諸課題への取り組みについて述べる。

(1)普及促進
中小市町村の整備水準は依然として低位にあるが、下水道の便益は他の公共施設と異なり個々人にとっては利用できる、できないの関係にあり、ナショナルミニマムの観点から早期整備は急務である。この場合、今後整備が進められる地域は比較的人口密度の少ない地域となることから、集合処理と個別処理の選択にあたっては地域特性に配慮していくことが肝要である。このため、汚水処理に係る都道府県構想の策定・見直しにあたっては初期の投資額のほか、維持管理費、周辺環境への影響など広範な視点から十分な検討を行うことが必要である。また、小規模施設については割高になる傾向があることから、集中監視システムや汚泥処理施設の兼用など汚水処理施設間の連携を進め、効率的な整備に努める必要がある。

(2)浸水対策の推進
都市生活の安全・安心を確保するため、下水道事業は河川事業と連携して大きな役割を担っている。近年の浸水による被害を概観すると、下水道が担う内水による被害が概ね半ばを占めている。特に、近年頻発傾向にある都市型の局所豪雨では時間雨量100mmを超過する記録的な雨量が観測され、地下街や地下鉄など都市機能に重大な支障を来たす例が多く、従来の公共土木施設被害より事業所や都市住民への被害が増加傾向にある。
このため、緊急都市内浸水対策事業を創設し、5年間の時限付で都市機能が集中する地域を対象に重点投資によって浸水への安全度を向上させることとしている。本事業では従来の幹線管渠の整備のほか、先鋭化する雨水流出を抑えるため当該流域内において貯留・浸透施設を組み合わせた総合的な対策を求めている。また、後述する合流式下水道の改善など、老朽化した管渠の改築・更新を併せて計画することも必要である。

(3)合流式下水道の改善
全国3,200余の市町村のうち、公共下水道事業を実施している市町村は2,200余を数えるが、このうち下水道に先進的に取り組んだ192市町村が全部または一部に合流式下水道の区域を抱えている。ただ、採用都市が1割程度であるのに対し、普及率では62%の概ね1/3を占めている。合流式下水道は、東京都や大阪市などの大都市が雨水対策と汚水対策の同時解消を目的として採用し、普及促進に貢献してきたものであるが、晋及が高水準に達してきた現在、合流式下水道からの雨天時越流水による放流水域の汚染が問題となってきている。このため、合流式下水道改善対策検討委員会を設置し、去る3 月報告がなされた。同報告では、当面の負荷削減目標を分流式下水道並とし、10年以内に対策を講じることとしている。本報告を受け、平成14年度新規施策として合流式下水道緊急改善事業を創設し、改善計画のもと集中的に事業を行うこととしている。なお、本事業制度創設に伴い、下水道技術開発プロジェクト(spirit21)の第1号プロジェクトとして産官学挙げて適用技術の開発に取り組むこととしている。

(4)下水道資源の利・活用
下水道には処理に伴い発生する処理水、下水汚泥、下水熱、消化ガスなどの有価資源と、処理場やポンプ場、30万kmを越す下水管渠ネットワークを有している。このうち、都市内の貴重な水資源として、下水処理水を副都心などを中心に水洗トイレ用水や工業用水などとして直接利用するほか、再生水によるせせらぎの復活や水と縁のネットワークの創造など、潤いのある都市環境を目指した試みが全国各地で行われている。
また、全産業廃棄物の約2割を占める下水汚泥は緑農地肥料として利用されてきたが、近年は焼却や溶融による減量化処理によって建設資材やセメントの原材料として活用されることが多くなってきている。この結果、リサイクル率は約60%に達しているが、今後処分場の確保は益々困難になることが想定されるため、有効利用を促進することが必要である。
さらに、地球温暖化防止の観点から、下水及び下水処理水の水温は年間を通してほぼ一定であることに着目して、大気との温度差を利用した地域冷暖房が実施されるとともに、汚泥処理の一環として実施される嫌気性消化によるガスを燃料とした発電など、バイオマスエネルギーの取り紙みも有効である。
一方、処理場やポンプ場は、公園やスポーツ施設など上部利用が進められているが、今後さらに都市内の貴重な空間としての活用が期待される。また、世界最先端の高度情報国家を目指したe-japan戦略を実現するため、都市内に張り巡らされた下水管渠を利用して光ファイバーネットワーク、さらにftth (ファイバー・ツー・ザ・ホーム)の構築が期待され、既に1,000kmを超える管理用ファイバーのほか、民間事業者によって100kmを超えるファイバーが敷設されている。

(5)良好な水環境の整備
先述したように下水道は水質保全施設として位置付けされ、その普及の進展によって河川の水質は飛躍的に改善が図られ、隅田川の花火大会のように水の風物詩が復活した事例も数多く報告されている。しかしながら、閉鎖性水域では水質改善が遅々として進んでいないのが現状である。このため、高度処理の必要性が高まっているが、高度処理の晋及率は8%に過ぎず、欧米特に北欧などに比し、大きく立ち遅れている。政府の都市再生プロジェクト(3次)では、東京湾の再生を掲げ、関係省庁及び関係地方公共団体挙げて再生に取り組むこととしており、陸域からの発生源対策を担う下水道には高度処理やノンポイント汚濁負荷削滅対策の推進が求められている。また、都市化の進展により、流量の枯渇した都市河川の再生を図るためにも、下水処理水の積極的活用が求められる。
3.新たな下水道事業の展開にあたって
2では多様な下水道事業の展開について述べたが、今後は従来の普及率(量の問題)から水環境(質の問題)などへの対応が求められている。特に、質的向上にあたっては、費用負担問題の整理が不可欠であり、関係住民の合意形成過程が重要となる。下水道政策研究委員会の報告においても、下水道関係者のほか、生態系や河川にかかる専門家やnpoなど、広く関係者の意見交換や協議の「場」の設定やpi(バプリックインボルブメント)の実施を提言しており、下水道行政の一層の説明責任が求められる。
現行の第8次七箇年計画は本年度で終了することになるが、下水道に期待される多様な役割に応えていくため、関係者のご支援をお願いしたい。

HOME