建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年7月号〉

寄稿

【連載特集・整備新幹線 北陸新幹線(2)】

能生鉄道建設所管内の現況

日本鉄道建設公団 北陸新幹線建設局 能生鉄道建設所長 田中 健一

田中 健一 たなか・けんいち
昭和42年群馬県立中之条高校 農業土木課卒
同年日本鉄道建設公団 東京支社入社
平成12年北陸新幹線建設局 計画課補佐
平成14年4月より現職
はじめに
能生鉄道建設所は新潟県の西部、西頸城郡能生町にあり北陸新幹線(長野・富山間)のうち上越市、名立町、能生町の1市2町約19q間の建設工事を担当しています。
当管内は西頸城山地の北側に位置しており、全国有数の地すべり地帯として知られております。管内のトンネル坑口全8ヶ所のうち6ヶ所が地すべり防止区域に入っており、トンネル施工による影響の調査、抑止工の検討を行っています。地質は新第三期層泥岩、砂岩及び貫入岩等で構成されています。これらは褶曲しており地形・地質的にも複雑な構造になっています。
また、周辺には宝暦元年(1751年)の高田大地震で死者400人以上を出した名立崩れがあります。
建設所管内の概要
当建設所管内の構造別内訳はトンネル約8割、高架橋約1割、橋梁・路盤約1割となっております。このうち、トンネルは峰山トンネル(7,090m)、松ノ木トンネル(6,720m)、高峰トンネル東工区(1,957m)、新木浦トンネル(2,625m)、桑取トンネル(1,780m)が、また、主な橋梁は能生川橋りょう(194m)があります。
現在、峰山トンネル東・西工区、松ノ木トンネル西工区、高峰トンネル東工区のトンネル4工区が発注されており4工区とも、坑外設備等を施工中です。
新工法の紹介
新幹線建設工事では初めてとなる高速掘進を峰山トンネル西工区で実施すべく、現在、最良の施工方法を検討しています。
高速掘進は、高性能自由断面掘削機及び積込み機を使用して、同時左右並行作業により掘削サイクルを短縮し、改良型吹付けコンクリートにより鋼製支保工の簡略化を図ります。また、自動制御掘削システムを採用して測量時間を短縮し、施工スピードを上げることにより高速掘進を目指しています。このため、高速掘進に対応可能な坑外設備を考えています。
しかしながら、高速掘進についてはその要領が完全に確立されておらず種々の問題点の検討が必要でありこれらの問題解決を検討中です。
建設所管内の課題
桑取トンネルの出口、峰山トンネルの出入口、新木浦トンネルの出入口、高峰トンネルの入口の坑口は地すべり防止区域に指定されており、対策工の検討が必要となっています。
地すべり対策工としてトンネル掘削によって不安定化した地すべり土塊を、横ボーリング工によって水位低下を図り、深礎工にて抑止する深礎杭工法、深礎杭の代わりに鋼管杭を使用する鋼管杭工法、頭部排土工によって荷重軽減し、鋼管杭によって抑止する鋼管杭+排土工工法があります。それぞれの工法を比較・検討した結果、鋼管杭工法が、杭規規模が大きくなるものの、施工中、施工後とも地形の改変が最も少なく安定性の高い工法と考えられ、経済性、施工性や環境的にも有効であると考えています。
地質は、東側より能生谷層、川詰層、名立層の新第三紀層と貫入岩から構成され、郷津背斜、名立向斜、藤崎背斜、木浦背斜の褶曲が見られます。
トンネル部における地質については、これまでの調査の結果、能生谷層は全体に可燃性ガスを胚胎している可能性が高く、特に郷津背斜はガスが貯留しやすいためガスの分布状況の把握、対策が必要であると考えています。その他泥岩の劣化に伴う切羽の不安定化やトラフィカビリティーの悪化、褶曲に伴い軸部付近の亀裂が発達し切羽の安定性が低下する可能性があります。
名立層においては砂岩泥岩互層より構成されており、砂岩は固結度が低く土被りが300m程度であるので著しい地山の押し出しが懸念され、湧水を伴う場合は流砂を起こす可能性があります。
川詰層は泥岩、砂岩、礫岩から構成されており礫岩層の掘削の際は大量の湧水を伴う可能性があります。これらの問題をどう解決していくかが今後の課題であります。
当管内におけるトンネル施工において、掘削土の処理場の問題は、地形的条件や、高速道路の後工事という面から厳しい環境下にあります。また、自然環境においても日本有数の豪雪地帯であることから、冬季における作業環境も厳しい条件下となっており、公団・JVが一体となり、早期完成を目指して取り組んでいく所存です。
▲松ノ木トンネル西工区坑口を富山側から望む ▲峰山トンネル東工区斜路坑口
▲峰山トンネル西工区横坑坑口 ▲高峰トンネル東工区坑口を長野側から望む

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