建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年7月号〉

寄稿

【連載特集・整備新幹線 北陸新幹線(2)】

飯山鉄道建設所管内の工事概要について

日本鉄道建設公団 北陸新幹線建設局 飯山鉄道建設所長 浅見 均

浅見 均 あさみ・ひとし
平成3年北海道大学大学院工学研究科修了
同年日本鉄道建設公団 入社
平成13年北陸新幹線建設局第一課担当係長
平成14年3月より現職
はじめに
北陸新幹線(長野・富山間)工事は同運転所以北への延伸工事であり、飯山鉄道建設所はこのうち長野県内約30kmの建設工事を担当しています。
当建設所がある飯山市は長野県の北部に位置し、千曲川(新潟県内では信濃川)中流域に属します。高野辰之博士(隣の豊田村出身)が「故郷」「朧月夜」に作詞されたような、日本の原風景とも呼ぶべき素晴らしい風景に恵まれ、春から初夏にかけては菜の花(野沢菜)・林檎・桃・梨・藤などの花が美しく咲く地です。このように風光明媚な地上と比べ、地中には断層も多く、特に信越国境付近では褶曲作用を受けているため、地形地質ともに複雑で変化に富んだ構造となっております。
建設所管内の概要
当建設所管内の構造物は、トンネル約6割、高架橋約3割、橋梁・路盤約1割という内訳となっています。飯山には駅が計画されており、開業時にはjr飯山線飯山駅も移設され、北信地域の重要な交通結節点となる予定です。
主なトンネルには、高丘トンネル(6,938m)、高社山トンネル(4,170m)、飯山トンネル(22,225m)があります。高丘トンネルは地形の関係から、山岳トンネルとしては珍しく、中央に谷がくる縦断線形が採られています。飯山トンネルは、陸上トンネルとしては八甲田・岩手に次ぐ長大トンネルであり、6工区に分けて施工中、うち起点方2工区が当建設所の所管です。
主な橋梁には、第4千曲川橋梁(316m)、夜間瀬川橋梁(154m)、第5千曲川橋梁(747m)があります。第4・第5千曲川橋梁は、いずれも多径間連続合成桁を採用しています。
管内のトンネルは全6工区とも着手しており、明かり工事も4工区まで発注済み、うち第5千曲川橋梁は堤内地の橋脚から着手したところです。
トンネル工事
(1)高丘トンネル
高丘トンネルは全般に土被りが薄く、主に第三紀鮮新世〜第四紀更新世中期の、未固結で脆弱な地山からなります。
南工区(2,948m)では、シルトを主とするごく軟弱な地山が大部分を占めています。地上には上信越自動車道や中部電力特別高圧線鉄塔や住宅団地など、防護を要する物件が多数存在することから、地表面の沈下抑制対策が重要になります。本坑掘削時においては、当公団施工の勝田台トンネルや高岩トンネルで実績のあるpass工法を基本線に、沈下抑制対策を計画中です。本稿執筆時(5月前半)はまだ斜路掘削中の段階なので、斜坑での経験を蓄積して、本坑掘削に万全を期す所存です。
北工区(3,990m)は、今のところ大きな湧水も変位もなく、順調に施工中です。沢部の特に土被りが薄い箇所ではAGF工法を採用し、地表面に悪影響を及ぼすことなく、無事に通過しました。 (2)高社山トンネル
高社山トンネルは、中央部は硬質な火山岩類、坑口付近は火砕流もしくは崖錐堆積物を主とする地山からなります。ここで、中央部には高圧湧水帯(10気圧以上)の存在が確認されています。
南工区(1,490m)は斜路掘削が終了、本坑掘削が始まりまだ間もない段階です。現在は土被りが薄い火砕流堆積物の地山の掘削を進めており、巨大な転石に遭遇すること頻繁なので、慎重に施工中です。
北工区(2,100m)は中央部の掘削に入り、湧水が増えつつあります。堅固な地山とはいえ、高圧湧水帯の中では切羽を保持できないこと自明であり、水抜対策が重要です。今年度からは中〜長尺の水抜ボーリングを施工し、事前の水圧低減を図っています。 (3)飯山トンネル
飯山トンネルは延長が長いうえ、褶曲作用を受け向斜・背斜軸が複数存在するなど、地質構造は極めて複雑です。部分的ながらガス・石油も介在する、厄介な地山です。
起点方の上倉工区(3,820m)では、小国層(第4紀更新世)での掘削を進めています。小国層は未固結砂礫を主とする地山で、変位は大きくないものの、湧水が多く見られます。切羽保持に苦心することもありますが、概ね順調に掘削を進めています。
信越国境の富倉工区(3,800m)では、当初起点方に掘削を進め、昨年11月末に工区境に到達しました。地質は灰爪層(第3紀鮮新世)、泥岩砂岩を主とする地山で、変位がごく大きいという特徴を有しています。特に水平変位量が150mmを超える断面では、支保工が降伏し、そのままでは変位抑制が難しくなる状況が確認されています。これに対処するため、変形余裕量を充分確保したうえで支保工を二重に打設する「多重支保工法」が編み出され、飯山トンネル大変位区間での標準工法として確立、上越鉄道建設所管内の新井・木成工区でも採用されています。
現在の切羽は終点方に反転しており、水平変位量は常に150mm近い水準に達していますが、通常支保断面にて施工を進めております。
▲高丘トンネル北工区横坑坑口及び作業基地 ▲高社山トンネル北工区本坑坑口及び作業基地 ▲飯山トンネル 富倉工区掘削状況 ▲第5千曲川橋梁 (菜の花大橋) 完成予想図
橋梁工事
第5千曲川橋梁は、千曲川に対し60度で交差する橋梁です。河積阻害率・桁下空頭などの条件を満たし、かつ落雪が列車走行に影響を及ぼさないよう、上路橋である3径間連続合成桁が採用されました。スパンは起点方から61+67+90、100×3、105+64+60であり、終点方側径間の105mは合成桁としては日本最長です。また、新幹線の長大橋では初めて水平力分散沓を採用します。現在は下部工が発注され、橋脚は10基、うち堤外地の8基がニューマチックケーソンでの施工となります。
なお、第5千曲川橋梁は、公募により「菜の花大橋」との愛称を頂戴しております。
第4千曲川橋梁は4径間連続合成桁となりますが、こちらは詳細設計の段階です。

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