建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年6月号〉

寄稿

東京都における河川整備の現状と課題

東京都建設局 河川部 改修課長 山崎 伸郎

はじめに
東京の河川事業は、水害の危険から都民の生命とくらしを守るとともに、うるおいのある水辺の形成を図るなど、安全で快適かつ活力ある大都市東京の実現を目指している。
また今日、国家的課題である都市再生に向けて、とりわけ都市河川事業の果たす役割が一層重要になっている。
一方、都財政再建が喫緊の課題となっており、平成14年度の河川総事業費がピーク時の平成4年度に較べ半減するなど、きわめて厳しい状況の中で一層の効率的な事業執行が不可欠となっている。
このため河川事業の推進に当たっては、緊急性、効果、コスト等について改めて見直すとともに重点的かつ計画的執行に努めている。
河川事業のうち主要な中小河川及び低地河川について、整備の現状と課題について以下に述べる。
1.河川整備の現状
(1)中小河川の整備
中小河川の整備は、区部の台地や多摩部の中小河川において、1時間に50ミリの降雨(3年に1回程度)に対処するため、護岸の整備を下流から順次進めるとともに、護岸整備に相当期間を要する中・上流域においては、洪水の一部を貯留する調節池を設置するなど水害の早期解消に取り組んでいる。
河川の整備に当たっては、46河川、総延長324kmのうち神田川、空堀川、石神井川など、人口や資産が集中している市街地の河川や水害が多発している河川の整備を重点的に進めている。
なお調節池については現在、神田川、白子川、霞川、黒目川、4河川4ヶ所で整備を進めている。
特に大規模な神田川・環状七号線地下調節池については、全体貯留量54万立方メートルのうち第一期として24万立方メートルを完成し、平成9年4月から供用を開始している。既に、洪水流入実績13回を数えるなど大きな効果をあげている。現在は、30万立方メートルの貯留量確保のため第二期事業を進め、平成16年度末を目途に本体のシールド工事の完成を目指している。
以上の結果、平成13年度末までの護岸整備率は58%であり、護岸整備に調節池等の効果を加えた治水安全度達成率は71%に達している。 (2)低地河川の整備
低地河川の整備は、地盤沈下が進行した東部低地帯において、伊勢湾台風級の高潮に対応する防潮堤・護岸等の高潮防御施設の整備を進めている。
また、荒川と隅田川に挟まれ特に地盤高が低い江東デルタ地帯の内部河川については、耐震護岸の整備や水位低下後の河道整備を進めている。
さらに隅田川などの主要河川については、既設の防潮堤を大地震に対する安全性を高め水辺環境を向上するスーパー堤防等に改築していくとともに、阪神淡路大震災を踏まえて堤防、水門等の耐震強化を進めている。
各事業の整備状況について、高潮防御施設整備事業は平成13年度末の整備率が90%で特に急がれる地域の整備は概成している。また、江東内部河川整備事業は耐震護岸が62%、河道整備が22%となっている。スーパー堤防整備事業は隅田川等で10kmが完成し、引き続き後背地のまちづくりと合わせて実施していくことにしている。
さらに、河川施設の耐震強化については、平成15年度までに堤防17kmと水門等14ヶ所の整備を目途に進めているところであり、平成16年度以降についても残された区間についても引き続き整備を進めていくことにしている。
2.河川整備の課題
(1)環境に配慮した川づくりの展開
河川事業の第一の目的は、水害の危険から都民の生命と暮らしを守ることだが、平成9年の河川法改正にあるように、近年、河川をとりまく状況は大きく変化しており、うるおいのある水辺空間や多様な生物の生息・生育環境として捉えられ、地域の風土と文化を形成する重要な要素としても個性を活かした川づくりが求められている。
この変化を踏まえ、都では既に、多自然型川づくりなど自然環境に配慮した川づくりを推進しているが、今後、ますますこの様な自然の保全や再生までを視点とした川づくりを展開していく必要がある。
(2)都民参加の川づくりの展開
河川環境の整備と保全を求める都民のニーズに的確に応え、河川の特性や地域の風土・文化などの実情に応じた河川整備を推進していくには、地域との連携が不可欠となる。
したがって、都民と行政が共通認識に基づき、協同・連携して、地域に活きた親しめる川づくりを進めていくことが重要である。
そこで、流域の住民や市民団体と区市町村及び都が、河川に係わる情報や意見の交換を行うため、河川あるいは水系ごとに「流域連絡会」を設置している。
現在、神田川、石神井川、江東内部河川、渋谷川・古川など13河川に設置しており、今後、その他の河川についても設置を進めていくことにしている。
(3)都財政の危機
都は、これまで「財政再建推進プラン」に基づき自主的な財政再建を基本に、都財政の危機を克服するため、都一丸となって積極的に取り組んできたところである。しかし、実質収支が3年連続して赤字になるなど、財政再建は未だ途半ばにある。
このため平成14年度予算については、都全体の一般会計が前年度と比べて4.8%減の緊縮型の予算となっているが、こうした中で河川事業関係(河川海岸費)は、前年度に比べて0.6%増となっている。
これは、「都市型水害対策の推進」、「東京の顔づくり」など、首都東京を再生する上で河川事業の重要性が改めて認められた結果である。このため今まで以上に、効果的、効率的な河川事業の執行に努め、こうした期待に的確に答えることが大切になっている。
▲神田川整備工事(その33) ▲神田川・環状七号線地下調節池(第二期)
妙正寺川発進立坑工事(その2)
▲霞川調節池工事(その5) ▲神田川・環状七号線地下調節池(第二期)シールド工事 ▲渋谷川整備工事(その11)
おわりに
都財政は依然として厳しい状況にあるが、活力ある東京の再生を目指して、河川整備を着実に推進していくことが重要であり、多様化する都民ニーズに対応し、限られた財源の中で行政のサービスの水準を維持していく必要がある。
このため河川整備に当たっては、事業効果や緊急性などを考慮した事業の重点実施、他事業との連携や民間との協働などを進めるとともに、さらなる建設コスト縮減の推進や国庫補助拡充等の財源確保に積極的に取り組むなど、様々な努力を積み重ね、難局を克服していくことにしている。

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