建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年3月号〉

寄稿

「無人化施工技術による雲仙・普賢岳噴火災害からの復興」

国土交通省九州地方整備局 雲仙復興工事事務所長 古賀 省三

古賀 省三 こが・しょうぞう
昭和28年10月生 福岡県出身
九州大学大学院工学研究科卒業
昭和53年4月建設省入省
昭和58年10月大隅工事事務所工務第二課長
昭和60年9月関東地方建設局建設専門官
平成2年4月建設本省河川局砂防部傾斜地保全課長補佐
平成4年4月近畿地方建設局大和川工事事務所長
平成6年4月鹿児島県土木部砂防課長
平成11年4月現職
▲水無川流域(平成13年3月)
長崎県島原半島のほぼ中央に位置する雲仙・普賢岳は平成2年11月17日、198年ぶりに噴火活動を再開しました。その後の火砕流や土石流によって、44名もの尊い人命が奪われただけでなく、多くの家屋、田畑、山林などに壊滅的被害が生じ、地域生活や経済活動に長期わたって多大な被害を与えました。
このような土砂災害から地域の人命、財産を守るとともに、一日も早い地域の復興を図るため、平成5年4月6日に全国で唯一復興の名を冠した雲仙復興工事事務所が発足し、水無川、中尾川及び湯江川における火山砂防事業と島原中央道路などの道路事業を核とし、地域と一体となって水と緑あふれる災害に強い地域づくりに務めています。
▲水無川被災状況
雲仙・普賢岳の現況
我が国は、地価の高騰に代表されるバブル崩壊以降、長期にわたり経済成長率か低迷し、失業率も高水準に推移しておりますが、大阪は、我か国の中でも特に厳しく、「絶対的な衰退の危機」とも言える状況に直面しております。
このような中、国において聖域なき構造改革が提唱され、社会の制度や枠組みそのものが大きく見直されており、本府におきましても、昨年9月に「大阪版構造改革」とも言うべき「大阪府行財政計画(案)」を作成したところです。
この中で、府は、総合計画で目標に掲げた「暮らしが安心」「人が元気」「都市が元気」を目指して、厳しい財政状況の中、大阪再生に向け果たすべき役割をきっちり果たしていくことといたしました。
建築都市部としても、この3つの目標を目指して、国で提唱されている「都市再生」をキーワードに、今後、以下の各種施策を展開していきたいと考えております。
無人化施工技術の開発
平成5年4月より直轄火山砂防事業として下流の仮設導流堤建設等の工事には着手していましたが、上流の工事については水無川流域に火砕流が発生した場合、下流域に火砕流が到達する恐れがあり、砂防堰堤の建設、除石工事などの施工に従事する作業員の安全を確保するためには、遠隔操作による「無人化施工技術」の開発が必要になりました。
無人化施工技術は人間が立ち入れない危険な現場での作業を可能にするもので、当時の建設省が平成5年より創設した「試験フィールド制度」を活用して、広く民間に技術提案を求め、平成5年度にその技術を開発しました。
無人化施工技術は、平成5年度から試験施工を行い、平成6年10月から遊砂地内の緊急除石工事を本格的に開始しました。
オペレータは作業状況を確認するために建設機械(ダンプトラック、バックホウ、ブルドーザ)に搭載されたカメラや建設機械のお互いの位置関係を把握するために配備した、移動カメラ車の画像情報を確認しながら、安全な場所で建設機械を操作できます。
砂防堰堤建設にあたって、無人化施工を前提にした工法の選定や出来高等の施工管理を行う無人化施工技術の改良を実施しました。
1)RCC工法等
本体部の施工に当たっては、大型重機による無人化施工に合わせてRCC(roller compacted concrete)工法を採用しました。RCC工法は、使用セメント量が少ない超硬練りコンクリートをダンプトラックで運搬し、ブルドーザで敷均し、振動ローラで締め固める工法です。
型枠には設置、敷き均し、転圧時に無人化施工で行うことが可能である土砂型枠を採用しました。土石流が直撃しない堰堤袖部には火山堆積物の有効利用、施工性から有人施工によるCGS(cemented sand&gravel)工法を採用しました。 2)GPS施工管理システム
無人化による砂防堰堤の施工管理に当たっては、正確な位置情報を知る必要があるため、GPS(汎地球測位システム:global positioning system)を利用し、無人化施工の3次元情報を特定小電力を用いリアルタイムに操作室に伝達し、pc画面上に無人化機械の位置、掘削深などと設計値を表示し、遠隔操作による施工管理を実施しました。
このGPS施工管理システムは、右図に示す6つのシステムから構成され、設計値に対して±50mm程度の精度で砂防堰堤の無人化施工を可能にしました。
水無川流域では平成12年3月までに水無川1号砂防堰堤、水無川2号砂防堰堤が完成しています。これらの砂防堰堤で約170万立方メートルの土砂を捕捉することができ、島原市及び深江町への土砂氾濫に伴う被害の防止・軽減の効果が発揮されています。
現在は、赤松谷川1号・水無川3号砂防副堰堤及び赤松谷川2号砂防堰堤の建設を進め安全の確保に務めています。また、水無川上流域での砂防工事の安全性を確保するため、山体(溶岩ドーム)監視、火砕流発生時の工事従事者の避難場所の確保、一般見学者への防災情報の提供を目的とした大野木場監視所の建設を進め、平成14年度の完成を目指します。

▲RCC工法施工状況

▲GPS施工管理システム構成 ▲水無川1・2号堰堤 ▲大野木場監視所完成予想図
おわりに
このように1日も早い地域の復興を図り、水と緑あふれる災害に強い地域づくりを実現するために、無人化施工技術を利用し砂防施設の整備を行っています。今後は、より効果的・効率的な砂防事業を進めていくため、従来の工法に加え、透過型砂防堰堤工や緑の復元等を図るため、山腹緑化工などへの無人化施工技術の応用にも取り組んでいきます。

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