建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年2月号〉

寄稿

有珠山の火山災害と砂防事業について

北海道建設部 砂防災害課長 長 栄作

長 栄作 なが・えいさく
昭和25年6月26日生
和寒出身、旭川東高、北大農卒
平成4年札幌土木現業所当別ダム建設事務所長
平成6年札幌土木現業所治水課長
平成8年河川課ダム室主幹
平成10年企画調整課長補佐
平成11年帯広土木現業所事業部長
平成12年砂防災害課参事
平成13年現職
有珠山は、平成12年3月31日13時7分、23年ぶりに噴火した。噴火は、有珠山の西山西麓で発生し、噴煙の高さは3,500mに達し東方に流れた。さらに翌日の4月1日11時30分すぎには、有珠山北西側の金比羅山西側山麓で新たな火口群を形成して噴火し、その噴煙の高さは3,000mに達した。
今回の噴火においては、3月28日から自主避難がはじまり、翌29日には虻田町、壮瞥町、伊達市で避難指示が発せられるなど、3月31日には、6,874世帯、15,815人が避難勧告、指示の対象となった。
今回の噴火で特筆すべきことは、火山専門家等の情報収集による的確な予知により、噴火前に住民のすべてが避難し、一人の人的被害もなかったことである。
泥流対策について
虻田町板谷川周辺
西山西麓の一般国道230号周辺に出現した火口群は、降灰や噴石をもたらすなど、建物や道路などに多大な被害を与えました。また、噴火口から噴出した熱泥水は、一般国道230号と並行して虻田町市街地を流下し噴火湾(太平洋)に注ぐ、板谷川の上流部に大量に堆積しました。
板谷川において、これらの不安定な火山噴出物等が、降雨時に泥流となつて虻田町市街地に流れ出すことが懸念されるため、緊急対策として既存遊砂地の堆積土砂の除去、低地沿いに大型土のうの設置、泥流の監視機能の強化として監視カメラ、ワイヤーセンサー、雨量計などを設置しました。
また、板谷川水系の恒久的な泥流対策につきましては、道央自動車道上流に災害関連緊急砂防事業により、立入禁止期間は無人化施工(平成12年5月1日〜10月15日)、解除後は有人施工で遊砂地や砂防ダムの築造を行い、現在、流路工を施工しています。

虻田町洞爺湖温泉周辺
金比羅山西側山麓の噴火は、新たな火口群を形成し、洞爺湖温泉街に降灰や噴石をもたらし、火口近くの建物や道路に多大な被害を与えました。
さらに、平成12年4月7日には、噴火口から噴出した熱泥水が、金比羅山山麓から洞爺湖温泉街を流下して洞爺湖に注ぐ西山川流路工を流下しはじめ、4月9日午後には、大量の熱泥水が噴出し洞爺湖温泉街の北側に溢れだし、建物などに多大な被害を与えるとともに、住宅地などに大量に堆積しました。また、熱泥水は、西山川に架かる国道橋(木の実橋)、町道橋(こんぴら橋)を押し流し、流出した橋梁が流路工を塞いでいるのが確認されました。
流路工内に埋塞した土砂の除去は、当該区域が避難指示区域(立入禁止)であることから、無人化施工で実施することにしました。工事の施工に先立ち、現地で無線、重機の走行試験を実施し、平成12年6月9日から無人化施工により工事を行い11月14日に埋塞土砂の除去を終了しました。
金比羅山山麓及びその周辺には、不安定な火山噴出物等が大量に堆積していることから、融雪期、降雨時の泥流対策として、緊急の導流堤を設置しました。

また、有珠山周辺の観測、監視体制の充実を図るための、機器を設置しています。
今後の泥流対策
平成13年度以降の泥流対策については、有珠山の火山活動により大きな災害が発生した洞爺湖温泉町の西山川ほかにおいて、広域的かつ大規模な土砂災害に対処するために、火山砂防激甚災害対策特別緊急事業により5ヶ年の計画で火山災害防止対策を実施しています。
▲洞爺湖温泉街泥流対策砂防計画
無人化施工について
無人化施工技術とは、一言でいえば、ブルドーザー、バックホウ、ダンプトラックなどの重機を遠隔操作で動かして工事を行うものであります。同技術には、操作者がコントローラーを携帯して目視によつて重機を操作する小規模なものから、無線による映像システムを使用して遠距離から重機を遠隔操作する大規模なものがあります。小規模なものは、昭和44年から使用されていましたが、大規模なものについては、平成2年長崎県雲仙・普賢岳の噴火を契機に開発されたものであり、土木の工法としては比較的歴史の浅いものです。
今回の有珠山噴火に伴う泥流対策工事では、雲仙・普賢岳と同様に火山活動が継続中であり、施工箇所が噴火口に近く有人施工では危険が大きく、広範囲にわたって避難指示区域(立入禁止)であることなどから、大規模な無人化施工技術を採用しました。
有珠山は、地形が複雑なうえに住宅地に隣接しており、建物や樹木が電波や視界を遮るなど、雲仙・普賢岳と現場条件が異なるため、新たなシステムを構築する必要がありました。雲仙・普賢岳で使用された遠隔操作システムは、簡易無線(画像伝送用)と特定小電力無線(重機操作用)を組み合わせ、中継局(車)を中継する「中継方式」でありました。有珠山のように地形が複雑で建物が連たんしている場合は、多くの中継局(車)が必要となるため、有珠山では、ダイレクトに無線操作できる建設無線(画像伝送用、重機操作用)を使用する「新無線方式」としました。この方式は、有珠山の特殊な条件のなかで、板谷川、西山川の泥流対策に十分な働きをしました。
おわりに
平成13年5月28日には火山噴火予知連絡会により「マグマの活動は終息した」との発表が出され、避難指示区域も金比羅火口周辺の一部を除き解除されました。現在、西山西麓火口群周辺には散策路も整備され洞爺湖温泉街に活気も戻りつつあります。
今回の噴火災害に際しましては、暖かいご支援を賜りました全国の皆さま、泥流対策などに緊急かつ臨機に対応していただきました建設省(現国土交通省)をはじめとする各省庁並びに関係機関の皆さまに厚くお礼申し上げます。

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