建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年2月号〉

寄稿

北海道の火山と砂防対策のあり方

北海道開発局建設部 河川計画課長補佐 宮島 滋近

宮島 滋近 みやじま・しげちか
昭和59年4月北海道開発庁採用
平成 4年4月網走開発建設部 治水課課長補佐
平成 6年4月建設省河川局 河川計画課課長補佐
平成 8年10月北海道開発局 建設部河川計画課 建設監督官
平成 9年7月旭川開発建設部 サンルダム建設事業所所長
平成12年4月北海道開発局 建設部 河川計画課課長補佐
1)北海道の直轄砂防事業
日本の最北端、宗谷岬から襟裳岬へ南北に連なる褶曲山地、知床半島から北海道の屋根大雪山系に至る概ね東西の火山帯、札幌西部から渡島半島に至る火山帯が、北海道の山地形の骨格をなしている。
北海道開発局は、道内主要都市の上流4つの地域で砂防事業を実施している。歴史の古い順に、大雪山系から流れる石狩川水系上流、日高山脈を源にする十勝川水系札内川、石狩川水系豊平川、そして樽前山系である。
石狩川水系上流は旭岳や黒岳など火山性荒廃地を源流にしている。とりわけ、十勝岳は大正15年以来、昭和37年、昭和63年と頻繁に噴火を繰り返していることから、噴火に伴う泥流対策に重点をおいている。
札内川は日高山脈から供給された土石が川底に堆積し、洪水と共に流れ出すため道内有数の礫河川である。現在は里と山の間にあたる場所で床固め工群と樹林帯の整備を進め、身近なアウトドアを楽しめる渓流整備を行っている。
豊平川の上流は、支川の扇状地が豊平川の河岸段丘の上に被り、ここに幹線の国道230号とこれに沿った南区の市街地が広がっている。市街地は札幌オリンピック頃から急激に拡大し、ほんの20年前に土砂が氾濫した場所も新興住宅地になっており、防災空間と市街空間、山麓の調和をこの地区の課題として事業を進めている。
樽前山は北海道の人、物の玄関、新千歳国際空港と苫小牧港の直近西側に位置し、また、南山麓は太平洋との間に道南と道央を結ぶ大動脈の国道36号、北海道縦貫自動車道、jr室蘭本線が走り、苫小牧市街地が広がっている。
いつ噴火してもおかしくないと言われる樽前山が噴火した場合は、復興を含め長期的に北海道経済が麻痺する可能性が高い。このため、海と山に挟まれて火山泥流から逃れようのない南山麓で、泥流対策と併せ、監視システムと情報の共有による対応に力を入れている。
▲十勝岳 白金温泉流路工
2)火山対策の砂防事業
火山を対象とする砂防事業は、特に様々な取組を考えなければいけない。
火山噴火に伴う泥流の脅威は三浦綾子さんの小説「泥流地帯」で伝えられている。この小説の題材となった、大正15年5月の噴火のとき十勝岳は雪に覆われていた。火山噴出物は短時間に積雪を融かし、斜面の土砂を巻き込んだ泥流が発生して、死者行方不明者144名の大惨事となった。この泥流が到達した上富良野町や美瑛町の市街地まで、火口からそれぞれ約23キロメートルと27キロメートルあり、平均流下速度は時速60キロメートル、時速15キロメートルにも及ぶ。
北海道開発局は昭和63年噴火の際、検討を進めていた計画をもとに、緊急に鋼製スリットや、コンクリート、ブロックの砂防堰堤などを建設した。また、それまで流路が無く、ホテルが建っていた尻無沢川に流路工の整備を行って、火口に最も近い白金温泉の被害低減を中心に対策を実施した。
極めて短時間に発生し、壊滅的な被害を起こす火山泥流から人命財産を守るためには、これらの砂防施設、北海道開発局のみでは対応ができない。
砂防事業は、構造物で可能な土砂移動の低減と、土砂移動の情報をいち早く把握し伝え、避難活動や、危険地帯の立入禁止で最低限の人命財産を守ることができる。しかし、火山と共存する住民や自治体にとって、火山噴火自体が生活そのものに大打撃であるため、必ずしも十分ではない。また、砂防事業者にとっても、いつ、どの程度の噴火が起き、噴火に伴って現地の自然、社会条件がどのように変化するかを知っておかなければいけない。
そこで、砂防事業実施機関や地元の町、営林署、気象台、北海道、自衛隊、警察、保健所、nhk、北海道電力、ntt、jrなど防災に関係する機関が集まり防災連絡協議会をを設立し、避難訓練や、情報伝達演習を行っている。
砂防事業を通じて土砂災害対策を行うためには、火山そのもの知識や、火山噴火、噴火の予兆など、また、適切な情報収集、的確な地域への情報伝達、正確で分かりやすい情報の加工、伝える方法など様々な分野に対応した取組が要求される。一方で、火山は自然豊かな環境と温泉などの恵みを与えている。活動的な道内の常時観測5火山は国立公園や国定公園に指定されており、環境への取組も知らなければいけない。
北海道開発局は、十勝岳、樽前山のハード施設の促進とともに、昨年噴火した有珠山の対応を教訓に、防災関係各機関と協力しながら、噴火から復興の対応について勉強し、情報の共有化を検討している。
▲北海道の山地 活火山分布

HOME