建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年1月号〉

寄稿

プレキャストセグメント工法による阿賀のかけはしの施工について

日本道路公団 北陸支社 新潟工事事務所 本間清輔

本間清輔 ほんま・きよすけ
大分県出身
昭和56年熊本大学大学院修了
同年日本道路公団入社
平成2年福岡管理局交通技術課課長代理
平成4年名古屋建設局一宮工事事務所工事長
平成7年本社高速道路部工務第一課長代理
平成9年北陸支社建設部工務課長を経て
平成12年7月より現職
▲阿賀のかけはし完成予想図
私たちは、新潟県の中央を南東から北西に流れる阿賀野川の河口から約6キロ上流に、阿賀のかけはしを整備しています。この橋は、新潟市江口と豊栄市高森を結ぶpc構造の連続箱桁橋で、平成14年3月に完成を予定しています。
新潟県と福島県にまたがる阿賀野川は、福島県では阿賀川(あがかわ)と呼ばれ、新潟県に入ると阿賀野川(あがのがわ)とその名前を変えます。阿賀川の「アガ」とは、仏教用語の「閼伽」(アカ)で水を意味します。ここから「水量の豊富な川」ということになります。また、阿賀野川の「アガノ」とはアイ又語の「ワツカ」で「清い川」を意味するという説もあります。
これら名前の由来が示すように、この阿賀野川の流域面積は国内8番目、流路延長は10番目という日本有数の大河で、源流は栃木・福島県境の荒海山(1,580m)に発しています。ただ、福島県内での流域は、いくつかの大きな支流に分かれており、有名な水源としては日橋川の猪苗代湖や只見川の尾瀬沼などがあります。一年間の流出量は日本第4位で、特に3〜5月の融雪期の流量が多いことが特徴です。川幅は1kmに及び、日本一の米どころ新潟平野を横断して、日本海に流入しています。
プレキャストセグメント工法による阿賀のかけはし
阿賀のかけはしは、新潟市と青森市とを日本海に沿って結ぶ「日本海沿岸東北自動車道(日沿道)」の一部を成し、新潟市境の阿賀野川を渡る橋長951mの12径間連続pc箱桁橋です。この橋梁は平成13年10月に、一般公募の結果と名称選考委員の査定により、阿賀のかけはしと名称が決定されました。誌面を借りて感謝致します。
主桁と橋脚の結合方式は、全13橋脚のうち中央の7橋脚についてはラーメン構造とし、側径間部は反力分散ゴム支承を採用しています。上部工は、pcプレキャストセグメント工法を採用しています。セグメント製作には、ロングラインマッチキャスト方式、架設にはエレクションガーダーを用いたバランスドカンチレバー工法を基本とし、側径間部はスパンバイスパン工法と場所打ち工法が採用されています。
この橋梁の現場近辺は、阿賀野川を中心に様々な生物が生息している自然環境の豊かな地域であるとともに、冬期は日本海からの厳しい雨風にさらされ、夏期は気温30℃後半が幾日も続く猛暑地帯でもあります。
そこで、工事にあたっては、地球環境に優しい現場であると同時に、常に安全・品質管理の継続を目標に様々な工夫を凝らしてきました。
ロングラインマッチキャスト方式によるプレキャストセグメント工法
プレキャストセグメント工法は、主桁を輪切りした各ブロックを、予め製作(プレキャスト)・保管しておき、架設時にこれらを運搬・接合し、プレストレスを与えることにより一体化する工法です。
この工法を採用した理由は、(1)河川条件により、河川内仮設構造物の設置期間に限りがあるので、地上からの作業のない架設工法とする必要があったこと、(2)阿賀野川の自然環境に配慮し、架設地点でのコンクリート打設及び作業時の騒音・振動を極力避けなければならなかったこと、(3)阿賀野かけはしの近傍にある新潟空港lc敷地内に大規模な施工ヤード及びストックヤードが確保できること、(4)本橋梁近傍に支間をコントロールするような交差物件が無かったこと、(5)ほぼ同一支間・同一形式の橋梁形式を連続させることが可能であること、などがあります。
セグメント製作設備
セグメントの製作方法には、ショートライン方式とロングライン方式とがありますが、この工事においては、製作ヤードを十分に確保できること、セグメントの形状管理が容易であることからロングラインマッチキャスト方式を採用しました。
製作装置は2ラインを配置し、基礎は沈下しないようにh鋼杭を打設しています。各ラインに外型枠と内型枠を2基ずつ設け、順次移動して既設セグメント妻面を型枠としてマッチキャスト方式で製作しています。
セグメントの形状は、桁高2.6〜5.6mで、製作設備及び運搬設備の条件により、セグメント長を1.5m〜3.0m、平均重量を約50tとしました。総個数は646個です。
このロングライン方式により、一つのセグメント製作台で、支間の半分をすべて製作することができるので、セグメント個々の製作精度を高めるばかりでなく、架設における架設誤差を少なくすることができる点で非常に有効です。
コンクリート
セグメント製作に使用したコンクリートの強度は、桁重量軽減のため50n/o2を採用しています。これによって、翌日での脱枠強度についても十分確保できる状態となります。
ただ、この高強度コンクリートを配合するためには、セメント量を増やして水セメント比を小さくする必要があり、結果としてコンクリートの粘性度が増すために施工性が低下するという課題も生じます。そこで室内及びプラントでの実機試験練りを打い、さらに実物大模型による施工性試験を実施しました。試験練りには、スランプ22cmとスランプフロー50cmの2種類のコンクリートに対して実施しましたが、主にポンプ圧送性からスランプフロー50cmのコンクリートを採用することにしました。
スランプフローのばらつきに対しては、現場でミキサー車最初の5台と50Fごとにフロー試験を行い、生コン工場と連絡を密に取りながら、表面水の確認、混和剤の添加量で調整しています。
型枠設備
この工事では、製作精度、使用回数を考慮して、十分な剛性を持つステンレス・鋼製型枠を主に使用しています。型枠の構造的特徴として、内枠は油圧ジャッキで自動開閉し、側型枠は手動によるセットを行うことにより、型枠セット及び脱枠が容易にできる構造としました。
セグメント切り離し
セグメントの切り離しについては、1ラインのセグメント製作が終了し、床版横締めを緊張した後に行いました。本橋梁は変断面構造であるため、桁高、セグメント長及び底版勾配が個々に異なり、自立性が悪いことから、切離しには60t吊橋形クレーンを用いて桁高の高いものから行っています。
切離しの手順としては、@セグメントをクレーンにより自重の85%まで仮吊りする、Aセグメント上部と底版上にセットした水平ジャッキにて接合面に均等な荷重がかかるように水平力を加える、B接合キーが外れるまでセグメントを水平移動する、Cクレーンにより、セグメントを吊上げストックヤードまで移動する、という工程を経ています。

蒸気養生
新潟地方は、冬期施工期間中、夜間に氷点下まで気温が下がることが多く、脱枠強度の発現に支障をきたす恐れがあることから、冬期施工中は、蒸気養生を行い、年間を通して一定の施工速度を確保しています。打設したセグメントをテントで覆い、発生した蒸気を外部に逃がさないようにして保温養生し、セグメントを効率良く養生するため、箱桁内部、左右張出床版下、コンクリート上面、底版型枠下に蒸気発生管を配置しました。
養生温度の管理は、打設コンクリートと上面を覆ったシートとの空間に設置した温度計により行います。温度計が、予めプログラムした設定温度以下になるとボイラーが作動し、電磁弁により蒸気量を調整するシステムとなっています。
また、コンクリート躯体には熱電対を埋め込み、打設直後から翌朝の型枠解体までのコンクリート温度の経時変化を記録して養生の妥当性の確認を行っています。
架設方法
架設方法は、現地条件、経済性などを踏まえ、側径間部を除き、バランスドカンチレバー工法を採用しています。この方法は橋脚上に設置した架設桁(エレクションガーダー)を用いて、左右のバランスを取りながら張出し架設する工法です。
また、側径間部の施工については、このエレクションガーダーと補強桁ならびに仮受支柱を併用して、13個のセグメントをエレクションガーダーから吊り下げる形式のスパンバイスパン工法で行いました。

セグメントの接合
セグメントの接合には、使用実績などを考慮して、エポキシ樹脂系2液混合型接着剤を使用し、専用機械で塗布することを標準としました。塗布方法としては、スプレーガンの先端に線上にて吐出できるよう特殊な加工を施して塗布し、万能刷毛を用いて接着剤を均一に伸ばしました。
また、冬期施工期間中は、雨天日が非常に多いため、接着剤については、湿潤状態における接着性能確認試験を行っています。

調整目地部
柱頭部と基準セグメント(一番目)の間及び側径間部には、セグメント製作時の施工誤差を吸収するため、目地幅100〜900mmの場所打ち調整目地(無筋・有筋)を設けています。この調整目地に使用するコンクリートには、既設セグメントとの一体性を確保するために膨張剤を混入しています。
また、無筋目地部調整コンクリート床版については、耐疲労性、耐摩耗性を考慮して、ポリプロピレンファイバーで補強しています。ファイバーコンクリートの施工は、ファイバーを現場にてアジテータ車に投入、ドラムの高速回転により練混ぜポンプ車にて打ち込む方法で施工しています。
なお、ファイバー混入前後のコンクリート性能は、ファイバー表面処理によりほとんど変化のない状態で施工できています。

曲線基調の金属製高欄を採用
日本道路公団では、橋梁部壁高欄を金属製高欄に変更していますが、阿賀のかけはしにおいても金属製高欄を採用しました。阿賀野川は新潟市内を抜けて県の北部に向かう途中で交差する大河であり、当橋梁はこの阿賀野川に調和するランドマークとして外視景観配慮が求められました。また、ご利用になるお客様への内視景観配慮として柔らかい曲線を基調としたデザインを採用し、耐久性も考慮してアルミ合金製の金属製高欄を採用しました。なお、衝突実験も実施し、防護さくとしての強度も確認しています。
おわりに
無事、全てのセグメント製作を終え、架設についても既に完了致しました。下り線は平成13年5月に、上り線は同じく11月に閉合し、現在は橋面工、地覆、高欄や舗装工事に先立って床版防水工などの施工を実施しています。
今後とも自然環境の保全に努めながら、残りの工事を安全に進めるとともに、工期短縮・経済性の検証も行っていきたいと考えています。
▲景観に配慮した金属製高欄(施工中)

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