<建設グラフ1995年11月号>

interview

「ゆめはま2010プラン」で 横浜らしさの再生を目指す

横浜市長 高秀秀信 氏

高秀 秀信 たかひで・ひでのぶ
昭和 4年 8月18日生、北海道出身、27年北海道大学工学部土木工学科卒、59年工学博士号取得
昭和27年 4月建設省採用
昭和48年 8月同大臣官房技術調査室長
昭和50年 4月同都市局下水道部流域下水道課長
昭和52年 2月同関東地方建設局河川部長
昭和53年11月同大臣官房技術参事官
昭和55年 7月同中部地方建設局長
昭和56年 6月国土庁水質源局長
昭和58年 7月建設技監
昭和59年 6月建設事務次官
昭和60年10月建設省顧問
昭和61年 5月水質源開発公団総裁
平成 2年 4月横浜市長当選、現在2期目
全国でも有数の港町として発展してきた横浜市は、業務核都市として東京一極集中是正の受け皿としても十分な受容力を備えたまちだ。現在、長期計画「ゆめはま2010プラン」がスタートし、環状鉄道構想や再開発事業「みなとみらい21計画」といった大規模プロジェクトが進められ、さらにはワールドカップ・サッカー誘致に向けての競技場の開設など画期的な大事業がめじろ押しで、今後もその発展力にかげりは見られない。かつて北海道知事選候補者として期待されたこともある高秀秀信市長は、そうした発展力を背景に地方分権とまちづくりについて、「双方向の行政」の確立を前提条件とし、対市民サービス向上のため区機能の拡充をはかりつつ、業務核都市としての機能強化に取り組んでいる。
――市長として横浜のまちづくりに、どんな信念をもっていますか
高秀
横浜の、都市としての歴史は開港に始まりましたが、以来136年、海外と日本をつなぐ窓口の役割を果たしてきました。新しい文化や技術の多くが、この横浜を通って日本中に伝わっていったわけです。そういう意味で、横浜にはいわゆる国際文化都市としての雰囲気や伝統があると思います。
「3日すめばハマッ子」とよく言いますが、新しいものに敏感で、誰でも何でも受け入れる心の広さが、横浜市民の気質の中に息づいているのですね。だから街にも新しいものと古いものが共存していて、それがバランスの良い落ち着きを生んでいるわけです。私は「横浜は大人の街だ」といっているのですが、東京とは異なる魅力を持っていると思います。
しかし、そういう横浜らしさが、東京一極集中とともにベットタウン化する中で、次第に薄れてしまっています。高度経済成長期が終わり、社会全体が成長から成熟へ移 行するなかで、私はまちづくりにもある意味での「都市の個性」が求められていると思います。そこで、昨年からスタートした横浜市の新しい総合計画「ゆめはま2010プラン」では、横浜らしさの再生をひとつの理念として掲げています。
また、都市の活力という面で、経済的にも文化的にも自立した都市をつくっていく必要があります。長い時間、満員電車に揺られて東京に通勤・通学している市民生活を考えても、ゆとりや心の豊かさのために「職住接近」、すなわち身近に働く場所をつくることが必要です。「みなとみらい21計画」などの再開発事業は、市民の雇用の場を創りだす横浜の将来を担う大きなプロジェクトです。
一方、横浜の臨海部には、わが国の高度成長を支えた京浜工業地帯が位置していますが、工場等制限法などの制約もあり、「モノづくりはもういい」という風潮とともに、空洞化が進んできました。工場よりはクリーンな研究所的なもののほうがいいというわけです。
しかし、いろいろと議論はありますが、やはりトータルに考えれば雇用効果や他の業種への波及効果は工場のほうが大きい。さまざまな産業の競争力が十分に発揮できるようなバランスのある産業構造を持つことが都市の活力につながると思います。
また、自宅から駅へ、駅から市内の各拠点へと速やかに移動できる交通ネットワークを整備することも重要です。「ゆめはま2010プラン」では、横浜環状鉄道(シティループ)と名付けた鉄道ネットワークも構想しています。
そして、このような機能的な都市を支えるためには、何といっても都市そのものが安全であることが必要です。阪神・淡路大震災では、都市施設を含めた構造物の耐震性や危機管理のありかたが問われていますが、災害に強いまちづくりは、市民が心豊かに暮らすための基本です。私はかねてから「安全・安心・安定」がまちづくりの基本理念だと申し上げていますが、今後はこれまでにも増して災害対策に力をいれていきたいと思っています。
――最近の地方分権論議について、どう考えますか
高秀
地方分権について、各界各層で論議されていますが、どうも「中味よりも形」というのか、結論が先に議論されているような気がしますね。地方自治というものは、いって見れば市民サービスであり、地方分権とは国民のさまざまなニーズに答えていくために、国民に身近な行政を確立することが原点です。行政の効率論ももちろんですが、どうすれば市民サービスが 向上するかという観点から論議しなければなりません。
そのためには、市民に最も身近な行政である市町村のあるべき姿を明確にしてから、権限移譲や財源問題などの具体的方法を決定すべきだと思います。今の議論には、そういう意味での住民の視点、市町村の視点が欠けているのではないでしょうか。
また、これだけ社会が成熟化し、国民一人ひとりのニーズが多様化したことによって、地域に対する関心や自治意識が高まっています。このような流れの中で、都市が自ら考え、個性あふれる都市文化を発信していく。先程もお話しした都市の「個性」という点からも、“国→県→市→地域・市民”という一方的な流れでなく、“地域・市民→市→県→国”という生活者の視点を生かした「双方向の行政」を展開することが大切だと思います。
横浜市では、“身近な問題は身近な区役所で解決できる”ということを目指して、区役所の機能強化を進めています。これも自治体としての“内なる分権”といえるでしょう。
――全国の中で、横浜市をどう位置付け、理想的将来像としてどんな形で発展させていきたいと考えますか
高秀
都市としての横浜の特徴は、東京に近接していることです。昨今、遷都や首都機能の地方分散が議論されていますが、横浜市を含め、東京圏の七都県市では、現在の首都圏に働く人々の暮らしを改善する視点に立って、「展都」ということを提案しています。すなわち、一極集中のメリットというのか効率性をある程度は認めながらも、分散を行い、東京がもっている機能を首都圏全体が受け皿となって分担する。横浜もこのような業務核都市として、日本の中でより大きな役割を担っていこうと考えています。
また、世界的な港を有する国際文化都市として、国内だけでなく、世界の中での役割というものも考えています。阪神・淡路大震災では神戸港がダメージを受け、国内経済だけでなく、海外の生産拠点など世界レベルでの影響があったことはご承知だと思います。世界経済的に見た横浜港の役割ももちろんですが、横浜が歴史的に培ってきた国際性、交流機能といったものを生かして、世界の中で横浜ならではの役割を果たしていきたいと思います。
コンベンション機能もそのひとつで、5,000人収容の国立大ホールを始めとする国際コンベンション施設も「みなとみらい21」地区に完成しています。また昨年は、国際エイズ会議が開催され、140を超える国々から1万2千人もの参加者が集まり ました。横浜は国連から「ピースメッセンジャー都市」に認定されていますが、都市としてどんな世界貢献ができるかということも、これからは大切な視点になってくると思います。

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