<建設グラフ1997年3月号>

interview

地域の総合行政機関として区役所の機能を強化

自主企画に1区1億の個性ある区づくり推進費を設定

横浜市市民局長 浅野俊博 氏

浅野 俊博 あさの・としひろ
昭和36年4月株式会社日東(現 三洋証券)入社
昭和37年1月同社退社
昭和37年2月教育委員会事務局社会教育課
昭和42年9月教育委員会事務局体育課学校体育係長
昭和46年11月教育委員会事務局校地整備課校地管理係長
昭和51年11月緑政局横浜スタジアム建設促進担当主査
昭和52年4月市民局副主幹(横浜ボランティア協会休職派遣)
昭和55年2月市民局青少年部地域施設課長
昭和56年5月市民局副主幹(こども科学館建設担当)
昭和59年6月企画財政局主幹(市政百周年記念事業推進準備担当
昭和62年1月(財)横浜博覧会協会休職派遣
平成 2年6月市民局勤労福祉部長
平成 5年5月市民局理事(兼;勤労福祉部長)
平成 6年7月市民局長
横浜市は、高秀市政2期目の平成6年度に平成22年度(2010年)を目標年次とする新総合計画(ゆめはま2010プラン)を策定したが、地方分権の流れを視野に入れつつ区役所を地域における総合行政機関と位置付け、区役所の機能強化に取り組んでいる。すでに予算面や組織・機構面で“行政改革”を進めており、一定の成果を上げている。そこで区役所を所管する浅野俊博市民局長に『個性ある区づくり』の考えを聞いた。

ふれあいとゆとりのある都市創造
――横浜市は平成6年度から新総合計画(ゆめはま2010プラン)がスタートしましたが、この中での市民局の政策課題からお聞きしたい
浅野
私たちは「ふれあいとゆとりのある都市『よこはま』の創造」を施策目標に掲げています。
ゆめはま2010プランの事業計画にある「活動と参加に支えられた活力ある地域社会の実現」、「豊かな感性が響きあう、個性的な市民文化の創造」、「人権を尊重する社会・男女共同参画社会の実現」が政策の柱になっています。
――8年度はどのような事業を実施してきましたか
浅野
主だった事業では「人権を尊重する社会の形成」として、同和対策事業、人権施策推進調整事業など、また「市政情報の提供・公開の推進」として市民情報センター運営事業など、そして「勤労行政の推進」として労働雇用相談、横浜マイスター事業、「男女共同参画社会をめざした女性計画の推進」としてゆめはま男女共同参画プラン推進事業、フォーラム運営事業、「広報・広聴・相談業務の充実」として広報よこはま発行事業、「市民利用施設の整備・運営」として地区センター建設事業、上郷森の家運営費補助、「青少年の健全育成」として青少年対策推進事業、青少年交流事業、「区役所の機能充実と権限強化」として個性ある区づくり推進費、区庁舎建設事業、「地域活動の振興と市民連帯意識の高揚」としてパートナーシップ推進モデル事業、「市民文化の振興と文化施設の整備」として各種文化振興事業などを実施しています。
このように市民局では、市民に密着して非常に幅広く事業を展開しています。しかも事業の大半が法律に基づかない市単独の事業なので、厳しい財政状況下で予算確保が難しくなってきています。
――第二次橋本内閣の最重要課題になっている行政改革では、地方分権も大きなテーマになっていますが、横浜市のような政令指定都市でも、市政としての重要課題では
浅野
そうですね。横浜市としてのアイデンティティを維持しつつ、きめ細かな施策を展開していくことが重要と考えています。そのため、指定都市固有の行政区制度を生かして、区役所を地域の総合行政機関と位置付け、区の機能強化に取り組んでいるところです。
――具体的には
浅野
まず予算面では、個性ある区づくり推進費として、これまで縦割りに局から配分していた予算を束ねて区の予算としてプールし、区長の裁量で効率的な運用ができるよう改善しました。「一般分」と称していますが、プールされた予算は各局が設定した執行上の最低条件をクリアしていれば、区役所の裁量でそれぞれの実情に応じて執行できるようにしているわけです。
ただし、全ての配布予算を統合したのではなく、例えば、生活保護費や保育所措置などの全市統一の運用が必要な予算は含まれていません。
これとは別に「自主企画分」として、それぞれの区が個性を発揮させる事業を企画・執行するための経費として1区一律1億円の自主的な財源を確保しています。
縦割りの弊害を打破
――個性ある区づくり推進費を設定した狙いは
浅野
四点あります。一つには局の縦割りの弊害をなくし、区役所の自主性を高めることです。二つ目は地域のニーズに柔軟かつ的確に対応できるようにすること。三つ目は地域的、個別的、緊急的ニーズに迅速に対応できるようにすること。そして最後に、区役所職員が主体的に参画できる予算とすることです。
各区役所に福祉保健サービス課を新設
――組織・機構面では
浅野
地域における福祉・保健の連携強化のため、保健所を区に編入させるとともに、各区役所に福祉保健サービス課を設置して、福祉・保健にかかわる相談からサービス提供までを一体的に実施しています。さらに、街の美化担当を配置し、ごみの不法投棄対策や減量化・リサイクルの推進に対応しています。
そのほか、区民が利用する各種施設の管理運営を区へ一元化しました。
――成果はいかがですか
浅野
そうですね、市民ニーズを吸い上げ独自の事業を実施しやすくなりました。例えば、鶴見区では一時託児サービスを始めました。また、地域の課題に主体的、迅速に対応したケースとして、南区ではマンションを利用して痴呆性高齢者向けデイサービスを実施しています。また、金沢区は旧診療所をボランティアの活動拠点として整備しました。
――今後の課題については、どのように考えていますか
浅野
地域の実情に応じてきめ細かな区政を推進するには、市民の参加が欠かせません。すでに様々な取り組みを行っていますが、市民参加の手法を仕組みとして確立する必要がありますね。
パートナーシップ推進モデル事業
――市民参加の推進策としては8年度から区を中心に「パートナーシップ推進モデル事業」を展開していますが、どのような内容ですか
浅野
これは市民と行政がお互いに知恵を出し合い、責任を分担しあいながら、よりよい地域社会づくりを目指すものです。
現在、さまざまな市民参加を積極的に取り入れたモデル事業を9区で実施中で、南区と戸塚区は公園整備やまちづくりのプラン作成にワークショップ方式を採用しています。これは、グループ作業を通じて参加者のコミュニケーションを図りながら課題を発見し、解決の方向を見つけだしてゆく集団的創造の方法です。
――区政の再編・拡充について今後の考えは
浅野
「ゆめはま2010プラン」は基本計画で、市民生活にかかわる多様なニーズにこたえて、総合的なサービスが出来るように、区役所の権限と機能をさらに強化し、区域内における事務所、事業所の区役所への編入を進めるとの指針を打ち出しています。
平成7年度に策定した横浜市行政改革推進指針でも、局・区の役割分担を見直し、市民の日常生活や地域課題に対応した施策は基本的に区役所が所管するなど、地域の総合行政機関の位置付けを明確にしています。
今後とも区民サービスの向上に向けて私たちは様々な施策を考え、果敢にチャレンジしていきたいと思います。

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