〈建設グラフ2000年5月号〉

interview

「交流と連携でひらく新たな中国地方」の実現に向けての道づくり

建設省中国地方建設局 道路部長豊岡弘順 氏

豊岡 弘順 とよおか・ひろゆき
群馬県出身
昭和48年 4月 建設省入省
昭和62年11月 近畿地方建設局 奈良国道工事事務所長
平成元年 5月 中国地方建設局 道路部道路調査官
平成 3年11月 岡山県道路建設課長
平成 6年 4月 (財)国土開発技術研究センター研究第二部長
平成 8年 4月 関東地方建設局 千葉国道工事事務所長
平成11年 4月 現職
中国山脈を背骨に瀬戸内海側の山陽地方と日本海側の山陰地方と二つの顔を持つ中国地方は、高規格幹線道路の整備が山陽側では概成しているが、山陰道の整備はまさにこれからである。さらに、一般国道の整備が遅れており、国道網の早急な整備が課題だ。中国地方建設局は、そうした道路網の整備において「良いものを早く、安く提供する」ことをスローガンに、世界初、国内初の新規技術も積極的に取り入れている。同局の豊岡弘順道路部長に、管内の道づくりについて語ってもらった。
――中国地方の地勢、特色から伺いたい
豊岡
中国地方は本州の西端に位置し、東西約350q、南北約150qの細長い地形で、中央部やや北寄りを中国山地が東西に貫通し、北は日本海、南は瀬戸内海に面しています。
総面積は3万1,900m2で、全国シェアで見ると8.4%になります。人口は777万5,000人で、全国の6.2%となります。可住地面積率は約26%で、全国平均の約33%に比べるとかなり低く、平坦な低地が少ないため、各種開発の制約が多い地域といえます。
しかし反面では、豊かな自然が多い地域でもあるのです。中国山地の分水嶺が概ね山陽側と山陰側の各県の県境となっており、山陰側と山陽側の沿岸部から中国山地山頂部までの距離が短く、比較的急峻な地形を形成しています。
自然条件は、瀬戸内海に面する地域は温暖であるのに反し、日本海側は冬季の降雪が多いなどやや厳しい条件にありますが、他地域と比べると、全体には比較的穏やかで、1年を通じて温暖な気温、適度な降水量と日照時間に恵まれています。
――管内の道路網は十分に整備されていますか
豊岡
直轄国道の指定区間は12路線、総延長は1,520qというのが現況です。現在はこれについて改築、管理を行っています。道路交通の内訳は、物流の8割と旅客輸送の9割を自動車が分担しており、自動車普及台数も1世帯あたり1.7台と、全国平均の1.1台を大きく上回っています。それだけ自動車への依存度が高いというのが管内の特徴です。
こうした交通に対応する道路整備状況は、高規格幹線道路では62%と、全国平均の53%を上回って比較的進んでいます。ところが、一般国道の整備率は33%で、全国平均の50%を大きく下回っている状況にあり、「交流と連携でひらく新たな中国地方」という理念を達成するためにも精力的に道路整備を進めているところです。
瀬戸内海側では、都市部において交通渋滞・騒音・排気ガスなどの環境問題や、中山間地においては線形不良・幅員狭小などによる交通安全や大雨などによる危険個所の防災に問題があり、これらを解消するため各種の事業を実施しています。
日本海側では、山陰自動車道の当面活用区間の整備が急務で、重点的に整備を進めています。
――管内の道路網は、どんなグランドデザインの中で描かれていますか
豊岡
平成10年3月31日に、全国レベルでの「21世紀の国土のグランドデザイン」が閣議決定されました。これを受けて局では、中国地方の地域づくりビジョンとして、「機動性のある社会の実現」、「個性的・独創的都市の連携実現」、「多様な生活の実現」、「豊かな環境の保全」の4つの地域整備目標を掲げ「多自然居住型地域」を先取りする形の「双住型社会」の形成を提案しています。
その実現に向けて、高速交通基盤のネツトワーク整備や情報基盤の整備、多様な住環境の整備などに取り組んでいるわけです。
――管内における道路整備五箇年計画は、どんな体系となっていますか
豊岡
中国地方の新しい道路整備五箇年計画については、道路整備について各方面の方々から意見を頂き「あすの中国地方道路ビジョン」というテーマでとりまとめましたが、その中で先に述べた「交流と連携でひらく新たな中国地方」という大きな目標を設定するとともに、5つの基本方針に基づいて道路整備を進めることにしています。
その5大基本方針の一つは、「広域交流を進める道づくり」です。新たな連携軸の形成により、中国・四国地方の連携強化を図るとともに、山陰地方と山陽地方の一体的な発展、中山間地域と沿岸の都市との相互の交流と連携強化を図るための道づくりを進めることです。
「暮らしを豊かにする道づくり」は、円滑な交通の確保や高い利便性といった高度なサービスを提供できるよう、総合的な渋滞対策などを進めるとともに、地域の歴史・文化を活かした道づくりや「道の駅」などの整備を進めることです。
「強い都市を支える道づくり」は、抜本的かつ総合的な渋滞対策の実施による都市内でのモビリティの確保、街づくりと一体となった道路整備などにより、活力に満ちた都市づくり・街づくりを進めることです。
「人や自然に優しい道づくり」は、高齢社会に向けた道路環境の整備や沿道環境向上のための総合的な環境対策、災害・震災時の避難路・物資補給路の確保といった安全面を重視した道路整備を進めることです。
最後に「時代の流れに対応した道づくり」で、交通需要の量的拡大や質的な変化に対応した維持・管理の高度化、高度道路交通システム(ITS)への取り組みを進めることです。
この5つの基本方針に基づいて、平成10年度から今後10年間に行う具体的な道路事業について、中国5県をはじめ関係機関と協力し「道路の整備に関するプログラム」を作成しているところです。
――高規格幹線道路網の整備にかなり力を入れているようですね
豊岡
そうです。中国地方の高規格幹線道路は、すでに1,656kmが計画され、直轄事業でバイパス整備を行っている区間の当面活用を含め1,028kmが供用済みです。さらに延長約365kmを施工する予定で、うち194kmは実際に着手しています。
今後の予定は平成14年度末までに約110q、平成19年度末までに約170qの供用を目標としています。これによって達成率は47%になります。
一方、一般国道では自動車専用道路として東広島呉自動車道、尾道福山自動車道、西瀬戸自動車道の約45qについて整備を行っています。さらに、山陰自動車道、山陽自動車道、中国横断自動車道姫路・鳥取線のうち、約320qの整備する予定です。
この山陰自動車道、山陽自動車道、中国横断自動車道姫路・鳥取線は、一般国道の自動車専用道路として整備していますが、当分の間は高速道路としての機能も果たすものです。
――各路線の整備状況は
豊岡
山陰自動車道は、総延長384kmで、このうち鳥取〜松江の約116km、出雲〜益田の約111km、山口県三隅〜美祢間の約35kmの延長262qについて基本計画が決定しており、宍道〜出雲間の延長約17kmについては整備計画の段階です。
必要性の高い区間から順次、環境影響評価、都市計画決定に向けての手続きを進めており、現在は全体の約4割に相当する区間について整備中です。このうち、約1割に相当する約32qが、本線部・自専道合わせて供用済みです。
安来道路約13q、松江道路約5qについては、平成13年春の供用を目指して工事を展開しており、鳥取・島根県境で既に供用している区間と合わせて60kmの自動車専用道路がつながることになります。また、平成12年度からの新たな区間として、浜田三隅道路約15qの新規着工準備が認められたところです。
小郡道路は、平成13年春に予定されている山陽自動車道宇部・下関線の供用にあわせ、山陽自動車道山口南ICから一般有料・山口宇部有料道路の嘉川IC間を自動車専用道路で連絡すべく整備中です。
中国横断自動車道・姫路鳥取線は、岡山県西粟倉村〜鳥取県智頭町の17.9qを担当していますが、国土開発幹線自動車道の当面活用区間として、志戸坂道路を実施中です。この路線は平成10年までに9.6qを供用済みで、現在は、鳥取県側で工事を促進しています。
東広島呉自動車道は一般国道の自動車専用道路(b路線)として、山陽自動車道の東広島JCTから呉市を結ぶ路線の事業を行っており、東広島JCTから馬木IC間で工事を行っているほか、呉市域の用地買収を進めています。
西瀬戸自動車道は、11年5月1日に供用開始した西瀬戸自動車道のうち、生口島の島内部分つまり生口島北IC〜生口島南ICについて、今年度から直轄事業に着手しました。
――広島市内では、地域が河川や山岳で分断されているため、アクセスが不便のようですね
豊岡
そうです。広島都市圈における慢性的な交通混雑を解消するとともに、中国四国地方の中枢都市である広島市の都市機能をより高めていくためにも、都市交通の高速性・定時性を確保できる自動車専用道路網の整備は緊急の課題です。そのために広島都市圈自動車専用道路網(指定都市高速道路)の整備を促進しなければなりません。
広島高速道路については、現在、広島高速道路公社が広島高速1号線の安芸府中道路、広島高速2号線府中仁保道路、広島高速3号線広島南道路、広島高速4号線広島西風新都線の事業を進めています。
今年度は、広島高速3号線の仁保〜宇品間の2.6kmが3月に供用開始しました。こうした道路ネットワークの早期完成に向けて、事業の促進が図られています。
今後も引き続き、広島高速道路公社をはじめ、国・県・市が一体となって取り進めていきたいと考えています。
――現在、行われている事業において、画期的な技術や新工法はありますか
豊岡
事業を実施していく上では、“より良いものを、より早く、より安く”提供することが必要ですから、もちろん新技術や新工法の活用によってコスト縮減、安全・安心、環境保全に留意しつつ進めています。
一つは盛土と転圧コンクリ一トの同時施工でアーチカルバ一トを施工しており、これは世界でも初めての取り組みです。
施工箇所は国道9号安来道路で、盛土区間に133mのアーチカルバートを施工しています。施工手順は、フーチング施工後、カルバートの構成部材となるRCC(転圧コンクリート)を、一層が30cmの厚さに構築し、同時にカルバートの外・内側の盛土作業も行い、これを順次繰り返すというものです。
カルバート部分は盛土の中に埋め込まれる形で構築され、盛土完了後に、カルバート内部を掘削して完成となります。
この工法の特徴は、従来工法では必要だった内部の型枠支保工が不要なことで、構造物の養生・強度発現も必要なく上部の施工が可能なため、工期短縮が可能になるほか、土被りが15m以上でコスト縮減の効果が大きいのです。また、盛土とカルバートが同一施工面となるため作業スペースが広く、安全性が向上するなど、従来工法では解決できなかった課題が克服できたのです。
もう一つは、国内で初めて高耐力マイク口パイルで耐震補強を行っていることです。これは国道9号島根県湖陵町、差海橋で実施していますが、道路橋示方書の改訂によって大規模委地震に耐えうる施設とするため、昭和39年に施工されたパイルベント式橋脚の耐震補強を実施しました。
この工法の特徴は、既設の橋下の狭い空間での施工が可能で、細い径でありながらも高耐力のため、フーチング面積が小さくて済むことです。したがって、掘削土量も少なく施工速度も速いという利点があります。
――ところで、いよいよ21世紀に向けて秒読み段階に入りましたが、今後の中国地方の道づくりのポイントは
豊岡
中国地方の今後の発展のためには、行政的な枠を越えた広域的な発想での地域連携と、瀬戸大橋や5月に開通した「しまなみ海道」、更に中国横断自動車道・岡山米子線の開通、尾道松江線の整備本格化を向かえ、四国地方との一体的な発展を図る視点が重要です。
一方、都市部が分散していますが、中国道や山陽道、本四架橋などの高速交通体系が格子状に整備されることで、四国を含めた地域間の連携と交流を進めるポテンシャルが飛躍的に高まりつつあると感じています。
特に日本海、中国山地、瀬戸内海と多様性に富んだ地域の特性を活かしつつ、近畿・九州地方も視野に入れた山陰道の整備促進と地域連携軸の形成を早期に行うことが重要で、どこにいても30分程度で高速道路icヘアクセスできる条件の市町村を、平成20年代初頭には現在の145市町村から200市町村まで拡大させたいと思います。
また、情報通信インフラは、国民生活を支える重要な社会資本となります。高度情報化社会の構築は世界に開かれた国土形成における課題であり、また、活力ある経済社会を構築する上でも重要です。
そうした背景から、平成12年度末には県庁所在都市間を結ぶネツトワークが完成する予定で、道路管理者以外の活用も含めて今後の幅広い活用に期待しています。
さらに、中国地方の中核都市・広島市の都市高速道路整備は、他の政令都市に比べると遅れており、早期整備が必要です。
――高齢化社会の到来を見越して、道路の構造も福祉対応型に変えられつつありますね
豊岡
特に中心市街地の活性化や高齢社会に対応する観点から、交通弱者の交通特性に配慮したバリアフリー化を進め、幅広歩道の整備、段差の解消、バス路線の活性化などを進めなければなりません。また、都市中心部の渋滞対策としてバイパスの整備、交差点改良やtdm施策の社会実験などにも取り組んでいきます。
こうした社会資本整備にあたっては、国民が満足できる形での施策の立案、事業の計画、実施が求められており、道路整備五箇年計画は、パブリック=インボルブメント方式を取り入れて、国民との対話型で策定しました。このように国民との双方向の対話をより積極的に推進していく方針です。
――近年は、事業の採算性に対する視点も厳しくなってきましたね
豊岡
公共事業を取り巻く厳しい財政事情、コスト意識、国民の参加意識の向上などを背景に、国民の皆様からは公共事業の必要性、実施過程の透明性などについて様々な意見・要望が出されています。これに応えるべく種々の制度改革を進める中で、事業の再評価システムを導入しています。
事業実施にあたっては、コストの縮減、品質の確保、新技術開発と新技術活用の促進などにより「良いものを、より安く、より早く」提供する必要があります。安心して安全に暮らせる豊かで活力に満ちた中国地方を実現し、地域の人々から信頼を得るためにも、地域の皆様との対話を機軸に、「中国地方の道づくり」に取り組んでいきます。  

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