interview (建設グラフ1996/1)

公共施設には戦略的企画が必要

東京都財務局営繕部長 千葉邦彦 氏

千葉邦彦 ちば・くにひこ
昭和15年神奈川県生まれ。日本大学理工学部建築学科卒
昭和35年東京都入庁、葛飾区建築部営繕課長、都財務局シティー・ホール建設室副参事、財務局参事(国際施設建設担当)などを経て平成5年7月現職
超高層ツインタワーの東京都庁舎に続き、国際フォーラム、国際展示場と、東京都財務局営繕部は矢継ぎ早に大仕事をこなしている。地域の顔となる公共施設の建設は、経済的には高い波及効果を生むが、事業実施においては都民の要望の変化に対応しつつ防災にも気を配り、コストダウン、維持費の逓減も図らねばならないなど、建設から解体に至るまでクリアーしなければならない課題が山積みだ。千葉邦彦部長に、現在進められている事業、工法、維持管理、そして公共施設のあるべき姿などについて語ってもらった。
――ツインタワーの都庁舎建設は全国自治体に例がなく画期的でしたね。
千葉
新都庁舎建設に当たっての基本的な考え方には、3つの柱がありました。
1つは霞ヶ関、丸の内の1点集中を解消し、多心型都市、多核都市構造の形成を図っていくことで、これは業務機能の過度の集中を抑制し、職と住、その他の機能をバランスよく配置するということです。
次に都政の効率的な運営に向けての改善で、丸の内の旧庁舎では32の庁舎に分散していて、都民が来庁した際にわかりにくく不便な思いをさせていました。これを一元的に新宿に移転し、かつ庁舎もインテリジェントビルとし、OA化を図ったわけです。
そして最後にシンボル性をということで、東京は国際都市とか、世界都市などと言われていますが、ランドマーク的な考え方で、「世界都市・東京の顔」を作ることが目的です。
――どんな工法を用いたのですか
千葉
工法は省力化工法と工期の短縮が図れるよう、梁、構造壁ともPC化工法、コンクリート床については主にPC床の上に配筋しコンクリート打設の複合床工法を採用しました。
内部は、構造床のユニット工法で、天井裏に設ける設備機器を地上で地組みし、一括揚重して所定の床へ取付けるものです。
また、天井はシステム天井、床はOAフロアー、中央コンピューター室は汎用機が入るので免震床工法を採用しています。
――これだけの規模となるとメンテナンスも大変ですね
千葉
メンテナンスについては、出来るだけ人手をかけずにすむ方策を考えざるを得ません。特に防災関係機器については配慮しており、例えば、自動点検システムを採用したり、中央防災センターの監視、内外装の清掃、エレベーター、ゴンドラなどについては各々専門の委託業者とのメンテナンス契約をしています。
――国際フォーラムや国際展示場も大規模建築事業として注目されていますね
千葉
東京国際フォーラムは、文化機能、情報センター機能などを併せ持つ総合的な文化情報施設としての役割を持ったもので、新都庁舎と一体となってシティ・ホール構想を実現するために、必要不可欠な施策です。
設計者選定については、国際建築家連合(UIA)の公認による本格的な国際コンペが実施されました。内外から、69ヶ国、395作品の応募があり審査の結果、アメリカのラファエル・ヴィオリ氏の作品が最優秀作品に選ばれわけです。
計画では地下に展示場や446台分の駐車場、地上はプラザをはさんで西側にホール棟、東側にガラスアトリウムと会議室群で2つのゾーンに分かれています。
施設は、文化、学術的な国際会議の開催も可能な約5,000席を有するホールをはじめ、3種類のホール群と34室の会議室群、レセプションホール、展示場で構成されています。
この他に文化情報センター、レストラン、コンビニエンスストアーなどのサービス施設も併設されます。
施設の四周すべてが既設の地下鉄道によって囲まれており、しかも各鉄道施設躯体との距離が非常に近い。このため、周囲の鉄道に影響を及ぼすことのないよう、鉄道施設内に設置した計測装置に基づいた継続的な監視を行いつつ慎重に工事を進めています。
その他、ホール棟においては、外部からの振動、騒音対策として、構造躯体と内部仕上材は防振ゴムを介しての一体構造物となっています。
東京国際展示場は、臨海部に位置し、「国際コンベンションパーク」の中核施設として位置付けられているものです。
21世紀の新たな舞台にふさわしい施設規模、内容を備え、見本市、国際会議、イベントなどを一体的に行える複合コンベンション施設として、臨海にある国際見本市会場の代替施設として建設されたものです。
周辺には、テレコムセンターや、インフラの共同溝も整備し、11月1日からは新交通システムモノレール「ゆりかもめ」の営業も開始したところです。
施設は管理会議棟、西展示場、東展示場の3つのゾーンに分かれており、管理会議棟に1,000人収容、8ヶ国語対応通訳の国際会議場、ほかに17の中、小会議室、西展示場にはアトリウムを中心に2層の展示ホールがあります。東展示棟には、1辺90m角の大展示ホールが合計6ホールあり、その他、レセプションホールやレストランもあります。
展示総面積は、延べ8万・で晴海の国際見本市会場の約1.5倍ですから、日本で最大規模の展示場となります。
工法は、外壁まで仕上げた多層階建物のリフトアップ工法やアトリウムの大屋根部分のスライディング工法、その他新たな新工法も採用しています
――公共施設は地域振興において有力な起爆剤といわれますね
千葉
公共施設の整備率は地域発展のバロメーターだと言われています。したがって外国や地方都市が道路や地下鉄などの最新のインフラ整備を望むのも当然ですね。働きやすく、住みやすいまちづくりをいかに早く実現するかが地域振興の鍵だからでしょう。
東京は首都や大都市機能を維持させる上で、常に公共施設の更新が必要で、ウォーターフロント開発や都庁移転もその一例であり、大都市時代を迎える21世紀のアジアや欧米の先進都市の発展を視座においた戦略的企画が必要となっているわけです。
そのためには地域や都心部での創造性高い開発構想とイメージ造りが必要です。私は公共施設の創造性こそ、その企画の戦略性を高め、地域振興の要めになるものと確信しています。
また、公共施設の建設は内需拡大の柱であり、地域の民需拡大の起爆剤となります。
建設業はその関連産業の多様さと多重系列・下請け構造により、経済的波及効果が大きく、地域の労働経済への即効性はかなりのものがあります。とりわけ都庁の様な大規模工事では人手不足を招くほどだったと聞いています。
そして公共施設の設置とその運営は、地域住民や地域経済の活動を補完する事が主な目的なので、第一義的に地域振興に直結しているといえます。インフラはもとより教育、文化、衛生、福祉、清掃、労働経済などに関わる施設の運営が、今日の地域社会の活動を支え、そのセンターとして機能しているわけです。
今後はより一層地域のニーズに合わせた的確な運営をし、地域の振興に寄与すべきだと考えます。
――公共施設の耐用年数の設定についてはどう考えますか
千葉
現在設定されている基準として、事業用建築物の減価償却費計算用のものがあります。例えば住宅の場合、RC造は60年、ブロック造は45年、S造は20〜40年、木造は24年となっています。公共施設も構造・用途・部位別施設の全体計画の整合化や性能発注を促進するためにも、耐用年数の設定が必要です。
また、施設の総合コストを評価する手法として、企画・設計・建設・運営・管理・解体までの生涯費用、いわゆるライフサイクルコストを算定する必要があります。この正確な算定には躯体の他、仕上げや設備の耐用年数も正確に評価する必要があります。
公共施設の耐用年数は不特定多数の利用や広範な社会サービスの継続性などから一般的には民間施設に比べ長い場合が多い。特に地震や台風などの被災時の“かけ込み寺”として、構造安全費は十分にかけている物が多いですね。
しかしながらデザインや使い方など、そのときどきの市民のニーズも変化したり、法的規制の強化やビルのオートメーション化などの需要の変化により、その物理的耐用年数よりも短い社会寿命が発生する恐れがあるのです。この社会的寿命の予測は物理的耐用年数の設定よりも困難ですが、できるだけ加味した検討が必要となるでしょう。
――東京のような過密都市では防災対策も手を抜けませんね
千葉
今日の東京は都心部での過密・高齢化が進み、長年にわたって整備されてきた都市基盤や各種の公共設備も旧基準のものが多くなっています。昨年の阪神大震災や地下鉄でのテロ攻撃事件はこれまでの防災対策を根本的に見直す必要性を痛感させるものでした。
人命の安全確保を考えれば、地震の予知が最優先されるべきですが、突発を前提に考えるなら、地震災害は局部的とは言え広範囲かつ複合的であり、その対応もソフト・ハードを含む総合予防計画で対応すべきでしょう。
都は現在、震災予防条例に基づく、地域震災予防計画を見直し中ですが、この中でもインフラを含む公共施設の耐震診断とそれに基づく補強工事の早期実施を最重要課題の一つとして揚げています。また、議論の多い耐震レベルや補強方法などは新材料・新工法を含め専門家や関係者から成る「判定委員会」で総合的に進める予定です。
予告なく襲う大震災には、震災予防計画で想定した防災無線網の活用や非常召集体制が計画通りに機能させる危機管理体制が重要で、こうしたソフト面は普段の訓練活動が何よりも大切です。
しかし、阪神大震災の教訓として見れば学校や病院などの近隣区単位の訓練とその施設に非常時に必要な補助設備、例えば非常電源・通信施設・ポンプ・消火、飲料用水などが緊急作動するか否かの試験使用訓練も重要になります。
営繕部門としては、仮設テントなどの供給設置と公共施設を中心とした被災建物の応急危険度判定や除去、または復旧工事が主要な役割になるので、そのための応急危険度判定士の養成とマニュアル作りを進めています。
――今後に向けて公共施設の維持管理費の逓減についての見解を
千葉
都民ニーズの変化に伴い公共施設の維持管理費も大きくなってきて、その逓減が重要な課題となってきています。特にバブル以降の都の財政状況は厳しく、ますますその重要性は増してきています。
元来、公共施設は安全に、安定して効率よく運営されることが要求されるが、これに加えて先に述べた事項についても配慮しながら、その上でコストの逓減を図らなければならなりません。そのためには建設部門と維持管理部門の協力が不可欠です。
今後とも相互の協力により、一層効率的な公共施設の推進を図り、都民サービス向上に寄与していきたいと思います。

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