建設グラフ<1996年12月号>

interview

「都市を読む」の設計理念が、根室の環境と建物の美しい融合を創造

北の大地 根室の自然を称え、人々と共に生きる交流施設に

株式会社北海道岡田新一設計事務所代表取締役 高月捷冶 氏

高月 捷冶氏 たかつき・しょうじ
【これまでに手がけた作品】
警視庁本部庁舎
岡山市立オリエント美術館
日本歯科大学新潟歯学部校舎
苫小牧市庁舎
北海道三岸好太郎美術館
北海道立中央水産試験場
陸別町役場庁舎コミュニティセンター
北海道庁が行った北方四島交流施設の設計コンペで竃k海道岡田新一設計事務所が最優秀賞に輝いた。同設計事務所は建築家岡田新一氏が会長を、高月捷冶氏が社長を務め、北海道岡田新一設計事務所は岡田新一事務所の連携事務所として1976年に設立され、本社は札幌においている。
岡田新一設計事務所は、日本最大規模で行われた最高裁判所新庁舎の設計競技において最優秀に選ばれたのを機に設立された。最高裁が1974年に完成し翌年の1975年度日本建築学会賞、建築業協会賞の各賞を総なめにしたほか、1980年には延面積10万uの大規模なプロジェクトとして着手した東京警視庁本部庁舎が完成。様々な国家的スケールの工事をはじめ、各省庁、都府県、市町、区などの公共建築を手掛ける傍ら、一流企業の建設工事設計にもその卓越した技術力を余すところなく発揮している。
岡田氏の思想は「祖先を敬い、国土、環境を愛する人心を取り戻すこと。先人たちの業績を美しいもの豊かなものとして評価し、子孫に残していく」ことを理念としている。北海道事務所の作品にもこうした理念が生かされており、高月捷冶代表取締役は、「今回の北方四島交流施設も建築を自然環境に調和させるという岡田会長の思想が反映されていると思う」と語っている。
――北方四島交流施設設計競技において、最優秀に輝いた貴社の作品についてお聞きしたい
高月
設計は敷地を見てから取り掛かろうということで、その前準備として現地視察を試みました。現地ならではのとても綺麗な自然に触れることができ、収穫は大変大きいものでした。
また、敷地の南側に厳しい風雪のなかで生き続けてきた樹林を見つけ、これをなんとか設計に活かせないものかとも考えました。地域の自然を設計に盛り込むことは大切なことで、ここでは特に、樹木、草原、海の3テーマにおいて設計を進めようと思いました。
――今回の審査は、景観、住民利用、施設機能の利便性、空間構成に重点が置かれたと聞いています
高月
私たちは設計においてはどのような場合でも、その設計対象物、設計条件などを原点から考え直します。我々が北方四島交流館を設計するにあたって思い描いたイメージは「盾」です。このイメージは、建物自身が自己主張するのではなく、あくまで建物そのものが防風林、防風柵となって自然環境に溶け込むことを意味しています。四季があり、厳寒も巡ってくる根室の風土を考えた上での結論です。建物のイメージはそうした季節のなかで色々な人々の活動を厳しい自然から守る、その姿を盾として解釈したわけです。現地視察を実行したのもそのためで、その地域に密着した設計をし、建物をつくり上げるには敷地を読まなければなりません。敷地を読むには自然環境はもちろんのこと、歴史生活文化も含め、広範囲にわたり調査をする必要があります。岡田新一会長は街づくりにあたりましては「都市を読む」といいますが、いかなる設計においてもその考え方を取り入れていくのが我々の設計理念であり、地域を開拓していくことは、地域の周辺環境を設計に合わせて変化させることではなく、今までそこにあった周辺環境に設計を合わせていく、馴染ませていくということが大切だと思うのです。
――根室の自然は何十年、何百年という時間を、厳しく冷たい風を凌ぎつつ作られたものと考えられます。後から来た人間がそこに建物を作るために、自然を邪魔者扱いして無視してしまうというのは許されませんね
高月
そうです。自然は時間の流れと一体化した普遍の環境です。誰もその時間の流れを止めることは許されません。以前に「計画上、樹木が邪魔だ」として樹木を伐採する提案をした職員に対して、関係自治体の首長が怒ったという話を聞いたことがあります。今日はそのような時代に入ってきたと思います。そういう点から我々も自然を無視する行為は人々の暮らしにあってはならないと考えています。デザインの対象となる環境そのものが動いていまっては意味がないのです。
――これからの設計業界を、どう展望していますか
高月
例えば指名設計コンペや指名プロポーザルはこれからも多く行われると思いますが、設計者の指名選定の対象として、今までの実績や会社組織の規模を重んじる傾向が多分にあるように思いますが、残念なことです。入札制度が減り、設計コンペ、プロポーザルが増えつつある現状は設計者にとって喜ばしいことですが、将来性や創造性ではなく、組織の規模を重視するという点には疑問を感じます。このままでは特色を発揮する小さな会社は育たなくなり、新人発掘さえも期待できない事態になりかねません。
設計は、少人数でも可能だと思います。むしろ、ある程度の規模の設計であれば少人数の組織の方が面白いものをつくる場合があると思います。
今後はぜひその点について、より配慮した設計者の選定に期待したいものです。

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