interview <建設グラフ1996/6>

商業的センスが生きる品川区・高橋区政

バブル景気の最中にも効率的な財政運営で基金の積立を

東京都品川区長  高橋久二 氏

高橋 久二 たかはし・きゅうじ
昭和3年9月1日生まれ、法政大学専門部法律学科卒
昭和22年品川区役所入所
昭和37年総務課住居表示係長
昭和41年総務課人事係長
昭和43年教育委員会社会教育課長
昭和45年総務部課税課長
昭和48年総務部財務課長
昭和48年企画調整部予算課長
昭和51年区議会事務局長
昭和54年総務部長
昭和56年品川区助役
昭和62年品川区長に初当選、現在3期目
不況で全国各地の自治体は財政難に喘いでいるが、品川区は税収が豊富だったバブル景気の最中にあっても財政の効率的な運営に努め、その余力を基金の積み立てにまわしたことから、今日の財政運営の余力を生んでいる。まさに「私は商売が好きで、区政も商業的センスで行っている」という、高橋久二区長の優れた経営者的センスが反映されたものといえよう。同区長の街づくりも、計画から完成までとかく手のかかる再開発をあえて中心とし、また商店街の活性化、老人福祉施設の建設も23区の中で最も数多く手がけるなど個性的だ。高橋区長に、そうした独特の街づくりの発想と手法などについて語ってもらった。
――品川区の街づくりはどのように行われていますか
高橋
品川区の街づくりの中心は、住宅政策と再開発です。都心区では著しい人口の減少が見られましたが、その現象が周辺区にも広がっており、品川区でも39年から40年頃は42万人だったのが、現在は31万6千人になっています。
――定住対策として、家賃助成という政策が多くの自治体で行われていますね
高橋
家賃補助はいま11区ほどで行われていますが、品川区は、一切行っていません。“補助金の切れ目が縁の切れ目”になりかねませんからね(笑)。だから、あくまで住宅建設を中心とし、平成12年までに900戸を目標に整備を進めており、現在、建設型が38戸、借上型が127戸(8団地)が出来ています。
また、住宅施策の一環として区では100億円の住宅基金を確保しており、その利息で住宅施策を進めています。その基金を設置したのはバブル経済の最中でした。景気が良いといっても永久に続くのではないから、短絡的にばらまくのではなく、むしろ蓄積をしておいて、景気が悪化した時に備えようと考えていたのです。
その頃は平均金利が7パ−セントでしたから、年間7億円の収入がありましたが、現在は0.5パ−セントで5000万円そこそこです。それを活用して住宅の借り上げや建設を行い、家賃の設定も、一定の幅をもたせてそのなかで運営できる範囲の借り上げや建設をしなければならないと考えています。
――再開発については
高橋
品川区の場合、独自の施設整備もさることながら、むしろ再開発に力を入れています。計画段階のものも含めると20もの再開発計画があります。
品川は下町から山の手に至るまで様々な街並みがあり、お祭りにしても夏祭りから秋祭りまで、さまざまなお祭りが行われている地域です。だから、その地域に相応しい街づくりが必要なのです。
そのために最も適切な手法は再開発しかないと思うのです。ただ、日照問題が発生することもありますが、そればかりを考えていると高層建築はできません。むしろ、再開発によって公共空地も増え、狭い道路も整理されていくのですから、この手法によって街の構造を変えていかなければなりません。
人口の流失の防止策として各区とも様々な対策を講じていますが、住宅基本条例では再開発をし、事務所を造る場合、商業地域、近隣商業地域および準工業地域においては、敷地面積の50%以上、その他の用途地域においては敷地面積の100%以上の住宅をつくることが義務づけられています。それができない場合は納金制度に則った代替策がありますが、品川の場合はそれを認めていません。再開発の目的は事務所を増やすことではなく、住宅を増やすことであって、そのために事務所も付随して認めるという視点に立っています。したがって、住宅を建設できない事務所ならむしろ断っており、納金も拒否しています。
また、再開発と一口にいってもこれからは従来の拠点再開発から面的再開発に切り替えていこうと考えています。街には、事務所も必要ですが、住宅や商店、工場も必要です。それらが混在して生活できるような再開発をするということです。
再開発施工後の状況
――再開発は関係者との調整で苦労があるのでは
高橋
確かに、準備組合をつくり、都の認可を得て再開発組合を組織するまでの過程ではいろいろなトラブルもあります。しかし、私はトラブルが大きいのであれば無理に進めなくてもよいと思っています。
というのも、再開発はその必要性を各自が充分に理解しその上でお互いに話し合っていい物を作っていかなければなりません。住民のためであると同時に街のためでもあるのですから、街のためにもよく考えてもらわなければならないのです。
また、区では再開発業者、事業者と話し合いをし、商店街を作れるような方法にしてもらうよう指導しています。商店ができて、事業所、住宅もできることにより、たとえ大型店が進出してきても各テナントが負けない環境ができるのです。
――品川区は確かに商店街も多いですね
高橋
路線型の商店街が区内には多く、110もあるのです。しかもそれぞれに特徴があり努力しているところは成り立っていますが、努力不足のところはやはり櫛の歯が欠けた状態です。
商店街はいわばデパ−トを横に並べたものといえます。だから、共通の物資については共同仕入れをしたり、共同で催し物をするなど、客を呼び込む努力をしなくてはなりません。大型店が進出すれば客が集まってきますが、言い換えれば大型店が人を集めてくれるわけですから、その客を各商店街に呼び込む努力をすればいいのだと思います。
また、価格競争でかなわなければ、その代わりにサ−ビス面や商品の品質面で対抗できるはずです。そうした努力もなく、大型店が進出し客が来なくなったから店を閉めるというのでは、地域の繁栄は永久に望めません。商売は「あきない」と言いますから飽きらめずに努力すべきです。
――地域リーダーといえる若者など、活発に様々な企画を実行しているケースもあるのでは
高橋
「グリーンサイクロン」という区商連の青年部がありますが、これらが活発に活動していますね。そこで、区としてはハ−ド面の事業を通して支援をしてきました。
ただ、今後はむしろソフト面の支援をしようと考えており、催し物や客を呼びこむための活性化事業、またコンピュ−タ−の時代ですからインタ−ネットを活用するなど、そうしたソフト面に方向を転換していく方針です。
――ところで、区で公共施設を整備しそれが人を集めるという効果も期待できるのでは
高橋
その点は疑問です。公共施設とはいっても、例えば駅前に役所と銀行などができると、駅前は寂れてしまうものです。
というのも、役所や銀行は土曜、日曜日が休日で、週末の人の集まるときに閉まってしまうのです。しかも、夜は5時に店閉まいをするのですから、これでは駅前が賑やかになるはずはありません。したがって、公共施設を整備して客を呼び込むというのは難しいですね。
ただ、大井町の丸井デパートの上に「きゅりあん」という1100人規模の区民ホールを持つ総合区民会館を整備しました。私が助役だった頃、丸井に、各階が通り抜けられる構造にしてはどうかと提言しました。ところが、丸井側はこの提案を退け、あくまで単独型の施設にしたのですが、ホ−ルのイベントが終了すると、客がみな駅前の駅ビルへ直接流れてしまう。そのため駅ビルでは並ばなければ昼食もとれないほど賑わっており、反面、丸井デパートは流れを変える有効策も見いだせない状態が続いているというケースもありますね。
開発の進む天王州地区
――区の政策としては、その他に、どんな公共施設を整備していますか
高橋
品川区は、老人福祉施設ではどの区にも負けないと自負しています。4つ目の特別養護老人ホ−ムが5月にオ−プンします。これは複合施設で下が中学校、上が特別養護老人ホ−ムという構造になっています。計画当初は子どもと大人がぶつかって、お年寄りが怪我をするのではないか、お年寄りが上から物を落として子供が怪我をするのではないかなど心配する区民がおりましたが、出入口を別にしたことなどで十分対応できると考えています。物を落とすほどに元気な方はいないようです。 
9年度には、荏原2丁目に複合施設が出来上がります。下が保健所、上が特別養護老人ホ−ム、さらにその上が都民住宅というもので、8階建てです。さらに10年度は、同じく下が特別養護老人ホ−ム、上が都営住宅といった複合施設が出来上がります。区としてはこれで特別養護老人ホ−ムは6ヵ所になり、建設計画は予定通り終了します。
一方、平成12年には老健施設をつくる計画で、病院を退院してから家庭に入るまでのリハビリを通じて少しでも元気になってもらおうと、リハビリの施設を作る予定です。
ただ、問題は特別養護老人ホ−ムを作れば作るほど、待機者も増えてくるということです。よく区民に、「特別養護老人ホ−ムに入ってる人は、極楽だ。家にいる人は地獄だ。地獄をどうにか極楽にしてくれませんか」といわれます。なかなか難しいことではありますが、私としては極楽とまではいかなくとも、せめてバラ色の、希望のもてる環境整備はしたいと考えています。
そのため当面の有効策は、24時間のホ−ムヘルプサ−ビスをはじめとする地域福祉サービスを充実させていくことが、大切だと考えています。また、一人暮らしの高齢者は借家が借りられない状況もあるので、今後は高齢者住宅の整備にも力を入れていこうと考えています。

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